ある日の放課後。
「生徒会選挙……」
「もうそんな時期なのね」
職員室へやって来ていた
生徒会選挙は毎年五月から六月にかけて行われており、当選者は七月に前期の生徒会役員との引き継ぎを終えて、二学期から活動を開始する。
お嬢様学校でも進学校でもないただの女子校、そもそも生徒会という組織がなにをやっているのかすら知っている生徒が少ない。そのため、立候補するのは生徒会活動に関心があり、内申点が欲しく真面目に進学をしたい生徒だけのはずだったのだ。
「去年、私も立候補したけど」
知っていなくても立候補した涼香を除けば。
「みんな応援してくれたはずなのになぜか落選したわ」
その時の思い出にふける涼香の隣で。
「……大変でしたよ」
「なにか言った?」
ボソッと呟いた涼音の声が聞こえなかった涼香が聞き返す。
「残念でしたねー」
「と言う割にはどこか安心した表情ね?」
安心するのも当然だった。
去年の生徒会選挙は、当時二年生の涼香が立候補するとのことで学校中が大騒ぎになっていた。あの水原涼香が生徒会長に立候補したぞ、まるで漫画のような美人生徒会長の誕生だ! 的な感じでとずいぶん騒がれていたし、教師陣(体育教師と養護教諭を除く)からも「水原が生徒会長になるのならこの学校はより良くなるぞ」と、涼音や涼香の同級生達が思わず「なに言ってんだコイツら」と言ってしまうことがあったり、とにかくものすごい盛り上がりを見せていた。
そんな中、当時の二年生はもう一人の会長候補の同級生に全員投票。下級生には、今涼香がピアノのコンテストが近くて忙しい時期だから生徒会長をさせたくない、とかなんかそれっぽい理由を涙ながらに訴えて選挙に落としてもらうように不正を働いていた。涼音ももちろんその不正に加担しており、もう一人の候補者に投票した。
全ては涼香に生徒会長をやらせないため。
「先輩と過ごせる時間が減らずに済みましたからねー」
「今日はやけに素直ね」
「まあ誰もいませんから」
「それなら撫でてあげましょうか?」
「結構です」
涼音は近づいてくる涼香からさりげなく距離を取る。
「残念ね」
「またのご機会に」
そのまま涼音は背を向けて帰ろうとする。
「……生徒会長になったら涼音と一緒に授業を受けたかったのに」
涼香が漏らした呟きはバッチリ涼音に聞こえていた。
涼香は生徒会長が絶対的な権力を持つ者だと勘違いしている節がある。この発言はまだ可愛いものだ、当時の涼香は涼音が入学した年ということもあり、はたから見れば分からないがテンションが高く、もっと訳の分からないことを言っていた。仮に生徒会長になった涼香がなにをやろうと実現されることのないことばかりなのだが、涼香の名誉のため、涼音達は全力で阻止したのだった。
「先輩、今日はもう帰りましょう」
心から、涼香が生徒会長になれなくて良かったと思う涼音だった。