ある日の夜。
メッセージが届いたときに鳴る音だ。こんな時間にメッセージを送ってくるのは
眠りに向かっていた意識をなんとかこちら側に引っ張ってきて、スマホのメッセージを確認する。
『しりとりをしましょう』
『おやすみなさい』
なぜこんな時間にしりとりをしなくてはならないのか。即座に返信をした涼音は布団を被る。しかし眠りに意識が向かっている涼音はここで過ちを犯したことに気づいていなかった。
再び通知音が鳴る。
恐らく『おやすみなさい』と返信をくれたのだろう、涼音はそのまま眠ろうとした。
しかし嫌な予感がして、涼音はメッセージを確認した。
『胃潰瘍』
やってしまった。返事が返ってきても寝たことにして返さなければよかったのだ。
返してしまったらこのようになる。半分眠っていたからそこまで頭が働いていなかった。
どうしよう、このまま眠ってしまうべきか。でもそんなことを考えているうちに涼音の眠気はすっかりいなくなってしまっていた。
『海』
仕方なく涼香に付き合うことにした。
『見積書』
『よもぎ』
『銀行口座』
『ザル』
『累進課税』
『いつまでやるんですか』
『勝ち負けが決するまでよ』
『四』『わーあたしの負けですおやすみなさい』
『ンジャメナ』
「えぇ……」
思わず声を出してしまった。確かに『ん』から始まる言葉だが、しりとりのルールでは『ん』で終わると負けである。そのため、涼香が『ん』で始まる言葉を返しても、涼音の負けは変わらないのだ。
『確かにしりとりでは「ん」で終わると負けよ。でもね涼音、私のルールではそれは当てはまらないのよ』
『もう寝てもいいですか?』
『嫌よ。寂しいわ』
『なら通話でいいじゃないですか』
メッセージを返さなくてもいい通話なら、目を閉じたままでも問題無いし距離も近い。
すぐに涼香から着信がきた。涼音はすぐさま通話ボタンをタップする。
「おやすみなさい」
「ちょっと待ちなさい。それでは通話している意味がないわ」
「もー、明日学校ですよ」
「知っているわよ。それでも、少しだけ涼音の声が聞きたいのよ」
「……毎日聞いてるじゃないですか」
「そういうことではないのよ」
スピーカーから聞こえる涼香の声は眠気など一切感じさせない。
「あたし眠りたいんですけど……」
涼音も眠気は無くなってしまったが、気持ち的には眠りたい。
「仕方ないわね、それなら子守唄を歌ってあげるわ」
「え、いらない」
それは余計に眠りから遠ざかってしまう行為だ。直に歌うならまだしも、スピーカー越しなら、それはただの雑音に過ぎない。
「…………ん」
「あれ、先輩?」
突然スピーカーから涼香の寝息が聞こえてきた。
「えぇ……」
さっきまで眠気など感じさせなかったのに突然寝てしまった。涼音は困惑しながらも丁度よかったと納得して、自分もそのまま眠ることにしたのだった。