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梅雨の日にて

「ジメジメムシムシしてきましたね」


 ある梅雨の日のこと。


 涼音すずねは肌に張り付くブラウスを鬱陶しそうに剥がしながら不平を言う。


「明日から半袖に変えるべきかしらね」


 頬杖をついた涼香りょうかは、下敷きでパタパタと涼音を仰ぎながら言う。


「ですねー。これから暑くなるんだなあ……」


 思わずため息をついた涼音の前に座る涼香も、遠い目をしながらぽつりと呟く


「夏になるのね……」


 少し沈んだ涼香の声に涼音は首を捻る。


「なんか元気ないですね」

「ふやけてしまったわ」

「はあ……?」


 なに言ってるんですか? と怪訝な顔をする涼音に、少し頬を染めた涼香が恥ずかしそうに答える。


「そんな目で見ないで……照れるわ」

「えぇ……」


 まさか本当にふやけてしまったのだろうか? ふやけた状態というのはどういう状態なのか分からないが。


 とりあえず涼音は涼香の両頬をつねってみる。


「いひゃいわ」

「あれ? 水は吸ってませんね」

「ちょっと、いきなりなにをするのよ」


 両頬を押さえながら、涼香は涼音に抗議の目を向ける。


「ふやけてるのかなあって」

「そういう意味ではないのよ」

「知ってますよ」

「相変わらず意地悪ね」

「先輩にだけです」

「…………」


 むくれた涼香が涼音の両頬を手で挟む。


「なんでしゅか」

「私も涼音にだけ意地悪するわ」

「ふっ」


 鼻で笑った涼音だった。

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