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放課後の三年生の教室にて

 ある日の放課後。一応、優等生扱いされている涼香りょうかが職員室へ行っている間のこと。


「ねえ涼音すずねちゃん。涼香って普段なにしてるの?」


 ここねを上に乗せている菜々美ななみが、涼香の席に座っている涼音に話しかける。


「普段って放課後ですか? それとも休日ですか?」

「あー、そうね……じゃあ、休日の様子で」

「そうですねえ……」


 言われた涼音は、涼香との休日の過ごし方を思いだす。


「大体は昼まで寝てますね、先輩は。昼過ぎになると先輩の家に行って……ああ、先輩と一緒に寝た時は割と早起きです」

「え……?」


 一瞬固まった菜々美は、すぐに頭を振る。


「えっと、いっつも涼音ちゃんが起こしに行ってるの?」

「はい。あと、ケーキ作って持って行ってます」

「涼音ちゃんお菓子作るの上手だもんね」


 ななみの上で揺れながら、ここねは嬉しそうに微笑む。


「毎回ケーキを持って行ってる訳じゃ無いんですけど、土曜日は大体そんな感じです」

「へ、へえー。そう……」


 ここねの陰に隠れながら、菜々美が涼音の顔を覗き見る。


「それから……?」

「それからですか? ごろごろしてますね」

「そうなのね……」


 菜々美がなにか納得したかのように首を縦に振りながら呟く。


「菜々美ちゃん休日はアルバイトだもんね」

「ご、ごめんねここね! 来月は休みいっぱい取るから!」


 そんな二人のやり取りを涼音が見ていると、二人の後ろ、教室の入り口で涼香が頬を膨らましていた。


「ありがとう涼音ちゃん。涼香が戻って来たみたい」


 涼香の方を見ていないのに、涼香に気づいた菜々美が涼音にお礼を言うと、涼香が口を開く。


「涼音、帰りましょう」

「はーい。それじゃあさようなら」

「ばいばい」「気をつけてね」


 菜々美が手を挙げ、ここねが手を振って涼音を見送る。


 リュックを背負った涼音が、涼香のリュックを持って教室を出ていく。今教室に残っているのは菜々美とここねの二人だけ。


「ねえ、ここね」


 それでも、声を潜め、ここねにだけ聞こえる声で囁く。


「どうしたの?」


 それに合わせてここね声を潜めて菜々美の方へ顔を向ける。目の前の菜々美の顔が赤く染まっていた。


「今度さ、お泊りしない? その……私の……家で」


 絞り出された、消え入りそうな声がここねに届く。勇気を振り絞って発した言葉、それに返す言葉は一つしかなかった。


「うん!」


 安堵でほころんだ菜々美の顔を誰にも見られたくないと、ここねは自分で隠すのだった。



 一方そのころ。


「夕日が眩しいわね。私が盾になるわ!」


 夕日から涼音を守るようにポジションを取る涼香。


「ちょっ、先輩邪魔」


 そんな涼香を押しのけながら歩く涼音。


 そうやってわちゃわちゃしながら帰る二人であった。

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