ある休日、
「うへぇ、人が多いですね」
大きな長方形の建物の中にある魚市場には人が溢れかえっていた。真ん中に一本の通り道があり、両サイドに魚屋が数多く並んでいる。シンプルなつくりで道に迷う心配は無いだろう。
中に入ると入口から様々な魚が目に入る。
「がっちょ?」
一番手前の店でそう書かれた小さな魚を見つけて、思わず涼音は足を止める。
「がっちょがっちょ」
そんな涼音の後ろに立っていた涼香が、涼音の両腕を持つと横にパタパタと動かす。
「ちょっとやめてくださいよ」
涼音は鬱陶しそうに涼香の腕を振り払う。
「もう涼音、人が多いから手は離さないで」
そう言って涼音と手を繋ぐ。
「はあ……先輩が人ごみに流されないように、仕方なくこうしておきますね」
そして仕方なくそれを受け入れる涼音であった。