ある日のこと。
「おっきなテレビですねー」
「将来これよりも大きなテレビでスライドショーを見ましょうか」
「もっと小さなテレビがいいです」
そんな適当な会話をしながら二人は、店内の奥まで歩いていく。特に理由は無いが、なんとなく店内を一周したかったのだ。
テレビを置いてある場所を抜けると、次はレコーダーが置いてあり、その先にカメラや洗濯機、部屋の電灯などがある。
そんな店内のカメラコーナーで二人は足を止めた。
「綺麗に写るのかしら」
そう言いながら、涼香が置かれているミラーレス一眼カメラを手に取ろうとすると。
「お願いだから触らないでください」
爆発する方のコードを切ろうとした爆弾処理班を止める時のような顔をした涼音が涼香の手を掴んでいた。
「どうしてよ」
なぜ止められたのか、いまいち理解していない涼香が眉根を寄せる。
「金額見てください」
「なに……よ……これ」
涼香はゆっくりと手を元の場所に戻して涼音の後ろに隠れる。
カメラが置いてあった場所には、金額の書かれた紙が付いており、そこには六桁の数字が書かれていた。
「あたし嫌ですよ、先輩がカメラを落として弁償することになったら」
「どうして私が落とすと思っているのかしら」
そう言いながら涼香は、涼音の背中をグイグイ押して、カメラに少しでも近づけようとする。
「ちょっと押さないでくださいよ」
そんな中、涼音が身をひるがえす。
すると――。
「あっ」
そう涼音が漏らした頃には、既に涼香の身体は前のめりになっていた。幸いにも涼香が倒れかけている方向は通路になっており、カメラと一緒に倒れてしまうという大災害は避けられた。
ビターンと綺麗に転んだ涼香の姿がそこにはあった。
「大丈夫ですか……?」
恐る恐る声を掛けた涼音が、涼香を抱き起こそうと手を伸ばす。
「……痛い」
涙ぐんだ涼香の声が虚しく響く。
ゆっくりと抱き起した涼香の少し赤くなった鼻を優しく触りながら、涼音は笑いを必死にこらえていた。
「ちょ……っと、店からでましょうか……ぶふっ」
そう言って優しく涼香を店の外に連れ出すのだった。