「夏といえば……そう、こ「帰ってください」
「まだなにも言っていないではないの」
ある日の夜のこと。
「どおぉっせ、怖い話よ。って言おうとしたんでしょ?」
「あら、私の真似をしたの? 可愛いわね」
「はいはい、帰ってください」
怖い話を始められる前にお帰り頂こうと、涼音は涼香の背中を押す。
「怖い話なんてしないわよ。だから押さないで」
そう言われると押すのを止めるしかない。涼音は涼香から手を離すと僅かに警戒しながら後ろに下がり、いつ怖い話を始められても、話を止めさせることができるように枕を手に持つ。
「枕を持っている涼音も可愛いわね」
そう言って涼香はスマホで涼音の写真を撮る。
その瞬間放たれる枕。
そして落ちる涼香のスマホ。
時が止まる。床に落ちたスマホはうつ伏せになっていて、画面が割れている可能性があった。
恐る恐る涼香は手を伸ばす。そして画面を涼音に向ける。
涼音が恐ろしいものを見たような表情を浮かべる。
それを見た涼香も恐ろしいものを見たような表情を浮かべた。
きらりと光るものが涼香の目から零れ落ちる。
やがて覚悟を決めた涼香が画面を確認すると。
「無傷ね」
「はい、無傷ですね」
今日も平和な一日であった。