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涼音の部屋にて 5

「夏といえば……そう、こ「帰ってください」

「まだなにも言っていないではないの」


 ある日の夜のこと。涼音すずねの部屋に来ていた涼香りょうかは帰らされそうになっていた。


「どおぉっせ、怖い話よ。って言おうとしたんでしょ?」

「あら、私の真似をしたの? 可愛いわね」

「はいはい、帰ってください」


 怖い話を始められる前にお帰り頂こうと、涼音は涼香の背中を押す。


「怖い話なんてしないわよ。だから押さないで」


 そう言われると押すのを止めるしかない。涼音は涼香から手を離すと僅かに警戒しながら後ろに下がり、いつ怖い話を始められても、話を止めさせることができるように枕を手に持つ。


「枕を持っている涼音も可愛いわね」


 そう言って涼香はスマホで涼音の写真を撮る。


 その瞬間放たれる枕。


 そして落ちる涼香のスマホ。


 時が止まる。床に落ちたスマホはうつ伏せになっていて、画面が割れている可能性があった。


 恐る恐る涼香は手を伸ばす。そして画面を涼音に向ける。


 涼音が恐ろしいものを見たような表情を浮かべる。


 それを見た涼香も恐ろしいものを見たような表情を浮かべた。


 きらりと光るものが涼香の目から零れ落ちる。


 やがて覚悟を決めた涼香が画面を確認すると。


「無傷ね」

「はい、無傷ですね」


 今日も平和な一日であった。

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