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電車の中にて 3

「弱冷車に乗るメリットってなにがあるのかしら?」


 ある日の帰宅時、弱冷車から通常車両に移動してきた涼香りょうかは、ついてきた涼音すずねに汗と共に湧いて出た疑問を口にする。


「節電じゃないですか?」


 冷たい空気が二人の身体を冷やしてくれる。席に着き、一息ついた涼香が言い返す。


「確かに。あとはアレかしら、冷房が苦手な人用の車両とか?」

「あー、ありそうですね」

「ふふっ、褒めなさい」


 涼香が得意気な笑みを浮かべて涼音を見るが――。


「うげっ三十度超えてる」


 涼音はスマホで今日の気温を見ていた。


「無視しないでよ」


 無視された涼香の悲しい感情が伝わったのか、涼音が感情の込もっていない声音で褒める。


「わーすごいすごい」

「そう思うのなら撫でなさい」

「それは帰ってからですね」


 突き出された涼香の頭をペシペシ叩く。


「それにしても、普通の車両に乗っても夏は暑いですね」


 涼音は手をパタパタして、冷たい空気を自分に送りながら呟く。


「そうかしら? 私は少し寒くなってきたわ」

「風邪ひかないで……すね。先輩ですし」

「なるほど、そういうことね……!」

「え、急にどうしたんですか?」

「見つけたわ、弱冷車の使い方を!」


 唐突に、本っ当に唐突になにかに気づいた涼香が涼音を見る。


 なかなかの自信。度肝を抜くような使い方なのだろう。


「どういう使い方ですか?」


 僅かに期待を抱いた涼音が続きを促す。


「外との寒暖差で、身体に負担をかけないようにするためよ‼」

「あー、ありそうですね」


 秒で期待を捨てた涼音であった。

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