「弱冷車に乗るメリットってなにがあるのかしら?」
ある日の帰宅時、弱冷車から通常車両に移動してきた
「節電じゃないですか?」
冷たい空気が二人の身体を冷やしてくれる。席に着き、一息ついた涼香が言い返す。
「確かに。あとはアレかしら、冷房が苦手な人用の車両とか?」
「あー、ありそうですね」
「ふふっ、褒めなさい」
涼香が得意気な笑みを浮かべて涼音を見るが――。
「うげっ三十度超えてる」
涼音はスマホで今日の気温を見ていた。
「無視しないでよ」
無視された涼香の悲しい感情が伝わったのか、涼音が感情の込もっていない声音で褒める。
「わーすごいすごい」
「そう思うのなら撫でなさい」
「それは帰ってからですね」
突き出された涼香の頭をペシペシ叩く。
「それにしても、普通の車両に乗っても夏は暑いですね」
涼音は手をパタパタして、冷たい空気を自分に送りながら呟く。
「そうかしら? 私は少し寒くなってきたわ」
「風邪ひかないで……すね。先輩ですし」
「なるほど、そういうことね……!」
「え、急にどうしたんですか?」
「見つけたわ、弱冷車の使い方を!」
唐突に、本っ当に唐突になにかに気づいた涼香が涼音を見る。
なかなかの自信。度肝を抜くような使い方なのだろう。
「どういう使い方ですか?」
僅かに期待を抱いた涼音が続きを促す。
「外との寒暖差で、身体に負担をかけないようにするためよ‼」
「あー、ありそうですね」
秒で期待を捨てた涼音であった。