「私のことをお姉ちゃんと呼んでくれないかしら」
「先輩」
「お姉ちゃんよ」
「先輩」
「お姉ちゃん」
「先輩」
「お姉ちゃんと呼びなさい」
「先輩」
「反抗期かしら?」
「なんで呼ばないとダメなんですか?」
ある日のこと。
なぜそんなことをしているのか、特に理由は無い。
「なんとなくよ!」
「えぇ……」
涼音は読んでいた雑誌をローテーブルに置く。そして自分を後ろから抱きしめている涼香の顎を頭でぐりぐり攻撃する。
「もうっ……、最近それ流行っているの?」
涼音の頭から顔を離しながら、涼香は身体を左右に揺らす。涼香の身体から揺れると一緒に涼音の身体も左右に揺れる。
やがて疲れた涼香が動きを止めると、ふにゃふにゃになった涼音が全体重を涼香に預ける形となった。
「ほら、お姉ちゃんと呼んでみて」
「先輩」
「……」
頑なにお姉ちゃんと読んでくれない涼音に、涼香は悲しくなってきた。
「……どうして」
「え?」
「どうしてお姉ちゃんと呼んでくれないのよ! 私と涼音の仲ではないの‼」
涼香の心の叫びを耳を塞ぎながら聞いている涼音はやがて観念したらしく、クソデカため息の後ボソッと一言。
「……お姉ちゃん」
「誰に向かって言っているのかしら? お姉ちゃんの方を見ながらそう言いなさい!」
瞬間放たれる涼音のナチュラル舌打ち。
「反抗期……⁉」
恐ろしいものを見たような表情を浮かべる涼香であった。