ある日の夜。
「うぐっ――す、涼音っ」
ドアの外で
なにをそんなに慌てていたのだろうか? 涼音は首を捻りながら部屋のドアを開ける。
「大丈夫ですか?」
部屋の前に横たわる涼香は、強大な敵の攻撃から弟子を庇った師匠のよう。
「あ……あなたといた十六年……わ……わるく……なかったわ……」
そんな涼香の言葉を無視して、ずりずり部屋の中へ涼香を運ぶ涼音であった。
「で、なんでそんなに慌ててたんですか?」
ベッドに陣取った涼香に聞く。
「涼音に早く会いたかったからよ」
「そですか」
「素っ気ないわね」
「いつも通りですよ」
そう言って涼音は涼香を枕で叩く。
「てかなんであたしのベッドに陣取るんですか」
「ベッドが私を呼んでいたのよ」
顔をしかめる涼音に対して、涼しい顔で答える涼香。
やがて涼音はため息をつくと、涼香の隣に腰を下ろす。
するとそれを待っていたのか、涼香が真剣な顔で涼音の顔を見る。
「……なんですか」
なにか真剣な話でもあるのだろうか。
少し怖いなあ、と思いながら涼音もまっすぐ涼香を見つめる。
「愛してる」
「あ、はい」
唐突に告げられた「愛してる」という言葉に、涼音は言葉を失うわけでも照れたりする訳でもなく、なにを今更、と言った風に答える。
「……」
「……?」
固まって動かない涼香に怪訝な顔をしながら、なんとなく熱でもあるのかと、涼音は涼香と額をくっつける。
「熱は無いわよ」
「ですよね」
涼香は突拍子もなくこういうことをやる人だ、だから熱は無い。
「おかしいわ……」
「なにがですか?」
「ここねがこれを
「えぇ……、私を爆発させようとしてたんですか?」
すると涼香がおもむろに立ち上がり、髪の毛を払う。
「着替えを取りに戻るわ!」
無視。見事なスルーである。
「えぇ……」
その場に取り残された涼音は、人前で言われたら嫌だなぁと、重たい息を吐くのだった。