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涼音の部屋にて 7

 ある日の夜。涼音すずねが部屋でだらけていると、部屋の外から階段を駆け上がる音がドタドタドタ――ガンっと聞こえた。


「うぐっ――す、涼音っ」


 ドアの外で涼香りょうかが声を絞り出していた。


 なにをそんなに慌てていたのだろうか? 涼音は首を捻りながら部屋のドアを開ける。


「大丈夫ですか?」


 部屋の前に横たわる涼香は、強大な敵の攻撃から弟子を庇った師匠のよう。


「あ……あなたといた十六年……わ……わるく……なかったわ……」


 そんな涼香の言葉を無視して、ずりずり部屋の中へ涼香を運ぶ涼音であった。



「で、なんでそんなに慌ててたんですか?」


 ベッドに陣取った涼香に聞く。


「涼音に早く会いたかったからよ」

「そですか」

「素っ気ないわね」

「いつも通りですよ」


 そう言って涼音は涼香を枕で叩く。


「てかなんであたしのベッドに陣取るんですか」

「ベッドが私を呼んでいたのよ」


 顔をしかめる涼音に対して、涼しい顔で答える涼香。


 やがて涼音はため息をつくと、涼香の隣に腰を下ろす。


 するとそれを待っていたのか、涼香が真剣な顔で涼音の顔を見る。


「……なんですか」


 なにか真剣な話でもあるのだろうか。


 少し怖いなあ、と思いながら涼音もまっすぐ涼香を見つめる。


「愛してる」

「あ、はい」


 唐突に告げられた「愛してる」という言葉に、涼音は言葉を失うわけでも照れたりする訳でもなく、なにを今更、と言った風に答える。


「……」

「……?」


 固まって動かない涼香に怪訝な顔をしながら、なんとなく熱でもあるのかと、涼音は涼香と額をくっつける。


「熱は無いわよ」

「ですよね」


 涼香は突拍子もなくこういうことをやる人だ、だから熱は無い。


「おかしいわ……」

「なにがですか?」

「ここねがこれを菜々美ななみにやったら、菜々美が爆発してしまったらしいのよ」

「えぇ……、私を爆発させようとしてたんですか?」


 すると涼香がおもむろに立ち上がり、髪の毛を払う。


「着替えを取りに戻るわ!」


 無視。見事なスルーである。


「えぇ……」


 その場に取り残された涼音は、人前で言われたら嫌だなぁと、重たい息を吐くのだった。

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