ある休日の昼下がり。
「ありがとう
「
「別にお礼なんていいわよ」
「
「寝たから! ちゃんと七時間寝たから!」
「あら、可愛いところもあるのね」
そんな感じで、キャッキャ騒ぎながら四人は進む。
以前夜景を見に行こうと提案した通り、今日は夜景を見に行く予定だったのだが、夜になるまで菜々美の運転でブラブラしようということになったのだった。
バッチリ初心者マークの貼られた五人乗りの乗用車。まだまだ運転に慣れていないため、そこまで遠くに行けないが、普段電車移動の涼香や涼音にとっては近場でも、電車で行きづらい場所なら気にならなかった。
「それで、どこに向かってるんですか?」
「「「……」」」
「なんで黙るんですか?」
「涼音」
静まり返った車内で、涼香が涼音の肩に手を乗せる。
「ドライブというのは無計画にするものなのよ」
「いやそうでしょうけど、さすがにこのまま夜まで車で過ごすというのは柏木先輩もしんどいですよね?」
「涼音ちゃんの言う通り、菜々美ちゃんはまだ運転に慣れないないもんね。ごめんね、菜々美ちゃん」
ここねが表情を暗くする。
「ここねは謝らないで!」
ここねはこう言ってくれるが、今日早めにドライブに行こうと言ったのは菜々美だ。みんなで出かけるのが楽しみ過ぎたため、前日に急遽連絡したのだ。
「どこまでなら行くことができるの?」
そんな中、涼香がどこへ行こうかとスマホ片手に菜々美へ声をかける。
「右折しない場所ならっ」
「あっ、ケータイショップがありますね」
「菜々美、機種変したいわ」
「二人一斉にボケないでっ」
左手に見えるケータイショップを通り過ぎながら菜々美は切羽詰まった声を上げる。
「あっ」
すると涼音がなにか思いついたのだろう。そういえば、と前置きをして話し出す。
「あっちのショッピングモール行きたいです」
「あっちのショッピングモール?」
いまいちピンとこない菜々美が涼音に聞き返す。
「あたし達の最寄り駅と学校までの間にあるショッピングモールあるじゃないですか?」
「私達がよく寄り道している場所ね」
涼香や涼音とは逆方向に住んでいる菜々美でもその場所は知っている。
「うん」
「学校とは反対方面にもあるんですよ。そっちは割と新しめのショッピングモールなんですよね」
「私達が中学生の頃にできたはずよ」
「あっ、それってここのことかな?」
ここねがスマホの画面を二人に見せる。涼香と涼音はここねのスマホの画面を覗き見た後頷いた。
「そこですそこです。ここなら割と行きやすいと思いますし、駐車場も広いので大丈夫かなと」
「え、どこ? 私見えない」
菜々美が泣きそうになりながら左車線を制限速度で走る。どこにも曲がることはできずにただひたすら突き進んでいた。
「わたしがガイドするね」
二人に場所の確認を取ったここねがスマホのマップを見て、目的地までの指示を出す。
「次の信号で右だよ」
「ここね⁉」
右折はしたくないと言ったばかりの気がするが、ここねは容赦なく菜々美に右折させようとする。
免許証を持っているため、別に右折できないことはないのだが、それでも慣れないうちは怖い。
「ほら、菜々美ちゃん! 安全確認して車線変更!」
菜々美は恐ろしいものを見たような表情を浮かべる。
「菜々美、右折しなさい」
「頑張ってください!」
ここまで言われてやらない訳にはいかない。逃げてばかりでは一向に上達しないし、いずれはここねと二人で、遠くまでドライブデートをやりたいのだ。たかが右折如き、スイスイ〜とできるようにならなければならないのだ!
「私……やるわ!」
覚悟を決めた菜々美は、指示された信号には間に合わなかったので、次の信号で右折しよう車線変更をする。
「あー、行き過ぎちゃった」
「うぐっ」
「でも安心して菜々美ちゃん。次の信号で曲がっても大丈夫だから」
「ここね……」
「判断が遅いわね」
「静かにして」
「頑張ってください」
「うん、ありがとう」
そして、遂にその時はやってきた――。
右折レーンになんとか入った一行。信号は青だが、対向車線から車がひっきりなしに通るため、まだ曲がることが出来ない。
そんな中、信号機を見た菜々美。
「ふふっ、この勝負、私の勝ちよ」
「菜々美ちゃん?」「遂におかしくなったのかしら?」「なんか先輩に似てますね」
突如として勝ち誇る菜々美に、三者三様の反応を返す涼香達。
「ほら見て! 矢印があるわ!」
菜々美が指さした先にあるのは、信号機の下に付いた矢印のやつである。あれがあれば、なんの緊張もせずに右折することができる。勝ち確である。
やがて赤信号に変わると、緑の矢印が点灯する。対向車線も、歩行者用信号も赤である。
「私の! 勝ちよ!」
前の車に続いて、テンションは高いが慎重な運転で右折を決める菜々美であった。