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涼音の部屋にて 9

 ある日のこと。


「ねえ涼音すずね、手を出して」


 涼香が唐突にそんなことを言った。


「はい」


 スマホをいじっていた涼音は、特になにも考えずに手を出す。


「ふふっ、綺麗ね」


 差し出された涼音の左手を優しく撫でまわし、綺麗に手入れをされている爪を見てそう呟く。


「それはどーも」

「食べちゃいたいぐらいね」

「なに言ってるんですかぁっ――‼」


 涼香が指をくわえていた。


「ちょっと! なんでくわえるんですか!」


 涼音が文句を言うと、涼香は指をくわえるのを止め、髪の毛を払う。


「食べたくなったからよ」

「理由になってませんよ!」


 くわえられた指を守りながら涼音は涼香を睨みつけるが、涼香は全く悪びれもせずに答える。


「食べちゃいたいと言ったではないの」

「言ったではないの、じゃありませんよ!」

「なにをそんなに怒っているのよ」

「怒ってませんよ!」


 クワっと涼香に噛みつこうとする涼音。どこからどう見ても怒っていた。


「あら、そういうこと。仕方ないわね、私の指を食べさせてあげるわ」


 なにか納得したらしい涼香は、自分の手を涼音の目の前に差し出す。


「いったい‼」


 指に噛みついた涼音と目が合った。


 涼香はちょっぴり泣きそうだった。

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