ある日のこと。
「ねえ
涼香が唐突にそんなことを言った。
「はい」
スマホをいじっていた涼音は、特になにも考えずに手を出す。
「ふふっ、綺麗ね」
差し出された涼音の左手を優しく撫でまわし、綺麗に手入れをされている爪を見てそう呟く。
「それはどーも」
「食べちゃいたいぐらいね」
「なに言ってるんですかぁっ――‼」
涼香が指をくわえていた。
「ちょっと! なんでくわえるんですか!」
涼音が文句を言うと、涼香は指をくわえるのを止め、髪の毛を払う。
「食べたくなったからよ」
「理由になってませんよ!」
くわえられた指を守りながら涼音は涼香を睨みつけるが、涼香は全く悪びれもせずに答える。
「食べちゃいたいと言ったではないの」
「言ったではないの、じゃありませんよ!」
「なにをそんなに怒っているのよ」
「怒ってませんよ!」
クワっと涼香に噛みつこうとする涼音。どこからどう見ても怒っていた。
「あら、そういうこと。仕方ないわね、私の指を食べさせてあげるわ」
なにか納得したらしい涼香は、自分の手を涼音の目の前に差し出す。
「いったい‼」
指に噛みついた涼音と目が合った。
涼香はちょっぴり泣きそうだった。