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お風呂にて 3

 涼音すずねに背中を流された涼香りょうか


「今日は前に行ってください」


 涼音が後ろに下がり、涼香の入るスペースを開ける。


「なんですって⁉」


 自分の身体を抱きしめる涼香。脇腹が弱い涼香は、涼音にくすぐられるのではないかと警戒をしている。


「別にくすぐりませんよ」


 別に涼香をくすぐる気のない涼音は適当に返す。


 その適当さが涼香の警戒を解いたのだろう。転ばないようにゆっくりと湯船に入ってくる涼香。


 ちゃぷん、と涼香が入ると、涼音の首元まで水位が上がる。


「いい湯ね」

「そですねー」


 そんなことを言いながら、涼音は前にいる涼香の身体を引き寄せる。


 抵抗なくもたれてくる涼香の肩に顎を乗せた涼音が目を閉じる。


「どうしたの?」


 腰に手を回されないように、涼音の手を握って支えながら、涼香は優しく問いかける。


「別に……疲れただけですよ」

「そう……」


 背中を涼音の鼓動が叩いているのが分かる。涼香は心地よさを感じながらただ黙って涼音に身を預ける。


 涼音は、お湯の温かさとはまた違った、涼香の体温を全身で感じる。


 軽く息を漏らすと、涼香の手を握り返す。抜けていった疲れの代わりに安心が入ってくる。


 そうやってしばらく、互いに無言のまま、同じ時を過ごすのだった。

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