ある日の夜のこと。
「暑いわね。暑いと言えば怪談ね」
「暑いと言えば階段って、なに言ってるんですか?」
なにを言っているのか解るが、解りたくない
「それはかいだん違いよ。私が言っているのは怪談よ、怖い話よ」
「あたしそんな階段知りませんよ。ほんとなに言ってるんですか?」
「どうして汗をかいているのかしら、暑いの? 涼しくなる?」
冷や汗をダラダラ流しながら頑張ってとぼける涼音。
ここが涼香の部屋なら、すぐに出ていけばいいだけなのだが、残念なことに、ここは涼音の部屋である。部屋の主として出ていく訳にはいかなかった。
「べべべ別に汗なんかかいてないですよ」
だから頑張って平静を装う涼音だったがふと思う。
――嫌がっても平静を装っても涼香が怖い話を始めるには変わりないのでは? と。
会心の閃き。そうに違いない。自分の閃きに確固たる自信を持つ涼音。
そうなればやることは一つ。全力で嫌がる。
「熱中症になるといけないわ。そうね、これはかなり昔の話よ、日本のとある村で起きた凄惨な――」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
涼香をポカポカ叩く涼音であった。