「私は帰るわね、さようなら。先生もさようなら」
早く帰って涼音のご飯を食べたい。この前はアレだったが、今日は手作り料理を用意してくれているはずだ。
しかし――。
「合格したんだ。あんた」
「あなたは⁉
「ああもういいから! 二回目はいいから!」
明らかに不機嫌と分かる表情の
「こんにちはー、
そんな彩の後ろから、ひょっこりと顔を覗かせた
「あら、あなたは夏美ね」
「なに気安く――」
彩が涼香に噛みつこうとしたが、それを遮るように。
「ああああああの水原先輩に名前を覚えていただけるなんてぇぇぇぇぇ!」
夏美はよく分からないダンスを踊るように、手をわちゃわちゃ動かしている。恐らく喜んでいるんだろう。
「落ち着け夏美、こいつは関わったことのある人間の名前全員憶えてるから」
「全員ではないわよ。同級生と、涼音と関わりのある人だけよ」
ということは二年生で名前を憶えているのは、涼音の他には夏美だけ、ということになるのだが、夏美も彩も、涼音すらもそれは知らない。
「知らん」
「知りなさい! 甘えないで! 私は早く帰りたいのと言いたいところだけど涼音の話を聞かせてもらえるかしら!」
「えぇ……」
捲し立てる涼香の迫力に若干引き気味の彩である。
「
それに対して乗り気の夏美である。
二人はがっちり握手。怒涛の展開についていけなくなった彩は、夏美をこの
しかし、彩の学年トップクラスの頭脳を使う必要は無かった。
突如涼香のスマホから通知音が鳴り、涼香はワンコールでそれに出る。
「どうしたの涼音」
「えっ、檜山さん!」
顔を輝かせる夏美を見ると、なぜか胸のあたりがもやもやする彩であったが、話していくにつれ、表情が暗くなっていく涼香を見ると、そのもやもやが吹き飛んでいく。
「……ええ……でもね、私は涼音の話を聞きたいの……でもこれは涼音が可愛いからであって……意地悪……分かったわ……帰るわよ、手料理を用意して待っていて……ええ……ではまた。――ごめんなさい、帰らないといけなくなったわ。また今度涼音の聞かせてね」
「あ、はっはい!」
そう言って涼香はその場を後にしようとし、なにか思い出したかのように振り返る。
「涼音のこと、よろしくね」
そう言った涼香の姿は、いつもぶん殴りたくなるはずなのに、そんな感情すら湧いてこない。ただ
まあ、その言葉をかけられている夏美は、そんなことに気づいていないだろうけど。
「はい!」
少し妬いてしまう。やっぱり顔を顰めてしまう彩であった。