関係が変わると、日常の光景も少し変わるらしい。
「あっ、おはよう晃生くん」
朝の登校。通学路をのんびり歩いていると日葵とばったり会った。
「こんなところで会うだなんて偶然ね」
「嘘つけ」
「うふふ」
穏やかな風が彼女のピンク髪をなびかせる。俺に向ける目は愛情で満ちていた。
日葵の家の位置を考えると、こんなところで合流するわけがない。俺を迎えに来たところだったんだろうな。
「今日は早いのね。いつもならもっと遅くに家を出ていたと思うのだけど?」
「たまには早起きすることもあるさ」
「私に早く会いたかったんじゃなくて?」
「……もしそうだったら?」
日葵は笑顔で俺に抱きついた。勢いはあったが、郷田晃生の筋肉質な身体なら楽勝で受け止められた。
日葵が……、日葵たちが俺の女になってからというもの、素直に好意をぶつけられるようになった。
原作とは別のまっとうで正しいルートを目指したつもりなのに、結局はヒロインと共にいる。だが、それをいけないことだとはもう思わなかった。
「あふっ……晃生くん♪」
日葵の華奢な身体を抱きしめ返す。細っこい身体のくせして、押しつけてくる胸の感触はとても豊かだ。
ヒロインが巨乳なのは原作者の好みなのだろうか? 日葵はもちろん、羽彩やエリカもかなりのモノをお持ちだ。どれほどすごいか、身をもって味わった。
どんな男でも魅了するであろう身体つき。それを存分にアピールされて、平常心を保つのは至難の業だろう。
「……学校に行くか」
日葵から身体を離す。滅茶苦茶名残惜しさが込み上げてきたが、さすがにいつまでも外で抱き合っているわけにはいかなかった。
「ねえ……少しくらいなら良いでしょう?」
何が、とは聞き返さなかった。
日葵のぷっくりとした唇が少しだけ開き、切なげに吐息を漏らす。ただそれだけのことがエロく感じてしまった俺は悪くないはずだ。
なぜなら、誘惑しているのが彼女だからだ。
「これから学校だぞ?」
「まだ時間に余裕があるわ。遅刻しなければ平気よ」
「それが優等生のセリフかよ」
「ふふっ。誰かさんのせいで悪い子になってしまったのかもね」
悪びれもせず笑う日葵に、俺は説得するのを諦めた。
朝っぱらからどうかしている。そう思いながらも適当な場所を探している自分がいた。
「日葵、こっちに来い」
「うん♪」
俺はエロ漫画の住人だ。そして、この現実を生きる人間だ。
……とりあえず、今はエロ漫画みたいな行為にふけるとしよう。ヒロインがお望みなのだから仕方がないってことで。
◇ ◇ ◇
郷田晃生の夢を見てから、下半身の熱が暴走する気配がなくなった。
あの夢を見たからなのか、ただ単にスッキリする頻度が増えたからなのか。タイミング的にはどちらとも言えた。
まあ今朝もスッキリさせてもらえたし、今日も一日万全の体調で過ごせるだろう。
「よう羽彩。おはよう」
「あう……。お、おはよう晃生……」
なんとか遅刻せずに登校できた。自分の席に座って羽彩にあいさつをすると、彼女は顔を真っ赤にしてぽしょぽしょと小声であいさつを返す。
金髪ギャルは恥じらいを持つ乙女のような反応である。まるで好きな人に突然話しかけられた人見知り女子のようだ。って言うのは意地悪になるか。
あの日、羽彩は日葵と共に俺の女になった。
ずっと恥ずかしがってばかりの彼女だったが、快楽で意識を飛ばしてからは俺でも驚くほど求めてきた。あのエリカが驚くほどだったのだから、相当なものだろう。
そして羽彩が再び目を覚ました時、正気に戻ったみたいに恥ずかしさで悶えてしまった。経験者になったとは思えないほどの純情っぷりであった。
「昨日もしちまったが、身体は大丈夫か?」
「大丈夫っていうか……その、えっと……うぅ、晃生のバカ」
赤面した金髪ギャルは涙目になって睨みつけてきた。睨まれて可愛いと感じてしまう俺は正常で間違いない。
無造作に羽彩のサイドテールを撫でる。女の髪に無断で触ったにもかかわらず、彼女は表情に喜びを表してくれて、ついその小さな顎に触れてしまった。
「はうぅぅぅぅ~~」
顎の下をこちょこちょと撫でてやれば、羽彩はだらしなく表情を緩ませた。犬のように尻尾をブンブン振っているような姿を幻視してしまう。
愛くるしい彼女に、下半身がピクンと反応する。おいおい、さっきスッキリしたばかりだろうが。
落ち着いてきたかと思ったが、やはり暴れん坊が簡単に大人しくなるわけがないか。羽彩とじゃれるのを止めて、授業の準備をしておく。
「晃生ぉ……」
切なそうな羽彩の声。犬が悲しそうに鳴いているみたいに聞こえて、無視することはできなかった。
「また後でな」
俺がそう言った時に浮かべた羽彩の笑顔ったらもう……。後で全力で可愛がらなければという使命感が芽生えるのに充分な破壊力だった。
◇ ◇ ◇
そんなこんなで、少しだけ日常の変化を感じていた。
「おい郷田」
そんな俺に近づく影。まあ郷田晃生に話しかけてくる奴なんて数える程度だけどな。
その数少ないクラスメイト。野坂純平が腕を組んで仁王立ちしていた。