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41.褒められると嬉しい

「午後もがんばってこーーっ!!」

「「「おおーーっ!!」」」


 円陣を組んで声を出す。こんなことにどんな意味があるのかと思っていたものだったが、一致団結した感があってみんなの熱が伝わってくるようだ。よーし、燃えてきたぁーーっ!!

 体育祭を通じてクラスメイトと仲良くなれた。円陣を組む時、普通に誘ってもらえたのが嬉しくてちょっと泣きそうになったのは内緒だ。だってさ、少し前まではクラスの輪の中に入れなかったんだもんよ。


「郷田くん、なんだか嬉しそうですね」


 黒羽がニコニコしながら話しかけてきた。


「まあな。この青春しているって感じがたまらないんだよ」


 くすっと笑う黒羽。抽象的で変なことを言っているって自覚はある。

 ただ、この気持ちをどう言葉にすればいいのかわからなかった。わからない心地良さ含めて「青春」ってことで良いのだと思う。


「午後は学年対抗リレーがありますもんね。優勝がかかってますし、あたしも全力で応援しますよ」

「おうよ。応援よろしく頼むぜ。俺も気合い入れてがんばるからよ」


 力こぶを作って自信があるとアピールする。ムキムキの筋肉を見たからか、黒羽は「期待できますね」と言いながら俺の二の腕を触った。


「ふぇっ!? すごいカチカチですね。うわぁ……郷田くんのってこんなにも硬いんですね……」

「黒羽は柔らかそうだもんな。男の筋肉はあまり触ったことがないか?」

「あまりというか全然……。でも郷田くんのは硬すぎるんですよ。だって見た目からしてグロテスクじゃないですか。ほら、ピクピクしていますし」

「そ、そうか?」


 グロテスクと言われたのは初めてだ。まあアスリート体型が苦手という女子もいるらしいし、筋肉質な男の肉体をグロテスクに感じてしまう女子がいてもおかしくないのだろう。

 だがしかし、グロテスクと評した割には俺の二の腕から手を離さない黒羽。彼女の眼鏡がキラリと光り、確かめるように両手で腕を挟まれる。


「太い……。あたしのじゃ全然足りないですね」

「黒羽の手は小さいからな。指を伸ばしたって俺の腕に回り切らないだろ」

「でも、段々と癖になってきました。不思議と嫌じゃない感触です……。あっ、またピクッて動いた……」


 小さな手で俺の二の腕の弾力を確かめていた。彼女の目は好奇心で輝き、いろんな角度から筋肉を押し込んでくる。


「もしかして、黒羽は筋肉フェチか?」

「えっ!? あ、いや、そういうわけではないと思うんですけど……」


 黒羽は慌てて手を離す。夢中になっていたのだろう。彼女は恥ずかしそうに頬をかく。


「すみません……。初めて触ったものですから、好奇心に負けてしまいました……」

「気にするな。まあ父親のでもここまで筋肉はないだろうからな」


 再び俺はムンッ! と力こぶを作る。黒羽が喜ぶかと思ったのだが、彼女はうつむいてしまった。


「あたし、父親がいないんでわからないんですよね……」

「あ、悪い……」


 まさかの地雷である。知らなかったとはいえ失礼なことを言ってしまった。

 こういう情報は原作になかった。まあエロ漫画の登場人物で家族構成が明らかになる方が少ないか。父親ならなおさらだ。


「梨乃ちゃん、私もリレーに出るからしっかり応援してね」

「きゃっ!? も~、そんなの言われなくたってわかっているよー」


 気まずくなりかけた時、突然現れた日葵が黒羽を後ろから抱きしめた。驚いていたが、相手が親友だったからかすぐに笑顔になる。

 助かった。日葵のおかげで悪い空気がリセットされた。ウインクしている日葵を見るに、本当に助けられたようだ。

 気の利く日葵に感謝だ。……なのだが、日葵が黒羽を抱きしめたことにより、小柄ながらも大きく実った果実が強調されていた。やはり女子の体操服姿は思春期男子には目に毒だ。日葵にマジ感謝!



  ◇ ◇ ◇



 俺と日葵はリレーを男女共に一位に導いた。

 あまり語ることはない。郷田晃生のチートボディはリレーでもいかんなく発揮されたことと、日葵の美脚が輝いていたくらいしか語れない。走っているポニテ美少女って素晴らしいと思いました!


「おおっ! ごぼう抜きするなんてすげえよ郷田!」

「あの追い上げは感動したわ!」

「白鳥さんもすごかったよな!」

「ああ! あの美しくも張りのある脚がなんとも……」

「バカ! そうじゃなくて脚が速かったよなってことだろ。俺らまであの美脚に見惚れてたってばれたらどうしてくれんだ!」

「俺はむしろおっぱいが揺れてた方に視線が吸い寄せられたんですが……」

「だから黙ってろっての!!」


 リレーを終えた俺たちをクラスメイトが囲んで褒めそやしてくれる。すごく嬉しいが、日葵を性的な目で見ていた輩は後で体育館裏に集合な?


「晃生は良いなー。みんなから褒められてー」


 クラスメイトの輪から抜け出すと、なぜか羽彩が唇を尖らせていた。

 彼女の手にはちょっとお高めのアンパンがあった。パン食い競走の景品だ。

 リレー前のパン食い競走を、羽彩は見事一位でゴールしたのだ。俺から見ても芸術的な動きでパンを取っていた。

 だが、目玉の学年対抗リレーがすぐに始まったこともあり、羽彩はろくに褒められなかったらしい。俺もリレーで待機していたからな。何も言ってやれていない。


「一位なんてすごいぞ羽彩。よしよし、たくさん撫でてやろう」

「わーい♪」


 羽彩の機嫌は直ったようだ。相変わらずチョロ……素直で可愛いぜ!

 俺と日葵、ついでに羽彩の活躍もあって体育祭を優勝という最高の形で終えられた。

 今日はとても良い日になった。みんなと仲良くなれて、体育祭で活躍できて、まさに最高の青春だ。


 ──ここで今日という日を終えられたら言うことなしだったのに、それを許してくれない奴が約一名いたのであった。

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