忙しなく部屋から退出したクムト様を見送り、アルは肩を
「あいつ、いつもああなんだ。人の心配はしつこいくらいにするのに、自分がその立場になるとすぐ逃げる。僕達だって、ずっと子供のままじゃない。いつまでも守られてばかりじゃ嫌なのに」
今日の訪問も、きっと私達を心配して来てくれたのだろう。アックティカに関しては陛下にも当然報告しているはずだから、遅かれ早かれ軍議の際に共有される。それをこうして、直接訪ねてくれた。そして多分……。
「適当な奴だけど、父上も、お爺様も、みんなクムトが好きなんだよ。つい憎まれ口叩いちゃうけど、僕もそう。だからシーアと再会して幸せになってほしいし、心から笑ってほしい。あいつの笑顔は痛くて、辛い……」
アルは私の肩に頬を預け、耐えているようだった。流れる金の髪を撫でながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「クムト様も、皆がお好きなのでしょうね……。開戦のあの日、軍議でお茶を運んできた下位の騎士にお声をかけていらっしゃいました。お名前を呼んで、お子様のお話を楽しそうに。私もできるだけ覚えようとしていますが、まだまだ未熟だと思い知ったんです」
小さく笑うと、アルは不思議そうに顔を上げる。きらきらと輝く瞳は、まだ幼さを残していた。『そんな前の事、覚えてるの……?』と、ちょっと
この激動の時代に、王太子となったアル。それは死と隣り合わせの、そして残し残される道。もしかしたら、クムト様はご自分を重ねているのかもしれない。
「ただ長生きしただけで賢者にはなれません。他の名を遺す方々も短命であれど、何かを成し遂げたからこそ賢者、そして英雄と呼ばれるのです。ね、アル。二人でクムト様を支えましょう? 王として、王妃として。いつか必ず訪れる福音を、皆で喜べるように」
驚いたように瞳を
「クムト様も、貴方も、ひとりじゃありません。どうか頼ってくださいませ。私には、貴方も泣いているように見えます。知っているんですよ? 私との時間のために、どれだけ頑張っているか、どれだけ自分を責めているか」
そっとアルを胸に抱き、頭上に口付けを落とす。
愛しい、愛しい、私のアル。
「
胸に
その度にこうして抱きしめ、背中を
しばらくは大人しく抱かれていたアルだけれど、何かに気が付き、不意に声を上げる。
「あれ……? いつもの香水は? なんか香りが違うような……」
その反応に、私はネフィと視線を交わした。