数十秒後龍の言った通り、ライオンが消し炭になる。
二人を包んでいた炎の壁は消え去りそこら中に何かの燃えカスが散乱していた。
「ふう!退治完了だね!いやー、ゲームもここまで進化してたんだね!さて魔法を見るチュートリアルはこれで終わりかな?まあゲームにしてはすこし炎が熱かった気がしたけど。そこは気にしない!」
(一番気にするところだろ)
「お前…、ここまでの現状でお前なりに分かったことを話してみろ」
「この世界はVRMMOで!私は恐らくそのゲームでクローズドベータのテスト参加者である!なんで裸なのかはさておき。まあプログラムが間に合ってないとかそんなところでしょ!どうよ」
「………」
龍はもはや呆れてものが言えなかった。
(こいつ的にはこれで精いっぱいなのかもしれんな、しょうがない。今までもこんな奴はいたけどここまで引きずる奴は初めて見た)
「じゃあ、状況を一つずつ説明してやるその前にとりあえずテストだお前の名前を教えて見ろ」
少女はさらに目を輝かせた。
(ついに!キャラ登録か!しかしゲームにて本名はご法度!でもアスナは本名使っていたけど、でも本来ならだめだ。ならここは)
「メイリンで!」
「……それ日本人の名前か?聞いたことがないな。うーん、それじゃ試にだがお前の本名、名字から言ってみろ、言えるならな」
「はあ?日本人なら苗字ぐらい、苗字は……」
名字を口から言おうとした瞬間、少女は固まった。
思い出せないのだ。
「あれ?……分からない!思い出せない!なんで!」
少女は下から崩れ落ちる。
もう自分が服一枚しか羽織っていないことにはどうでも良いようだ。
「まあ戸惑うもの無理はない。だが下の名前は思い出せるはずだ」
「あ、ありす。私の名前は【アリス】!やった!思い出せた!でもなんで下の名前だけ?おかしくない!?」
(…あ、ありす。メイリンよりも日本人から離れた気がするが、まあ本人の反応から察するに。本当の名前だろう)
「それがこの世界における【転生者】【識人】の仕様だ、気にするな。まあアリス、君の置かれている状況とこの世界については直ぐに話す。だが、今はここから即刻離れる」
「なんでここでも良いじゃん!何か不都合でも?」
「また襲われたいか?」
「あ…、いや…、うん…。移動しましょう」
アリスはこの場所の置かれた状況を考えた結果移動することに決めた、が。
「ちと待てーい!」
すぐさま、龍を呼び止めた。
「なんだ?いいか?話はするが時間がかかる、その場合ここではまた奴らに襲われる危険が…」
「そういうことではないんじゃ!服を着させろ服を!この格好で山の中を歩かせる気っすか!裸足だよ!ほぼ全裸だよ!あ、まさかのそういうプレイ…」
「あ、忘れてた」
最後のプレイという言葉に少々疑問を覚える龍だが、カバンの蓋を開くと中から女性ものの服を出し始める。
(まあ、着替えるだけならそう時間はかからないだろう。俺としては早くここを発ち去りたいんだが)
アリスは、小さいカバンから服が出てくることに軽い違和感を覚えるが、それよりも男性のカバンから女性の服が出てくることの気味悪さの方が勝った。
「まさかですけど…、そういう趣味なんですか?ま、まあ人にはいろんな趣味がありますもんね!しょうがないですよね!ははは」
(目的地に着くまでは黙っとくか……精神が持たん)
龍はもう反論を諦めた。いや、諦めたというより疲れたの方が正しいだろうか。
龍と服を着たアリスは山の軽く舗装された道を歩いていた。
龍は持っていた懐中時計と地図を見ながら、アリスは龍から貰った服の感触等を確認している。
「アリス」
「ひゃ、ひゃい!」
考え事をしていたのだろうか、アリスは龍にいきなり声をかけられて変な声を上げてしまった。
「な、なんでしょう?」
「さっきから言動がころころ変わるのは置いておくが、ついたぞ今日はここに泊まる。少し予定と時間がずれたがなんとかここにたどり着けたからよしとするか」