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二人の闇の魔法使い

 アリスたちが歓迎会でてんやわんややってる時、日本からかなり遠く辺境にあるとある古城ではとある一室で男が拷問のようなものを受けていた。


「すみませんでし…ゴハァ!」


男に鞭を加えているローブを深くかぶった男の表情はかなり焦っているようだ。しかし周りの人間はそれを止めようとしない。それが普通なのかのように。


「いいか!?お前は失敗しただけでいいかもしれんがなあ!私は上に報告の義務があるんだ!失敗という報告なんてしようものなら私が殺されてしまう!」

「本当に…すみません…でした」

「まったくどうしたんですか?」


 いつから居たのだろう、いきなり現れた存在にその部屋の人々はざわめきだした。それもそのはずだ本当に音もなくその場に現れたのである、しかも気配等を一切排除してだ。


「し、し、シオティス様!」


一番驚いたのはフードを被って先ほどまで男をいたぶっていた男である。男に気づくとすぐさま一歩下がり首を垂らす、それに合わせて部屋にいる人間も全員シオティスに向かってお辞儀する。


「ふふふ、ここでは許しますから、何をしているのか教えてください」

「えっと、その…」

「うーん、そうですねー、別に怒るわけではないですが、時間がかかるのはやはりいけませんね。私も一応有限ではありますが400年生きています、それでも時というのはやはり有限です。出来れば早く言ってください」


 …っと丁寧口調に言ってはいるが、要は早く言えと脅しているのだ。


「この男がマギーロでの任務を失敗しまして。それで少しお仕置きを」

「マギーロ…ああ、日本が管轄している魔法学園都市ですね。あなた方にかした任務は人をさらってくる事…まあ日本ですからねあの国は他と違い警備も厳重ですから失敗もやむを得ないでしょう」

「そ、それはそうなんですが。今までは日本でもばれてなかったんです、しかも失敗したのは今回が初めてで」

「それならば大丈夫でしょう、今後は一層警戒して任務に励めばいいだけです」

「それが…今回の一件で日本の警備が厳しくなったようでもう何人かつかまっているようなんです、まあ尋問される前に自決させているのでこちらの情報は伝わっていないと思いますが」

「なるほど、この男の一件で…ていうわけですか」

「は、はい」


シオティスは倒れて虫の域である男に歩み寄り、座り込む。


「シオティス様!汚れてしまいます!」

「構いません、これまで何回も汚れてきましたから今更です。…何かあったのですか?失敗した理由を教えてください」


優しく諭すように倒れている男にしゃべりかける。男はゆっくりと体を起こし座り込む。


 その顔は殴られすぎてなのか青く腫れていた、よっぽど殴られていたのだろう。


「お、オブザーバーに見つかってしまいました」

「オブザーバー…」


(ああ、なるほど龍か、あれに見つかったのならしょうがないか)


 シオティスは龍のことを知っているようだった、オブザーバーという名称が出たとたん顔色が変わったのだ。


「それならしょうがないですね、私も彼のことは知っていますし私自身も今現状で世界最強の魔法使いは彼だと思っていますし…まあ彼女を抜いてですが。…でもおかしいですね、龍はマギーロに行くとしてもステアに行く程度だったと思うんですが何か用事でもあったのでようか?」

「えーと、その確か…あ、そうだそのオブザーバ―を師匠と慕っていた?少女も一緒に居ました…まあ最初はその子供に止められたんですけど」

「はあ!?子供なんぞに止められたのか!?こいつって奴は…!」

「今なんと言いましたか!?師匠!?つまりその少女は弟子ってことですか!?」


シオティスは反応した、今までで一番の反応だ。


「は、はい多分」


(俺が知る限り、龍に400年間弟子を取ることなど無かったはずだ。しかもあいつは自らを師匠と呼ばせるなどありえない…とすると本当にあいつは弟子を取った…だとしたら何故?分からない、だが弟子を取ったのは事実…なら)


「よくやりました!」


 シオティスは満面の笑顔で男の肩を掴む。誰もこの状況を理解できなかった、ローブの男は失敗で男を仕置きしたのだ、真反対の反応に皆驚いた。てっきり殴られるか最悪…殺されるかだからだ。


 シオティスに笑みがこぼれる。


(ふふふ!ははは!これは!これ以上ない情報だ!あいつに!?あいつに守るものが出来た?なら壊してやろう!お前が我ら女王にしたことをやり返してやる!そして今度こそあの方を復活させる!)


「あなた名前は?」

「…レースです」

「ではレース、あなたに私から直接任務を言い渡しましょう。それに伴い、マギーロでの人さらいの任務は終了です…これ以上マギーロの警戒レベルを上げるわけには行きませんからね…レースあなたは今回素晴らしい情報収集をしました、それに以降はもっと厳しい任務を与えることになります。あなたの欲しいものを言ってください。ある意味報酬の前払いですね」


するとレースが勢いよく顔を上げた、すがる物を見つけたかのような表情だ。


「…あの」

「はいなんでしょう?」

「私の妻と娘が病気で…その…助けてもらえませんか!」

「いいでしょう、ていうかまだ闇化してなかったんですね。手配しておきます、では今日はこれで解散します。レースには追って任務の詳細をお伝えしますのでそれまで待機しておいてください」

「はい!あ…ありがとうございます!ありがとうございます!」


 男は腫れた顔でしゃべりにくそうにしながらも土下座し必死に感謝を述べていた。


そういうとシオティスは部屋を退出しようとして立ち止まった。


「そういえばですが、その弟子…名前とかは分かります?」

「あ…えっと…すみません…そこまでは」

「いえ…大丈夫ですよ」



「なんかいい事でもあった?」


廊下で窓の外を眺めているシオティスに声をかけたのは少女だった。普段とは違う顔で外を眺めていたのを気が付いたのだろう。


「ああ、フローラか…まあそんな感じかな」

「へー、いつも辛気臭い顔してるから新鮮だねぇ!」

「辛気臭いは余計だ」


フローラと呼ばれる少女は、シオティスの横に来ると一緒に外を眺める。シオティスが面白いものを発見したと思ったのだろう。しかし、窓の外にはいつもと変わり映えしない景色だった、フローラは肩を落とした。


「で何かあったの?」

「…龍」

「あいつがどうかした?」

「弟子を取ったらしい」


 それこそ大きな反応は無かった…が、フローラもシオティスと共に400年以前より女王に尽くしてきた一人だ、そんな女王の仇…その龍に弟子が出来た、それだけで二人としては祝福とは言えない感情が芽生えてくる。


「へー、あいつがねえ。で?どうするの?壊す?」

「いや、まだ情報が足りなすぎる。それに弟子が出来たといっても分かっている情報は少女であることのみだ。我らはまだ戦力が足りなすぎる、大々的には動けない。だから少数が秘密裏に少しづつ事を動かす必要がある。我々は奴らと違って時間だけはあるからな少しづつ情報を集めて行動する」

「あたしは何したらいい?」

「フローラ…お前はお前にしか使えない魔法がある。動くタイミングや任務は俺が指示する、それでいいな?」

「いいよん!あたしが信頼するのはリサ様とあんただけだし、あたしはただリサ様のために動くだけ、ただ破壊するだけ」

「お前はそれでいい…また忙しくなるな」


二人の闇の魔法使いは窓の外を眺めながら不敵な笑みを浮かべた。


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