「あーうーぱぱ!ぱぱ!」
「んー?パパはねー、今頑張って国を守るために戦ってるよー、次に会えるのは土日かな楽しみだねえ」
「あー!」
ジリリリリ!
夏美が有紗をあやしているとき、柏木家の黒電話が鳴り響いた。
「あ」
「夏美ちゃん、良いから」
柏木母が代わりに受話器を取る。
「はい柏木でございます。……え?はい夏美さんはうちの嫁ですが。はい……分かりました。夏美ちゃん電話」
「はい……どこから?」
「防衛省から……何かしらね?」
「もしかして順君が何か手柄を立てて勲章とかですかね?」
「ふふふそうだと良いわね」
柏木母から受話器を受け取った夏美が耳に当てた。
「変わりました」
「柏木夏美さん本人ですね?」
「はいそうですが」
「……単調直入にお伝えします。柏木順一等陸士が殉職いたしました」
「……え?えーと……殉職って……」
殉職という言葉を聞いた柏木母の表情が一気に変わった……絶望に。
「申し訳ありません、言葉を変えます。詳細は話せませんが柏木順一等陸士が作戦行動中に戦死されました。お悔やみ申し上げます」
「…………」
夏美は予想外の訃報に下半身が無くなったかのようにその場に崩れる。
同時に受話器を落としてしまった。
「夏美ちゃん!」
すぐに柏木母が支えるがもはやその場で座っているのが奇跡レベルで全身に力が入っていない。
「あの!何が!?今殉職と!?……え!?それは本当ですか!?何かの間違いではなく!?…………はい……分かりました。すぐに向かいます」
受話器を置くと、静かにしゃがみ込み夏美の様子を見た。
「あ、あ、お義母……さん?嘘だよね?順君が……嘘だよね!?」
柏木母は何も言わずに夏美を抱きしめた。
自衛官の妻として嫁いできたのだ、いつかこのような時が来るかもしれないから覚悟はするようにと柏木母は夏美に言ってきた。
だがさすがにこれは早すぎるしまだ新婚だ……さすがに酷すぎる。
「夏美ちゃん……泣いていいのよ。母だから泣いちゃ駄目とか今は関係ないよ!今はとにかく泣きなさい!感情をコントロールしようとしちゃ駄目」
柏木母は子供の前で気丈に振舞おうとし、結果的にメンタルブレイクした順の母を知っているのだ。
夏美まで同じ目には合わせないようにとにかく抱きしめた。
「あ……あ……あああ!うわああああああああああああああん!」
夏美は母ではなく順に恋した一人の女性として無常に泣き続けた。
ジリリリリリリ!
ガチャ!
「はいステア魔法学校花組寮長室。……え?はいそうですが……え?……は?……それは確認できたんですか?……分かりました。……はい、すぐに向かいます」
ドン!
受話器を置いた柏木だが直ぐにテーブルを思いっきり叩いた。
「あの馬鹿……だから言ったんだ!これじゃあ父親と一緒じゃないか!」
「あの先生……大丈夫ですか?」
普段は聞こえない音が寮長室から聞こえた事で心配になった一年生が様子を見に来た。
「ああ、いや大丈夫だ。……すまないが霞サチとコウ、成田と新井を呼んできてくれるかい?」
「え?分かりました」
数分後、四人が寮長室に集まった。
「先生どうかした?」
「……落ち着いて聞いてくれ」
「は?はあ」
「……順が殉職した」
「え?……殉職……ってなんだっけ?」
「まあ簡単に言えば……順が死んだってことだ」
その瞬間、その場の時間が止まった。
「えーと……まじで……おわっ!コウ!?」
数秒遅れでコウがその場に崩れた。
寸でのところでサチと成田が支えるが立ち上がることが出来ずにその場で大粒の涙を流し泣き始める。
「コウ……順先輩と夏美先輩は特にお世話になったからね。悲しいのも分かるよ」
「サチお前は悲しくないのか?」
「コウを見たら涙が引っ込みました」
「そうか」
「あの……順先輩が殉死したのは確定なんですか?」
「ああ、遺体の確認もドッグタグの確認も済んでいるらしい。今から私は自衛隊病院に行って遺族として確認してくる。留守を頼む、新井は他の組の寮長に連絡をサチと成田は私が居ない間寮を新井と共にまとめてくれ。コウに関しては……うん部屋で休ませろ」
「分かりました」
「では行ってくる」
十数分後、急ぎ自衛隊病院に到着した柏木は受付を済ませると遺体安置室に案内される。
部屋の前には柏木母が夏美の赤ん坊を抱いて座っていた。
「夏美は?」
「中よ。二人になりたいって」
「大丈夫か?」
「大丈夫、中には担当の自衛官が見ててくれるから」
「そうか……じゃあ私も行ってくる」
ドアを開けるとちょうど順の遺体が横たわっているベッドの頭側に座り込んでいる夏美が確認できた。
そのまま遺体の目の前に移動すると遺体を確認した。
「だから言ったんだ、父と同じような運命をたどるんじゃないと……確かに訓練中ではないかもしれんが死んでしまってはもう守るべき人も守れないんだぞ?夏美も有紗もこの先誰が守るんだ?馬鹿者め」
「…………」
「……はぁ」
「おや……早かったな」
突然現れた来訪者に当直の自衛官が敬礼をする。
柏木父だ。
敬礼をするとすぐに直る。
「父さん……意外と早かったな。駐屯地は良いのか?」
「血が繋がって居なくとも息子が殉職したんだ。すぐにこっちに来たよ」
「そうか」
「……まさか、こんなに早くあいつの元へ行くとは思ってもみなかった。そういう運命なのか?それともあいつが寂しがったのか?はぁ……妻もいるんだからもう少し待ってもいいのに……連れていくのが早すぎだ」
「そうだな……因みに順でもやるのか?血は繋がってないが」
「もちろんだ血は繋がって居なくとも順はもう柏木家の人間だ……そこの君ちょっと煙缶を持ってきてもらえるかな?」
「え?ここは一応禁煙ですが」
「すまないが一瞬だけだ。私の許可があったと言えばいい」
「……分かりました」
数分後、自衛官が急いで煙缶……つまり灰皿を持ってきた。
「あの……何するんですか?」
さすがに夏美も気になったのだろう、顔だけそちらに向け質問する。
「我が柏木家に残る伝統?の死者を送る儀式みたいなものだ」