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特別編 夏美と順の物語 夏美の決意 3

 柏木父と柏木がお互い取り出した煙草を咥える。


「あれ?ライター……どこやったかな」

「杖じゃ駄目なのか?」

「魔法を使わずにというのが先祖からの注文でね。私も普段は魔法を使うよ」

「ふーん、ほれ」


 柏木はポケットから出したジッポに火を点けると柏木父に差しだす。


「お、すまんな。……ていうかお前教師だろ?吸って良いのか?」

「教師もストレスたまるんだよ。それに一応ルールの範囲内で吸ってるから今の所問題ない」

「そうか」


 柏木も自分の煙草に火を点けると煙を吐き出した。


「さて夏美君、我々柏木家は代々自衛官の家系だということを知ってるね?まあもっと前からで言えば第二日本帝国陸軍の時代から軍人だったんだが」

「はい……お義母さまから聞きました」

「それでねご先祖様の代からずっと続く伝統ので続いているんだが、柏木家では軍人または自衛官が任務中あるいは演習中に殉職した場合、その当人が吸っていた煙草に火を点けて最後の一口を口に当てて最後の一服をしてやれって教えなんだ」

「でも順君はタバコ吸ってませんでしたけど」

「その場合は、私たちが吸っている煙草を吸わせてやるんだ。元々我らの先祖が最後の一本を大事に持っていてこれを吸うまでは死なないっていうゲン担ぎのつもりだったらしいんだけどね、もし殉職したらその一本に火を点けて吸わせてくれってていう願いから始まったらしい」

「なるほど」

「それが今日まで続いているのが不思議だが、一応順は血が繋がって居なくとも我らの息子も同然だからね。だから吸わせてやるんだよ……順にとっては最初で最後の煙草を」


 柏木父は吸っていた煙草を順の口に当てた。


「順、お前の父も何処か危なっかしい奴だったが……こんな早くあいつの所に行くとは思わなかったぞ?まったくあいつに文句の一つでも言ってやっていいんだからな?私ももうそう遠くない辺りに行くと思うから一緒にしかりつけてやろう。……それとその頃には酒が飲めるだろう……一緒に宗太の話でもしようじゃないか」

「父さん……さすがに冗談ならん発言はやめてくれ」

「ん?そりゃすまんな」

「義姉さん……私も貰っていい?」


 いつの間にか目を真っ赤にはらした夏美がキリっとした表情で立っていた。


「……私のでやれ。私はもう自衛官では無いからな。ただし吸うなよ?まだ有紗は母乳だろ?有紗にニコチンを与えるような真似は許さんからな」

「分かってる」


 夏美は受け取った煙草を静かに順の口に当てた。


「ねえ順君、私ね?最初はすんごい泣いたけどもう大丈夫だからね、それにこんなことを言うのはあれだけど家族を失うのはこれが初めてじゃないし……今は有紗もいるから寂しくない。でもこれからの事はまだこれからかな……じっくり考えるから安心して?」


 そういうと夏美は煙草を柏木に返した。


「夏美君、そのこれからなんだが……うちに居なさい」

「え?でももうあたしは柏木家の人間じゃないです……苗字は柏木ですけど」

「順は柏木家の人間でそこに嫁いできたんだ。十分君も柏木家の人間だよ。そうだな……最低でも有紗ちゃんが成人するまでは世話になりなさい。一人では育児も大変だろう、柏木家の人間として最大限の援助はするよ」

「……少し考えても良いですか?」

「ああ、ゆっくり考えなさい。じゃあ私は行くよ、仕事を残してきてしまったからね」


 そういうと柏木父はもう一度当直の自衛官に敬礼すると部屋を出ていった。


「夏美、父さんも言ったがお前はもう柏木家の人間だ。迷惑をかけるとか考えるもんじゃない。確かにお前から見れば有紗は小林家と桐谷家の娘かもしれんが柏木家の娘でもあるんだ。君の幸せのため……有紗の幸せの為にも残った方が良い」

「うん……とりあえず帰ってみて少し考えるよ。これから順君のお葬式の事もあるし」

「そうかお前知らんのか自衛官が殉職した場合葬送式と言ってな、自衛隊で葬式を上げるんだよ」

「……分かった……じゃあとりあえず葬式後かな」

「まあゆっくり考えろ」


 柏木はそのまま柏木父と同じように当直の自衛官に一礼すると、外で待っていた柏木母に夏美を頼むと一言いうとステアに帰って行った。



 その後なんやかんやあって葬送式……つまり自衛隊の葬式が開かれると、部隊の撤退援護の為にたった一人で闇の魔法使いと戦闘しその身を犠牲にして敵を撃退したことが高く評価され、入隊して二年も経っていなかったが自衛隊の勲章である賞詞が送られた。


 またそれに関連して国家の危機に関して勇敢に戦ったことからも、国から瑞宝単光章が送られた。


 また非常事態宣言下であったため天皇陛下より国葬にしてはどうかという申し出があったが、柏木家が国の英雄としてではなく一自衛官として送り出したいとの願いから申し出を断るに至った。



そしてまたなんやかんやありアリスが誘拐されたり、西宮総理が大変なことになったりして辞職を表明したりしてアリスが修行の為にステアを離れ、ある意味少し落ち着き、もう夜の帳が降りた11時ごろ、ステアの花組寮長室に一本の電話がかかって来る。


 ジリリリン!


「はい、ステア魔法学校花組寮長室……あ?母さん?どうしたんだこんな時間に。……は?はあああああ!?それは本当に言ってるのか!?ちゃんと見てたんじゃないのかよ!……あー分かった落ち着け!……父さんには?分かったこっちでも探してみるから。うん、じゃあ」


 柏木が受話器を戻す。


「……まったく」


 数分後、柏木の指令でまたまたサチとコウ、成田と新井が呼び出された。


「あの……正直言って眠いんですけど」

「すまん。非常事態だ」

「で用件は?」

「……夏美が」

「先輩がどうかしました?」

「柏木家から居なくなった!」



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