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特別編 夏美と順の物語 夏美の決意 4

「あ……うん……それで?気分転換に外出するなんて普通じゃ?」

「普通の人ならな!?夏美は順を失ったばかりだぞ?それに有紗も居ない!考えられるのはなんだ!?」

「先生」

「なんだ!」


 かなりテンパっている柏木に対してサチとコウは何故か冷静だった。


 そして前回順が死んだことで悲しみのあまりその場で崩れ落ちたコウが今度は冷静に分析を始める。


「順先輩や夏美先輩の両親について聞いたことがありますが、私がステアで一緒に過ごした情報を元にですけど……夏美先輩は……自殺をするような人じゃないです」

「そう言い切れる根拠は?」

「夏美先輩は確かに感情の起伏が激しい人ではあります。両親の事で一度は心を塞いだ……でも順先輩のおかげで生きる意味を見つけた……そして順先輩が亡くなった今、先輩に残されたのは有紗ちゃんだけ……確かに順先輩の母親はショックでなくなりました。でも順先輩が亡くなったのは闇の魔法使いとの戦闘で亡くなった……であれば夏美先輩が次にとる行動は……」

「行動は?」

「順先輩を殺した闇の魔法使いを殺して仇を討つこと……だと思います」


 この発言を聞いた柏木は少し考えた。


 ———確かに……あの馬鹿の考えることは読めないが……あれだけ順を愛していたんだ。あいつの性格から考えてそう思うのも普通か。


「もしそうだとしよう。であれば何故有紗を連れて家を出る必要がある?」

「そうですね……」


 コウはアリスの考え方を脳内にイメージし、この場合、アリスならどう推理するかを考え始めた。


「人は何か大きな決意をして行動する場合、事前に何か……儀式的な何かをするそうです。まあ儀式的なとは言っても宗教的ではものではなく、新たな人生を歩むために過去を清算するために身のまわりの物を処分したり、思い出の場所で何かをするらしいです。先生は夏美先輩と順先輩の思い出の場所とか知りません?」

「……いや」


 柏木は顔を逸らした。


 それもそのはずだ。


 そもそも夏美と順が仲良くなったころには柏木は引きこもっていたのだ、知るはずもない。


「……先生!夏美先輩が心配なんでしょう!?意地でも何か思い出してください!」

「……ちょっと待て」


 柏木は脳みそをフル回転し、記憶を探り始める。


『あそこの秘密基地……おじさん死んじゃったね。もう使えないかも』

『その事なんだが、あの人の家族が山の売り先を見つけるまで管理をお願いしてきたんだ。だから……』


 ふと柏木は隣の部屋で順と夏美がしていた会話を思い出した。


 ———秘密基地……おじさん……あのあたりで山がある場所……あそこか!?


 柏木が勢いよく立ち上がる。


「サチ、コウ!出かける準備をしろ!」

「……何故!?」

「夏美を見つけに行く!場所のおおよその検討はついた!」

「いやいやいやいや!夏美先輩が今いるのって千葉県ですよね!?ここから箒を使ってどんだけ時間が掛かると思ってるんですか!ちょっとコンビニ行くとかのレベルじゃないですよ!確実に日跨ぎますよ!?もうお風呂にも入っちゃったのに」

「安心しろ、柏木家で泊まらせてやる」

「母さんあたしは?」

「私は明日まで学校に戻らないからそれまで寮内を頼む。新井は一応他の組の先生に状況を説明してくれ」

「分かった」

「了解です」

「よし二人とも行くぞ!」

「「……はい」」


 少し乗り気ではない二人を引き連れて柏木は箒に乗り千葉県の習志野へ向かって行った。



 千葉県習志野市。


 ……のとある山の山中。


 過去の記憶を頼りに恐らくこの辺であろう目星をつけた場所近辺に降り立つ三人。


 時間も時間なので辺りは真っ暗だ。


 恐らくほとんど管理もされていなかったのだろう、木々と草がうっそうと生い茂っており、草に至っては腰の高さを優に超えている。


 また月明りで多少、辺りの様子は分かるが都会の光になれたサチとコウにとっては何も見えない。


 柏木も一応自衛官でレンジャー持ちでこそあるが等の昔の事だ、目は暗さになれてないのだろう、すぐに杖の先に光をともす。


 だが自衛官としての感覚は残っていたのだろう、すぐに辺りを見回し警戒態勢に入る。


「こんな時間にこんな場所って……一応着替えたけど」

「とりあえず探せ!秘密基地ぐらい子供の時に作ったことぐらいあるだろ?」

「名家舐めてます?」


 探すこと数分後。


 腰まで伸びた草を退けながら森の奥に進むと何故か先ほどまで木々が生い茂っていた所から何故か開けた場所に出た。


 よく見ると開けたというより人為的に木を切って広場を作ったという感じである。


 そして広場には……。


「秘密……基地?」

「秘密基地にしては立派すぎない?」


 小学生が作るにしては立派すぎる小屋……というよりログハウスと言った方が正しい建造物が建っていた。。


「これ……小学生が作れるかな?」

「無理でしょ。周りの木も切られたみたいだし……小学生が作りにしても大人の力が無いと……ていうかここって私有地でしょ」

「恐らくここの所有者が建てたんだろう。そして何かしらの理由があって亡くなった後に順たちがここを使い始めたんだろうな。私有地……まあ子供がすることだ、その辺は大目に見てもらったんだろう」

「ふーん」

「ていうか誰かいますね」


 コウが指を指す。


 小屋からは誰かいるのだろう、中の明かりが漏れているのが確認できた。


「……夏美!」

「ちょっと先生!?」

「先生!中に居るのがまだ先輩だとは限らないんすよ!」

「問題ない!」


 柏木はホルスターから銃を取り出すと杖と共に構える。


「……いやいやいやいや!中に居るのが地主だったら思いっきり不法侵入してるこちらが問題になるんですけど!?」


 ドン!


 本来自衛官であれば、ルームエントリーという中に居るのが敵なのか味方なのか不明な状況の部屋に対する適切な手順での入室方法を分かっているはずだが、冷静さを失っている柏木はそれすらせずに一気に部屋に突入した。


「……あの人、一応元自衛官だよね?」


 そして部屋の奥の暖炉の前に居たのは有紗が眠るベビーカーを傍に置いて静かに何かを見ている夏美だった。


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