「以上で報告を終了します」
数日後、あたしと三穂さん、四方田さんの三人は執務室に戻り、師匠に今回の作戦の報告を行った。
本来、作戦についての報告は龍炎部隊の性質上、三穂さんが単独で行うのが普通らしい。
でも報告の内容が内容なので、今回だけ四方田さんが同行している。
「……いや、この報告を素直に受け取れと?」
師匠は報告書を見て困惑の表情を見せている。
当然だ。
闇の魔法使い討伐で部隊を送ったはずなのに、報告書には『アリスと四方田が神と戦い、無事帰還。闇の魔法使いの存在は確認できず』と書かれているのだから。
師匠の反応を見るに、400年生きてる師匠でも神様と会ったことも戦ったことも無いようだ。
「最初はあたしも戸惑ったけどね。アリスちゃんと千明ちゃんが落ちる前後の現象、千明ちゃんの性格の変化、二人が知ってる千明ちゃんの過去に関する記憶の差異を見ると、ただの闇の魔法使いに出来る技じゃないからさ、そこら辺を加味して書きました!」
「……分かった。まあ、三穂が嘘をつくとは思えんし、三穂が二人の言葉を信用したんだ、おれも信用しよう」
「うっす!」
……特段、龍炎を信用してないわけでは無いと思う。
でもこの口ぶりだと……多分朧が逐一龍炎の普段の行動だったり、作戦中の行動を報告してるんだろうね……裏取りという意味で。
「じゃあ、もう上がっていい。アリスも今日は帰って良いぞ」
「「「了解!」」」
場所が場所であり、存在も存在なので、敬礼こそしなかったけど、二人は軽くお辞儀をして部屋を出た。
だけどあたしは師匠に用事があったので残る。
「……ん?アリスどうした?」
「師匠に聞きたいことがあってさ」
「なんだ?」
「……八咫って人知ってる?」
「……!」
師匠の顔が……一瞬だけ驚きの表情に変わった。
「……まあ、そう言う名前の人間は何人かいたような気がするかな」
「いや、あたしが聞きたいのは……400年前に師匠と遊んだ?八咫って人の事」
「……まあ……居たんじゃないか?さすがにあの時代の事は俺でもあんまり覚えてないからな」
「ふーん……その八咫って人から師匠に伝言」
「……ちょっと待て!お前は今400年前に俺が会った人の事を聞いたんだよな?ならなんでその人がお前に伝言を残せる?」
「聞けばわかるんじゃないかな?」
そしてあたしは八咫さんから受け取った伝言を伝え始めた。
因みに長く覚えられるはずもないので、もちろんメモだ。
『やあ龍五郎、童を覚えておるかの?400年前、あのような別れになってすまなかった。じゃがあの時はああするしか術がなかったのでな、おかげでお主はこうやって生きておるじゃろ?……まあ400年生きるようになってしまったのは童の誤算であるが。……お主は神報者を継ぎ、立派にやっておるのをよく聞いておる。童にとってもそれは誇りであるぞ。そしてアリスじゃ。お主は神報者としてちゃんと教えるべきは教えておるのだろうな、目を見れば分かる。……最後に童は常に……は無理だが、お主とアリスを見守っておるからの。……お墓に酒をかけるのはよせ、飲めないではないか』
「……」
師匠は八咫さんの伝言を聞いて黙ってしまった。
「……アリス」
「ん?」
「……お前は……八咫に会ったんだよな?お前から見てその八咫って奴は……どんな存在だと感じた?」
「……うーん……多分、色んな表現方法があるとは思うけど……あたし的には、神様?」
「……神様……か」
もちろん確証はない。
でもあの神世、宿での一幕を見て神様以外に形容できる言葉があるのなら教えて欲しいぐらいだ。
「伝言は把握した。……お前も帰って休め。そのメモは置いてけ」
「うっす」
そう言うとあたしは部屋を出ようとする。
するとすぐさま師匠はメモを手に取り、窓際に立つと静かに読み始めた。
「……ふふ、あの時から変な奴だと思ってたが……まさか神になっていたとは……いや、あの時からすでに神だったのか?まあ……知るすべはないか。でも……今でも思うんだよアリスという弟子が出来て俺はちゃんと神報者として育てられているのか?って。……でもあんたがそう言うんなら今のことろ問題ないんだろうな……ありがとう……師……」
「……?」
部屋を出る間際、何か重要な一言を聞き逃したような気がするけど、この流れで戻って聞くのはあれなので、あたしは大人しく部屋を出た。
さて、皆さんが知りたいであろう後日談について少し話そうと思う。
次の日、出雲市の地方紙にとある記事が出た。
『地図から消えた村にて多くの白骨遺体が発見される』
今まで20年前の事件から遺体の一つも出なかった愛我村。
今回警察官が行方不明になったことで大規模捜索を行った結果、今まで居なくなっていたとされた村人たちの遺体が出始めたのだ。
何故今になって発見され出したのか。
専門家たちは頭を悩ませた。
でも実際に堕慈子と対峙したあたしには理由が分かる。
今までであれば堕慈子の結界……つまりあの世界に取り込まれて、怪我をしたり命を失うと肉体も魂も現実世界には戻ってこれなかった。
しかし、今回その結界と世界を完全に破壊したおかげで囚われていた村人たちが現実世界に戻ってこれたんだ。
だけど新聞には気になることが書いてあった。
あたしたちが作戦で行く前に警察官が何人か調査に行っていた。
その警察官も発見された……のだけど、まるで死後20年は経過しているように白骨化していたらしい。
あたしと四方田さんが一度死んで、白骨死体になったのと同じように。
……つまり、あの空間に行ったタイミング関係なく戻ってこれなかった人間は例外なく20年という時を過ごしてしまったということになるんだ。
……なんか、可哀そうだ。
記事には発見され、身元が特定できた人に関しては記述があるものの、何故か……あいつ……名前が出てこない……須田(違う)君の名前がどうしても見つからなかった。
あたしの記憶が正しければ……あいつはあたしたちと堕慈子討伐に向かったけど、無傷……だったような?
あー、でも祭壇に戻ってからは……見てねえな。
つーかあの後どこ行ったんだ?
遺体としても出てきてない……ならあいつはあいつで崩壊時にどっかから脱出した?
……いや、もしかして……あのスライム……いや、まさかな。
……分からん、つーかどうでも良いいことだ。
この世界には神様がいる……目に見えて、触れて話せる……それが分かれば十分。
今のあたしじゃ、手も足も出ない存在だからちょっと恐怖はあるけど、まあ会いたいと思って会える存在じゃないから問題ない……かな。
いやあ……久々に異世界っぽいものを見た気がするなあ。
……さあ、今日も仕事……行こうか。