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神?との邂逅編 神々の休憩所 6

 本来ならあたしたちは出雲市のホテルに着くなり自由行動になるのが普通だった。


 でもあたしと四方田さんだけは三穂さんに呼び出された。


 向かったのは……あたしも覚えているあの駄菓子屋だ。


「……あの三穂さんなんでここに?」

「アリスちゃん言ったよね?愛我村で神様と戦った時に一回死んだって」

「え?ああ……まあ死んだ……死んだというよりは……死にかけて、時間が巻き戻った?」

「つまりだけど、桂ちゃんや冴島ちゃんが見た二人の遺体もある意味勘違いじゃなかったってことになるんだけど」

「……それが?」

「まあ……ついてくれば分かるよ」

「……?」


 何が言いたいのだろうか。


 ていうかなんだろう。さっきから三穂さん雰囲気がいつもと違う。


 四方田さんに対して他人行儀というか。


 でもついて行くしかないあたしは同じように疑問符を浮かべている四方田さんと伊保さんについて行った。


 駄菓子屋に近づくほど四方田さんの顔色が悪くなっていく。


 そりゃそうだ。


 四方田さんにとってあの家は悪い思いでしかなく、居心地が悪い場所の筆頭なんだから。


 だけど、駄菓子屋の前に居たある人があたしたちの存在に気づいた時、あたしは三穂さんが何故この場所に連れて来たのか察した。


「あ!千明!お帰り!」

「……え?……え?」

「……え?」


 前回あった時は四方田さんの事を不審者のごとく見ていたおばさんが……何故か満面の笑みで四方田さんを迎えていた。


 ……何が起きてるんだ?


 ドッキリ?


「今日は仕事終わりなの?」

「え?……えっと……その」

「ええ、仕事終わりに四方田さんの親戚が駄菓子を経営してると知りましたのでみんなでお菓子パーティーでもと立ち寄らせていただきました」

「あら!そうなの!なら品ぞろえだけは自信あるから!見て行って!……あれあなた!この人たちのお仲間だったのね!」

「え?……はい」

「あれ?アリスちゃんここ来たことあるの?」

「ええ、出雲大社に行こうとしたら迷っちゃって。道教えてもらうついでに駄菓子を少々」

「そうなんだ」

「…………」


 あたしは何とか話を合わせるけど、四方田さんは未だに状況が理解できてないようだ。


 当然だ。


 だって今までずっとおばさん達には邪魔者のような扱いを受けてきたんだから、今更こんな歓迎をされても別の意図があるんじゃないと思うのが普通だよ。


「あ!千明姉ちゃん!」

「…………ま、雅也?」

「……うっそーん」


 ……四方田さんに声を掛けたのは……四方田さんの不幸体質のせいでこの世を去った……雅也君だった。


 何故……生きているんだ!?


 ここまで来るとドッキリとか言ってる場合ではない!


「あれ?姉ちゃん……どうかした?」

「……あ……あ、雅也ああああああ!」


 四方田さんは大粒の涙を流し、雅也君に飛びついた。


「ちょっどうしたんだよ!たまに会ってるじゃん!そんなに泣くこと!?」

「あああ……ああああああ!」


 雅也君はかなり困惑している。


「……こうなるんだ」

「え?」


 あたしや四方田さん、おばさんや雅也君ですら別々の意味で困惑しているのに何故こうなることを分かっていたかのように見つめる三穂さん。


「こうなることが分かってたんですか?」

「いや、ここまでは予想できなかったけど……とりあえず話は千明ちゃんの部屋で話そうか」

「……はぁ」


 そういうと、三穂さんは何時までも抱き着く四方田さんを引きはがし、駄菓子屋内の四方田さんの自室へ向かった。


「……ここが私の部屋?」

「知らないんですね」

「確か……私が自衛隊に入ったあと、帰ってないし……あのおばさんが残しておくとも考えずらいし」

「まあ……とにかく、座ろうか」


 そう言うと三穂さんはまるで来たことがあるかのように座る。


「三穂さん、ここに来た事が?」

「あるよ。何回かね。それで今から話すのは……アリスちゃんなんか違和感ない?」

「ありまくりですが?」

「だろうね、そう事じゃなく……あたしが四方田さんを千明ちゃんって言うことが」

「え?……あ!」


 そういえば三穂さんはずっと四方田さんの事を……よもっちゃんって呼んでいた気がする。


 でも確かに事件が終わった後はずっと千明ちゃん呼びだ。


「でもなんで今そんな事」

「……多分だけどさ、愛我村での事件の前と後で……二人と私が知ってる千明ちゃんに関する過去に差異が生じてるんだよ」

「え?」

「その証明が、雅也君。千明ちゃんの反応的には死んだはずの甥っ子が生き返った……て感じでしょ?」

「……はい」

「でもあたしや雅也君からするとなんで涙を流して抱き着くんだ?ってことになるわけ」

「……なるほど」

「だから三人だけになって今の所愛我村での真相を知ってる私だけにまずは過去が変わる前の千明ちゃんの事を聞きたいんだ」

「……分かりました」


 そう言うと四方田さんも床に座った。


「へえ、躊躇ないか。多分だけど、千明ちゃんにとっては……思い出すのも憚られる記憶じゃない?」

「そうです。でも知りたいんです、この世界のあたしがどんな事をしたのか。どこまで違いがあるのか!」

「ふふふ、分かった。じゃあまず、千明ちゃんから聞かせてもらおうか」


 そして四方田さんによる。過去改変が起きる前の話が始まった。


 といってもその内容は愛我村で聞いた物とほとんど違いはなかった。


「ふーん……そうだったんだ。じゃあ次は私の番だ」


 三穂さんによる過去改変後の四方田さんについての話が始まった。


 ……正直に言おう。


 何もかもが違った。


 まず、公式的には洪水と発表された愛我村での事件の生き残りは愛我村の小学校教諭であった高川先生とその生徒四方田千明となっている。


 その後、身内も帰る場所も無くなった二人は千明ちゃんが高川先生の養子となる形で一緒に暮らしていくこととなった。


 その時点でこの駄菓子屋に居候する未来が無くなった。


 じゃあ、何故駄菓子屋に四方田さんの部屋があるのか。


 それはこの家が高川先生の次の仕事が見つかり、新たな家が見つかるまでの仮家になっていたからだ。


 そして高川先生が近くの小学校に勤務することが決まって、家も決まることになるが、駄菓子屋のおばさんはいつでも帰ってきてねの意味で部屋を残したのだという。


 そして不幸体質など無かったかのように、四方田さんは雅也君や近所の子供たちと仲良く遊んでいたそうだ。


「じゃあ高川先生はご存命?」

「うん、続き話すよ」


 そして、ここからが重要である。


 本来であれば四方田さんは家にも居られない状態になり、自衛隊に入隊、しかし不幸体質なこともあり、そこでも居場所を失くして龍炎部隊に入ったはずだ。


 でもこの世界では父親が自衛隊だということで入隊した……所までは一緒かもしれないが、父親譲りの狙撃の才能を衣笠が見抜き、本人も血に飢えていたのか『もっと危険な部隊に行きたい』との思いで、龍炎に入ったのだという。


 因みに改変前ではすぐに龍炎部隊に入っているが、この世界ではある程度在籍していたためレンジャーを持っているらしい。


「……ここまでがあたしの知る……千明ちゃんの過去かな。後の作戦中の行動については省くけどね」

「…………」


 何もかもが違う。


 まさか、あの時の行動で過去がここまで変わるとは。


 ……ていうか、堕慈子は過去の段階では生きているはずだよね?現に神世につれていかれたんだし、なんで呪いまで消えてるんだ?


 ……八咫さんが何かした?


 今となってはもう知る術は無いけど。


「…………」


 あたしも驚いているけど、当の本人はもっと驚いている。


「さて!ここからが重要なんだよ」

「え?これ以外に重要な話題あります!?」

「うん!今千明ちゃんの話を聞く限り、改変前の千明ちゃんは居場所がなくてうちに来たってことになる。でも改変後になって不幸体質はなくなった……つまり自衛隊の通常部隊にもちゃんと居場所が出来るってことになったんだけど」

「……!」


 そう言うことか!


 さっきまでの違和感の正体がわかった。


 三穂さんからすれば四方田さんの狙撃技術は欲しい部類であるのは確か。


 でも今の三穂さんが知ってる四方田さんは過去改変後の四方田さんだけだ。


 龍炎に入ることになった経緯も……多分性格も違っている四方田さんを龍炎に残すのか迷ってるんだ。


 ほとんど他人状態……だからさっきから他人行儀で接してたんだな。


「今いる千明ちゃんは居場所が欲しくてここに居ただけ。でももう一般部隊に戻っても問題ない状況になった……龍炎に居留まるか一般部隊に戻るか、どうする?」

「……隊長はどう思うんですか?」

「私?確かに千明ちゃんの狙撃技術は欲しいよ?でも知っての通り、龍炎はここにしか居場所がないか、龍さんに恩がある人の集まりだからね。いくら技術があっても龍さん……いや天皇陛下に仕える気が無い人間は要らないよ」

「……」


 正直に言おう。


 あたし自身はどうしても四方田さんに残ってもらいたい。


 だってあたし自身の命を狙撃で救ってくれた人だもん。


 今後、龍炎はあたしの支配下になるんだから四方田さんみたいな信頼できる人が部隊に居るのは心強い。


「……私は……残ります!」


 ……ほっ。


「ふーん……理由を聞いていいかな?今までいたから……とか、慣れてるからとかは駄目だよ?」


 ……三穂さん厳しすぎません?


 まあ特殊部隊の隊長だから仕方がないのかもしれませんけど!


「慣れてるからとかではありません。私は今回の件でアリスさんに返せないほどの恩が出来ました。雅也が生きてるのも高川先生が生きてるのも全部アリスさんのお陰なんです!……確証はありませんけど。アリスさんは将来神報者となります、だから恩を返すためにこの部隊には居続けます!」


 ……よく、よく言ってくれました!


 まあ過去改変の原因があたしなのかは知りませんけど。


「……ふふふ」

「三穂さん?」

「ふふふ、はははははは!」

「隊長?」

「三穂さんが壊れた」

「いやあごめんごめん!そうか……おっけ!そこまで硬い意志なら大丈夫かな!ごめんね試すような真似しちゃって!だってあの事件の前と後で千明ちゃんの性格がまるで違うんだもん!他人なのかって疑うじゃん!」

「……すみません」


 ……むしろ改変後の、今までこの世界で三穂さんが見て来た四方田さんと少し話がしてみたいぐらいだ。


「それじゃ、下でお菓子買ってホテルに戻ろうか!」

「うっす!」

「……はい」


 そうして突然行われた三穂さんによる龍炎部隊継続の試験を無事乗り越え、下に移動したあたしたちは少しばかりのお菓子を買うとホテルに戻った。


 因みに戻る際、偶々高川先生と出会ったけど、四方田さんはもちろん泣いて抱き着くし、高川先生は優しい表情で頭を撫でていた。


けど、高川先生はあたしを何処かで見た事がある……とういうような視線をあたしに向けて来た。


 ……まあ会ってはいますよ?


 ……二十年ほど前に。


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