「……ん……ん?さむっ!」
八咫さんの部屋で眠っていたあたしは何故か寒さで目が覚めた。
「む?起きたか」
「え?……ここって」
辺りを見渡すと、あたしがここに来るときにくぐった鳥居の前だということに気づく。
「なんで?部屋で寝てたはずじゃ」
「ああ、夜明けが近くなって起こそうと思ったのじゃが、余りに気持ちよさそうに寝ておるものでの、起こすのも忍びないと思ってここまで連れてきたのよ」
「……なるほど」
気が付くと、風邪をひかないようにか八咫さん着物があたしを包んでいる。
……この人優しいな。
師匠もこうだったらいいのに。
「さて、ちょうどよく鳥居も戻れる状態になった。戻る準備は出来たかの?」
「え?……はい!」
八咫さんの近くに歩くと、確かに半分以上が水に沈んでいたのに今はあたしがくぐって来たときのようにすべて水の上に露出している。
「これでお別れじゃ。もうこちら側へは来てはならんぞ?」
「ハハハ……」
来たくて来たわけじゃないんで。
でももし完全に歓迎ムードで出迎えてもらえるなら……もう一度来てもいいかな?
あたしは鳥居の前にやって来る。
中から向こう側を見てみるが、あたしを追っかけまわしていたあのスライムはどこかへ消えたみたいだ。
待つのが面倒で消えたか、それともあの後やることがあると言って消えた八咫さんが何かしたかは知らないけど、これで問題なく戻れる。
「アリス」
「はい?」
「最後に……龍五郎に伝言を頼んでも良いかの?」
「……ふふ、別構いませんよ」
「ありがたい」
そういうとあたしは八咫さんから師匠宛ての伝言を聞くと、最後に装備を確認して鳥居をくぐろうとした。
……とんっ。
八咫さんがあたしの背中を叩いた。
「……え?」
「……お主なら大丈夫じゃ、真っすぐ自分が決めた道を歩けばよい。陰ながら見つめておる……神じゃからな」
「……うっす!」
あたしは鳥居の結界に手を振れ……くぐった。
すると、前回はそのまま鳥居の先に行くだけだったけど……今回は違った。
一瞬だけだったけど……視界が暗くなり、意識も飛んだ。
……ザー……ザー。
湖の静かな波の音が聞こえる。
「……ん?……お」
目を空けるとそこは湖の浜辺だった。
どうやら無事に戻ってこれたようだ。
「……そういえば」
あたしがくぐって来た鳥居はどうなったのだろうかと振り向いたあたしは……驚いた。
鳥居が無くなっていたからだ。
いや……ある。正確には湖の底に建っていた。
三穂さんの言った通りだ。
本当に沈んでるんだ、神世じゃ凄く綺麗だったのに。
まあ逆に言えばあたしはちゃんと現世に戻って来たと言うことになる。
そう思うった途端に安堵した。
「さて……戻ってみますか!」
あたしの記憶があってれば、あのスライムから逃げるためにあそこから真っすぐ進んできたはずだ。
つまり今いる場所から真っすぐ登って行けば車の所まで行けるはず。
それにちゃんと現世に戻ってきているのであれば三穂さんもいるはずだ。
あたしは森の中を進み始めた。
「あれえ?こんなに歩いたっけ?」
約五分後、森の中をひたすら登っているのだけど一向に車までたどり着かない。
そんな距離を下って来たかと思うレベルに。
「……そういや、あの時は逃げるのに必死だったし、下りだったから短く感じたとか……か?だとしても着かんな」
もう着いても良いはずだ。
逆にここまで歩いてたどり着か居ないと今だ神世に居るんではないかと思ってしまう。
「……リスちゃーん!」
「リスさん!」
「……ん?」
「お前さあ!居眠りするなよ」
「居眠りしてないっすよ!本当に狐が出たんですって!」
聞き覚えがある声が聞こえてくる!
「……やった!」
あたしは走った。
するとすぐに森から抜けちょうど今車を元に戻すことろに出くわした。
「あ!アリスちゃん!」
「アリスさんご無事で!」
三穂さんと四方田さんがあたしに駆け寄って来る。
「もう心配したんだよ?天宮が事故った直後から居なくなっちゃうし」
「……え?」
……どういうこと?
あたしの体感では丸一日が経過しているはずだ。
でも三穂さんの言いぶりだと……ついさっき事故が発生した可能ような口ぶりなんだけど。
……!
……もしかして……八咫さんが鳥居を抜ける際に何か魔法をかけた?
愛我村の時と同じように……時間を戻す……魔法?
「ははは、すみません。無傷だったのでちょっとだけ散歩を」
「もう!そういう事なら事前に言わないと!」
「以後気を付けます」
……言えるわけがない。
愛我村の件なら四方田さんが居たからこそ説得力があったんだ。
あたし一人が神世に行ってしまって、神様と会ってきましたなんて……信じてもらえるわけがない。
……これは……あたしだけの秘密にしておこう。
「そういえば車は大丈夫なんですか?」
「え?ああ……」
ガチャン!
車について尋ねた瞬間、横転していた車は元に戻った。
「……大丈夫みたいですね」
「でもまだ駄目だよ?横転したんだから最低限のメンテ!」
「うっす!」
すぐさま天宮さんがメンテナンスにかかる。
「……アリスちゃんは車で休んで良いからね」
「はい」
三穂さんの言葉であたしは車に乗り込む。
そして約十分後、車は無事エンジンが始動し、今日の目的地である出雲市の泊ったホテルに向かった。