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神?との邂逅編 神々の休憩所 4

「ふいー……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


 大浴場。


 いくつかある湯船の中の一つに入ったあたしは久しぶりに大きなお風呂に入ったことで……おっさんのような感嘆の声を上げてしまった。


 いやいや、寮にも大きなお風呂あるだろって?


 ……あるにはあるよ?


 でもさあ、知っての通りあたし激務じゃん?


 大浴場まで行く余裕ないのよ。


 ほぼ毎日仕事終わって、飯食って部屋のシャワー浴びて寝る毎日なのよ。


 それにあたしはそこまでお風呂とか温泉とかそこまで好きじゃないけどさ、実際一日しか経ってないけど、時間の巻き戻りとかの記憶あるからあたしとしては二日、三日ぐらい風呂に入ってないことになるんよ。


 さすがに大きなお風呂でゆっくりしたいじゃん。


 ただ……長居は出来ないんだけどね。


 八咫さんに顔の布は取るなと言われた。


 つまり、お風呂の中でも顔の布を付けたまま入らないといけないのよ。


 どっかの本で読んだことがあるけど、顔に布を乗せて水を掛ける、そして呼吸をしづらくするという拷問があるらしい。


 別に水をぶっかけられたわけでは無いけど、ここは温泉だ。


 つまり湯気がそこら中に立っている……つまり湿気があるのだ。


 湿気を含んだ布は柔らかくなり、顔にくっつく。


 つまり長居すれば自然と布が湿って顔に着き、セルフ拷問状態になるのだ。


 ここに居る他の神様も布をしている方たちがいるけど、多分魔法か何かで予防しているんだろう。


 でもあたしにこの空間で魔法使うことは出来ない。


 なので早く出なければならないんすよ。


 まあ問題ない。


 ある程度ゆっくりできたし、本来の目的の神様たちが温泉の雰囲気も楽しむことが出来た。


 十分だ。


「……さて、出るかね」


 体や髪を洗いたい気持ちもあるけど、それこそ拷問になるからやめておく。


 あたしは早々に大浴場を後にした。



「※※※※※※※!」

「※※※※※※!」

「……ん?」


 大浴場を出て、八咫さんの部屋に戻っている途中だった。


 何やら言い争いをしている二柱の神様たちが居た。


 一柱は何の神様かは知らないが中々の美人の神様だ。


 そしてもう一柱……恐らく声を掛けている方は……少しよれた浴衣で、あたしなりの言い方をすればチャラい男性の神様だ。


 何と言っているのか知らないけど、恐らく……温泉施設でナンパして……女性側が……拒否しているのかな?


「※※※※※※!」

「※※※※※※※※!」

「※※※※※?」

「※※※※※※」


 二人の言い争いが激化するせいで周辺に他の神様たちも集まって来る。


 ……やめてほしいんだけどなあ。


 この中にどれくらい人間嫌いの神様がいるのか不明な以上、この騒動に巻き込まれて正体がバレたらまずい。


 しかもだ、あたしが行きたい八咫さんの部屋はちょうど言い争いをしている二人が居る通路の先なのよ。


 別の通路もあるかもしれないけど、この施設の地図を知らないし、なるべく神様と出くわさずに行きたい……だとすると最短距離で行かないとまずいんだよなあ。


 つまり……あの喧嘩している二人の傍を通る必要があるわけで。


「……どうする?……ん?」


 気が付けば多くの神様たちが二人の喧嘩を見物に来ていた。


 ……はぁ、これだから神様は。


 酒の肴にするなら止めろよ。


 でもこれは好都合かもしれない。


 多くの体格も存在感も違う神様が集まっているような状況なら人間という現状ミジンコレベルの存在感しかないあたしなら気づかれずに通れるのでは?


「……行ってみますか!」


 あたしはゆっくり神様たちの間をぬうように通路を通り始めた。


「※※※※!」

「※※※※※※!」

「……」


 ゆっくりと喧嘩している二人の傍を若干しゃがみながら通っていく。


「※※※※※※!」


 バシッ!


「ぐっ!」


 その時だった。


 女性が振り払った男性の手が、あたしに当たったのだ。


 そんなことになるとは思ってなかったあたしは男性の腕に当たると転んでしまう。


「※?」


 あ、今のは……何て言ったのか分かる……多分……『あ?』だ。


 ポト。


 だけど当たった衝撃か、転んだ時かは知らないけど、あたしにとって今命のために必要な物……顔の布が取れて落ちてしまった。


「……あ」


 咄嗟に布を拾い、顔を隠す。


「……お前。人間か?」

「……イエ、チガイマスヨ?」


 なんでいきなり分かる言語で喋って来るんすか!


「一つ言っとくけどよ……顔を認識された時点で……その布は意味が無くなるんだ。もう顔を隠しても意味ないぞ?」


 ……まじかあ……終わった。


 ガシッ!


「ぐっ!」


 神様があたしの胸ぐらをつかみ持ち上げる。


 同時に顔の布をはぎ取った。


「……」

「はは、、本当に人間じゃねえか!お前ここがどこだかわかってんだろうな!神世、俺たち神しかいちゃいけない場所だ。そしてここは俺たち神が休む『菊乃湯』!人間が来ていい場所じゃねえんだよ!」

「…………」


 あたしだって来たくて来たわけじゃねえよ!


 ……でも言いたくても声が出ない。


 相手がどんな立場の神様だろうが、存在感が違う、オーラが違う、体や脳が恐怖を感じている。


 もし相手が政治家とか気に入らない名家の人なら文句や皮肉の一つを言えたのに。


「間違ってこの空間に入って来たならまだ分かるが、この中に入ってこれたってことは……誰かに手引きされたんだろ?一体誰かな?そんなことをするような変わった奴は、答えろ」

「…………あ」


 駄目だ、八咫さんに迷惑を掛けたくないのに恐怖で口が開いてしまう。


「……や」

「童だが何か文句でもあるのかのう?」

「あ?」


 ドスッ!


「ぐっ!」


 神様があたしを落とす。


 あたしの目的地、八咫さんの部屋の方角から今となっては救世主か?と思ってしまう声が聞こえた。


 八咫さんだ。


「…………!」


 あたしは八咫さんが見えた瞬間、急いで八咫さんの後ろに走って行った。


「てめえ……誰だ?」

「ほう?親のお陰でここに来れた身分くせに童の事を知らぬと……それなのにここではずいぶん態度がでかいのだのう」

「……あ?」


 やばい、今度は八咫さんとこの神様の喧嘩になっちゃった。


「童は八咫。少なくともお主よりは身分が高いのだが?」


 へー……そうなんだ。


「八咫……あ、お前か、八雲さまのお気に入りってやつは」

「別にお気に入りになったつもりはないのだが」


 八雲?……どこの神様よ。


 でも八咫さんもお気に入りになったつもりはない……ってことは、仕えてはいるのかもしれない。


「……ん?待てよ?八咫?あんたあれか!あんたが噂の外天津の……!」


 ドンッ!


「うおっ!」


 神様が何かを言った瞬間だった。


 八咫さんが突然杖を出すと神様に向けて魔法を撃った。


 何の魔法かは知らないけど、神様の顔面に直撃、顔の左半分が消し飛んだ。


「……Wow」

「……てめっ……なにしやが……」

「前にも言ったがの。童はもうこの国の神よ、お主たちがどう思うが童はお主たちと同じ存在だと思っておる。そのような言葉で区別されたくはない」


 ……八咫さんが何を言ってるのかは分からない。


 ただ、この国の神様たちはある程度出身で呼び方が変わるらしい。


 ……ていうか、神様も杖使うんだ。


「……うるせえよ」

「ん?」

「あんたがどう思うとな!てめえらの都合で作られた世界で生まれた俺たちはあんたらの言いなりだ!それが気に入らねえんだよ!」


 ダッ!


 顔の半分が消し飛んでいるのにも関わらず神様は突っ込んできた、接近戦か?


「まったく……ん?」

「……え?」


 ガチン!


 神様はあたしたちに到達することは出来なかった。


 ……何故なら……とある神様が間に入ったからだ。


 先ほどあたしの隣で飯を食べていた……甲冑の神様だ。


「お主……何故?」

「何だてめえ!邪魔すんのか!てめえもそっち側か!」

「……私は、付喪神。人に愛され誕生した。彼女は元の主とは違うが、人間という点はあっている。いかなる状況であろうと私は人を守るために存在するのだ」


 ……トゥンク。


 やっべ……惚れちゃいそう。信仰しちゃいそう。


 ただ隣で飯を食べてた変な神様と思ってすんませんでした。


「いけ少女よ。この者の言うとおり、お主はここに居てはならぬ存在、すぐに元の世に戻りなさい」

「え……あ、はい」


 確か付喪神って、最低百年間大事にされないと生まれないとは聞いたことがある。


 でもさあ……少女って呼び方はどうなんすか!


あたし一応二十歳ですよ?


確かに百年生きてる神様からすればあたしなんて少女かもしれませんけど!もっとこう……お嬢ちゃんとか……そっちの呼び方の方が嬉しいんですけど!直接は言いませんがね!


「八咫殿、その少女を連れて早く現世へ」

「もちろん分かっておる。行くぞアリス」

「は、はい」


 心の中で甲冑の神様にお礼を言うと、八咫さんについて行くあたしだった。



 部屋に着いたあたしだったけど、風呂に入ったはずなのに冷や汗をかいていることに気づく。


「あ、八咫さん」

「何じゃ?」

「すみませんでした、巻き込んでしまって」

「気にするな。童もついて行けばよかったと反省しておる」

「ははは……ん?……あれ?」


 突如、体が急激に重く感じた。


 頭が重くなり、視界も霞む。


 その場に膝をついた。


「なん……で?」

「お主は人間、多くの神に囲まれ、そして童の魔法を間近で見たのだ、神気に当てられたのだろうな。……まだ夜明けには少しある、ここなら休んでも問題ない、少し休め」

「……はい、すみません」


 あたしは急激に訪れる睡魔に逆らえず、そのまま眠ってしまった。


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