五歳になって得たスキルは、“魔物合成”と言うものであった。
この世界に来て五年。俺はかなり様々な事を調べては学んでいる。
折角異世界に来たのだから、そりゃ色々なものを見てみたい。
異世界を旅してみたいと思うのは普通だろう。
その学んだものの中には、“魔物”と呼ばれる存在もある。
魔物とは、体内に“魔石”と呼ばれる機関を持つ生物の事。魔物にとって魔石は第二の心臓であり、人とは明らかに肉体構造が違うと言う。
有名なものだとスライムとかゴブリンとか。
とにかく、ファンタジー系の物語に出てくる敵役とでも思っておけばいい。
そんな魔物だが、この世界における扱いも基本は敵だ。
魔物は危険な存在。
普通に人を殺すし、畑を荒らしたり家畜も襲う。
そんな魔物は討伐対象になっており、見つけたら殺せが常識である。
ただし、魔物を従えるスキルを持っている者も存在するので、必ずしも全ての魔物がそうであるとは限らない。
野生の魔物は危険。人によって管理されている魔物は安全。
それが、この世界における魔物への認識である。
で、俺が手に入れたスキルは“魔物合成”。
名前からして、魔物を合成するスキルなのだろう。
使い方も何となく分かる気がするが、しっかりと調べる必要がありそうだ。
と言うか、いきなり5歳になったら脳裏に知らない力が宿るって普通に考えたら怖いよな........
この世界だと当たり前らしいので、誰も疑問を抱かないのだが、日本生まれの俺は軽く恐怖を感じている。
「これで人生の大半が決まるとか怖いな。しかも、魔物関連のスキル........俺に魔王になれってか?」
ともかく、俺はスキルを手に入れた。
この状況を何とかできる便利なスキルなのかは、色々と検証をすれば分かるだろう。
やっと異世界らしい要素を手にしたのだ。どんなスキルであれ、少しはワクワクする。
それと同時に、少し怖くもあるが。
「お誕生日おめでとうございますジニス君。スキルは得られましたか?」
「うん。俺を拾ってくれてありがとうシスターマリー」
早速スキルを確認しようとベットから起き上がると同時に、部屋の扉が開かれてシスターマリーが俺の誕生日を祝ってくれる。
俺は、シスターマリーに拾ってくれた事に関しての感謝を伝えた。
彼女が俺を拾ってくれなかったら、確実に死んでいたからな。
「ふふっ、初めてですよ。そんな事を言われたのは。どんなスキルでしたか?」
「んー、試してみないと分からないかな。だから、少し外に行くね」
「........残念。スキルを得た日は必ず皆、これに引っかかってくれるのに。流石ですねジニス君」
「その手には乗らないよ。シスターマリーのお説教は長いからね」
危ない危ない。
シスターマリーめ。普通にスキルを聞いてきたぞ。
思わず口にしてしまいそうになったが、昨日言われた事を思い出して俺はスキルの名前を言うことは無かった。
そりゃ5歳児の子にそんな事聞いたら、必ず言っちゃうでしょ。
シスターマリーは怒らせると怖いけど、とても優しい人だとみんな思っているんだから。
5歳児にそんなトラップを仕掛けるんじゃない。
「じゃ、行ってくる」
「はい。お気をつけて」
早速スキルの確認をするために、教会を飛び出す俺。
孤児院とは言えど、誕生日はこの世界でも特別な日。
本来ならばそこまだ親しくない相手でも“おめでとう”と言われるのだが、ぼっちで友達が1人もおらず、また大人達からも不気味に思われている俺に“おめでとう”という者はいない。
俺も人とのコミュニケーションを諦めてしまったから仕方がないのだが、正直少し寂しかった。
「ここなら人目も無いかな」
協会の裏側。誰も居ない空き地にやってきた俺は、早速スキルを試そうとする。
が、そこで気が付いた。
あ、これ魔物がいないと無理じゃんと。
魔物を合成するスキルなのに、肝心の魔物が居ない。
何とかして魔物を手に入れる所から始めないと行けないとは、不便なスキルである。
「どうしようかね。森に入ってもいいけど、流石に危ないか?まだ体は5歳児だし、魔物に襲われたらひとたまりもない。下手をすればそこで死ぬな........」
魔物はこの村の裏にある森に生息している。
割と森から魔物が飛び出してくるので、子供は近づかないようにと大人達に言われていた。
当然、5歳児の身体で魔物と戦えるわけもない。多分スライム相手でも襲われれば普通に死んでしまうだろう。
しかし、今日ばかりは俺も少し気が大きくなっていたらしい。
危険を承知しながらも、俺は大人達の目を盗んで森へと行くことにした。
スキルを試したい好奇心に勝てなかった。後でバレたら、シスターマリーにお説教されるな間違いなく。
そうしてやってきた森。
この小さな体は便利であり、大人達の目を盗んで村を抜け出すのは簡単だ。
「魔物を捕まえる方法は........あぁ、魔物に自分が主だと認めさせて契約を結べばいいのか」
どのようにスキルを使うのかは、感覚が教えてくれる。
便利すぎるだろスキル。そりゃこれ程までに都合のいい力を手にできてしまうのだから、この世界はスキルが物を言う世界なのも頷ける。
だが、分からない事も多い。
取り敢えずは魔物を探してみよう。
森の中に入るのは流石に危なすぎると判断し、森の入口周辺でうろついていたその時。青透明のぷるんとした体を持った魔物が俺の前に現れた。
(ポヨン?)
「スライムか。やべ、逃げないと」
スライム。
青透明でポヨポヨとした可愛らしい魔物。しかし、その実態は相手を飲み込んで溶かすと言う危険な魔物だ。
強さは大人であれば簡単に倒せる程度だが、今の俺は5歳児。
どう足掻いても勝てるわけが無いので、俺は即座に逃げ出す。
距離はかなり離れている。村の中に逃げ込むぐらいは簡単だ。
「........ん?」
と、そこで俺は違和感に気がついた。
聞いていた魔物の実態としては、人間を見つけたらすぐに襲ってくるような野蛮な生物。
俺もそんなイメージが強いので(ゲームとかの影響で)勝手にそう思い込んでいたが、俺の前に現れたスライムは全く俺に敵意がないように思えた。
だって逃げ出した俺を追ってこずに、そこでポヨポヨしてるんだもん。
人間を初めて見たのか?それとも、単純に好戦的な子では無いのか?
そう言えば、本で読んだスライムよりなんか小さくないか?なんと言うか、子供のような........
通常、スライムの大きさは直径約50~60cm程。しかし俺の目の先でポヨポヨしている子は、その半分程度の大きさしかない。
人間と同じように魔物も赤子から子供に育ち、時間をかけて大人になる。
その中で、魔物達はこの世界のルールを知っていくと本に書かれていた。
そのため、子供の魔物は人間を見ても襲わない傾向にあるらしい。上手く行けば、手懐ける事すらできるそうだ。
もしかしたら、友達になれるかもしれない。契約を結んで魔物をゲットできるかもしれない。
そんな考えが脳裏を過ぎる。
この五年間、いや、言葉を話せるようになってからの約四年間。俺は人間関係に疲れていたのだろう。
俺は自然とそのスライムに近づき、気がつけば手を差し伸べていた。
「........なぁ、俺と友達にならないか?」
(ポヨン?ポヨン!!)
恐らくこのスライムは、人の言葉は理解していない。
だが、その差し伸べられた手の意味は理解したのだろう。
スライムは形を変形させて触手のようなものを伸ばすと、俺と握手を交わすのであった。
この世界で初めてできた友人。まさか、それがスライムの子供になるとは予想していなかったな。