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子供はすぐ仲良くなる


手を繋いだ瞬間、俺はスライムと契約した事を自覚した。


相手に自分が主だと認めさせる事で、契約を結ぶことが出来る他に、魔物の意思で契約を望んだ場合は契約が出来てしまうのだろう。


いやでも、流石に出会って間もない俺と契約を結ぶか?普通。


このスライム、もしかして危ない人について行っては行けませんって教わってないだろ。


子供故に純粋。子供故にすぐに友達になる。


人とは上手くかなかった俺だが、まさかここではすんなりと友人ができるとは思っていなかった。


魔物だけど。


「よろしく“スーちゃん”」

(ポヨヨン!!)


俺はそのスライムに“スーちゃん”という名前をつけた。スライムのスーちゃん。単純な名前ではあるが、スーちゃんは気に入ってくれたのか楽しそうにポヨポヨしている。


なんだろう。すごく可愛い。


俺はそんなポヨポヨしていたスーちゃんを抱きしめると、スーちゃんは更にポヨポヨして喜んでいた。


魔物にも生みの親がいるはず。それが見当たらない辺り、この子も捨てられた子だったりするのかな?


魔物の世界は人間の世界よりも残酷だ。俺が思っているよりも残酷で、容赦が無いことは知っている。


弱肉強食が顕著な世界であり、弱ければ生き残れないし、強ければ我が物顔で君臨できる。親に余裕が無ければ、子供は捨てられるのだ。


心細ったのかもしれない。例え人間が相手だろうとも、一緒にいたかったのかもしれない。


そんな勝手な想像をした俺は少しの間スーちゃんと遊んだ後、早速魔物合成をしようと考えた。


しかし、あることを思い出す。


魔物合成という名前から推察できるように、魔物と魔物を合わせる事でこのスキルはその力を発揮するはず。


つまり、もう一匹何らかの魔物を捕まえなけれならないのだ。


「出来れば、スーちゃんみたいな子を捕まえたいな。戦闘は正直無理だろうし、出会って直ぐに仲良くなってくれるような魔物かいい。となると、子供のスライムか」


子供の魔物は人と同じく、多くの事を知らない。


人を見ても襲ってこないし、好奇心旺盛な子ならばスーちゃんと同じく仲良くなれるはず。


なんと言うか、子供を騙す大人の気分になるが、この世界で生きていく以上必要な事だ。


多少の良心には目を瞑るしかないと俺は思っている。


「スーちゃん。スーちゃんみたいな小さなスライムを見たりしなかった?」

(ポヨン?)

「うーん。可愛いけど、俺の言葉は分からないか。可愛いんだけど」


可愛らしく体を傾けてポヨポヨするスーちゃん。スライムってこんなに可愛い生き物なのか。本で読んだ限りでは、結構グロテスクな殺し方をする子なんだけどなぁ。


そんな事を思いながら、とりあえず森の入口付近をもう一度うろうろとする。


そう言えば、村的に魔物って入れてもいいのか?


ちゃんと説明すれば納得してくれそうだが、俺はこの村で大分孤立している。


あまり表に出さない方が、スーちゃんの為にもなるかもしれない。


初めてできた友人を、殺させる訳には行かないしな。


最悪、シスターマリーに何とかしてもらおう。あの人はこの村でもかなり発言力が強い。


先にシスターマリーにだけは自分のスキルを教えて、相談するのもありかもしれない。


間違いなく、森に近づいた事とスキルをバラしたことでお説教を食らうだろうが。


「ん?あれは........」

(ポヨヨン!!)


スーちゃんを腕に抱えながら、ウロウロしていると、青透明の小さな魔物が姿を表す。


スライムだ。しかも、都合よくスーちゃんと同じ子供の個体。


周囲を見渡して見るが、周囲には親の姿も見当たらない。


あの子も捨てられたのか?魔物の世界は世知辛いな。


「スーちゃん、あの子も仲間にしよう」

(ポヨン!!)


俺の言葉を理解していないはずだが、何となく雰囲気を感じ取ったのかやる気満々なスーちゃん。


コミュニケーションという面では、意外とスライムって賢いのかもな。


言葉か分からずとも、雰囲気で感じ取る。空気読みが上手い。


俺はいつでも逃げられるようにしながらも、子供スライムに恐る恐る近づいていく。


すると、子供スライムは俺達に気が付き、少しポヨポヨした後俺の傍に近寄ってきた。


襲ってくるつもりか?それとも、好奇心から近づいてきたのか分からない。


逃げるかどうか迷っていたその時、スーちゃんが俺の腕から飛び出した。


「あ、スーちゃん」

(ポヨヨン!!)

(ポヨン?)

(ポヨンポヨン!!)

(ポヨ!!)


........何か会話している?


そのポヨポヨな体を揺らして、コミュニケーションを取っているように見える。


そして、少しした後、スーちゃんはその子供スライムを連れてこちらにやってきた。


どうやら、既に友達になってしまったらしい。


子供ってすぐに仲良くなるからね。気がつけば友達になっているものなのだ。


俺も、五歳児の思考回路が残ってたら上手くやれたのかなぁ。


今のところ、スライム達の方が接しやすいんだけど。


(ポヨンポヨン!!)

「友達になったのか?」

(ポヨヨン!!)


なんて言っているのかお互いに分からないが、雰囲気だけでそれらしい会話をする俺とスーちゃん。


これで“お前を殺す!!”とか言ってたら俺の人生はここで詰むなとちょっと思いながらも、スーちゃんが仲間にしたもう片方の子供スライムを見る。


この子も可愛いな。見分けが正直つかないぐらいにはそっくりである。


慣れてきたら見分けられるのだろうか?


「ジニスだ。よろしく」

(ポヨン!!)


手を差し伸べると、子供スライムはそれが友好の挨拶だと察して、スーちゃんと同じように体の形を少し変えて俺の手を握る。


そして、契約は結ばれた。


繋がりを感じる。この子はもう、俺の友達である。


「よし、これで合成ができるかな?........いや、その前に確認しないといけないことがあるか」


今の二匹を見て思った事がある。魔物を合成するのはいいが、その合成を拒む様な子は必ず出てくるのでは無いか?と。


逆の立場で考えてみれば簡単だ。自分という存在が消える可能性があることを、そう易々と受け入れられるのか?


そういう話である。


「なぁ、スライム達。お前達は合成されてもいいのか?」


正直、意味の無い質問だと思う。


スライム達は俺の言葉は分からず、雰囲気で何となく俺の言いたい事を察しているだけ。


この言葉の意味もあまり分かってないだろう。


(ポヨン!!)

(ポヨヨン!!)


スライム達は、よく分かっていないながら同意してくれた。


これじゃぁ、本当に子供を騙している大人だな。年齢的には子供だけど。


これは、真っ先に魔物の言葉が分かるような子を捕まえなければならない。


言葉が分かれば、もっと親密なコミュニケーションが出来るはず。この子達がなんて話しているのか、純粋に気になるしね。


だが、今はスキルの理解を深めることが先だ。もしかしたら、スキルを修練していけば魔物の言いたい事も分かるかもしれない。


「もし、文句があったなら、話せるようになった時に頼むよ。その時は怒られるから」


俺はそう言うと、スキルを使う上で必要となる魔力と呼ばれる特別な力を消費して────


「魔物合成」


この世界で初めてスキルを使う。


さて、どんな風に合成されて、どんな風に成長するのかな?


少しばかりワクワクしてしまっている自分がいる。


........


........


「((........?))」


あ、あれ?何も起こらない。


おかしいな。俺が理解しているスキルの手順では、これで合っているはずなんだが。


え?なんで合成出来ないんだ?


俺は、二匹のスライム達と共に首を傾げるのであった。

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