合成が上手くいかなかった。
魔物の数は足りているはず。少なくとも、俺が脳内で理解しているスキルでは最低二体の魔物がいれば、合成はできるはずである。
しかし、合成ができなかったと考えると、合成にはその他にも何らかの要素が必要になるのだろう。
正直、思い当たる節はある。
この魔物合成と言うスキルは、とあるゲームによく似ている気がするのだ。
あの、某有名なRPGゲームの派生ゲームで、その作品に出てくる魔物を仲間にして旅をするあのゲームに。
あれも魔物を合成する。
このスキルを手に入れたその時から、“似てるなー”とは思っていた。
で、そのゲームには魔物の他にもう1つ必要なものがある。
それがレベルだ。
この世界にレベルという概念があるかどうかは分からないが、少なくとも俺が調べた限りではレベルという存在は認知されていないし、確認するすべもない。
そりゃ試しましたよ。異世界に来て最初の頃に頭の中で“ステータスオープン”とかやったさ。
でも、青透明な画面が出てくることは無かった。
やはり異世界転生系でステータスは廃れて────
と、そんな訳でレベルやステータスという概念はこの世界に少なくとも認知されていない。
言葉としてはあるかもしれないが、世界のシステムとして組み込まれている可能性は低かった。
だが、経験と言うものはある。
経験を積むことで、魔物を合成できるのでは?
俺はそう考えたのだ。
「今の俺とこの子達で魔物を倒せるのか........?正直、かなり賭けになりそうだよな」
自分でも分かっているが、今も大分危ない橋を渡っている。
俺は五歳で同然ながら力は無い為、敵対的な魔物に出会った時点で即アウト。
一応逃げられるように身構えてはいたが、この一日で二匹のスライムを仲間に出来たのはご都合展開と言ってもいい。
だが、こういう幸運に身を任せるといつか死ぬ。
俺はこの世界の主人公では無いのだ。
でも、スキルの確認はしておきたい。できる限り早めにスキルの詳細を知っておくことで、今後の人生設計や計画が立てやすくなるだろう。
困ったな。命は大事に行きたいが、今後のことも考えればスキルの確認もしたい。
板挟みである。
「スーちゃん、スーちゃんは魔物に勝てるの?」
(ポヨン?)
俺の足元でポヨポヨしていたスーちゃんに話しかけるも、スーちゃんは身体を傾げるのみ。
どっちなんだその反応は。勝てるのか勝てないのか、分からないぞ。
本当にどうしようかと悩んでいたその時であった。
ガサガサっと草木が揺れる音が聞こえ、そちらに視線を向けると緑色の小人の姿が現れる。
悩む時間が長すぎたみたいだ。ゴブリンが出てきてしまったぞ。
序盤の定番魔物“ゴブリン”。
作品によっては狡猾で外道な魔物で人間の女性を襲うと描かれているが、この世界におけるゴブリンはちゃんと種族内で繁殖する。
というか、基本的に全ての魔物はその種族内で繁殖する。
くっ殺なんて展開はなく、普通に殺されて食われるのがこの世界なのだ。
「緑色の肌に醜い顔。小さな体格だが、普通に大人を殴り殺せるぐらいの力はあるって書いてあったっけ。ただし、頭が弱い。単調な攻撃しかしてこないから、かなり狩りやすいって話だったな」
(ポヨン!!)
(ポヨヨン!!)
「え、ちょ!!スーちゃん?!」
本で読んだゴブリンの情報を口に出して整理していると、スーちゃん達が飛び出す。
俺が停める間もなく、二匹のスライムはゴブリンに向かって突っ込んで行ってしまった。
魔物の子供は自分の経験を通して敵と味方の区別をつける。それはつまり、スーちゃん達はゴブリンと戦った事があるという訳だ。
そう出なければ、先手をとって攻撃に出ようとはしない。
戦いは基本、先に殴った方が有利である。
「グギギ?!」
(ポヨヨン!!)
(ポヨン!!)
ゴブリンに向かっていくスーちゃん達は、示し合わせたかのように二手に別れるとゴブリンを挟み撃ちにする。
ゴブリンは1匹。低脳(らしい)ゴブリンは、この状況に一瞬どちらを狙おうか戸惑う。
........と言うか、スーちゃん達普通に足速いな。
もし、スーちゃん達が俺に敵対的だったら、俺の異世界ライフはここで終わってたかもしれん。
今度からもう少し考えて行動しよう。今生きているのは、間違いなく運が良かっただけだ。
日本という平和な国に生まれ、どこか心の底で“俺は大丈夫”という慢心があったのかもしれない。
(ポヨン!!)
「グギッ!!」
ゴブリンに飛び込むスーちゃん。ゴブリンはそんなスーちゃんを迎え撃とうとしたが、そこでスーちゃんは方向転換してゴブリンの一撃を避ける。
攻撃を完全に釣った。ゴブリンは頭が弱いが、スライムはかなり賢いらしい。
(ポヨヨン!!)
「グポッ!!」
そして、攻撃を空ぶった隙を見てもう片方のスライムがゴブリンの顔に取り付く。
スライムの狩りは、基本相手を窒息させるやり方。
その粘液で顔を覆って、相手の呼吸を止めさせる。
さらに、体内に取り込んだらジワジワと酸で削るのだ。結構エグい殺し方である。
「ごぽぽ!!」
(ポヨン!!)
顔に取りつかれたゴブリンが、何とかスライムを顔から剥がそうと藻掻く。
しかし、フリーになったスーちゃんがそれを許さない。
全力で体当をして、ゴブリンを押し倒して動きを止めた。
しかも、何度も何度も殴っていく。
ゴブリンは最後まで藻掻き苦しみ、最後はビクンビクンと身体を痙攣させてぶっ倒れた。
うわぁ........顔がドロドロになってるし、結構グロい。
ついさっきまでは“スライムって結構可愛いな”とか思っていたが、こんな光景を見せられると流石に引く。
怪我をしたとか、鼻血が出たとか、そういう次元の話ではない。
顔は未だにじわじわ溶けて、血が溢れだしている。
半透明なスライムの体が赤く染り、徐々にその赤さが消えていく。
俺はこの世界に来て初めて“殺し合い”と言うものを見た。
とてもグロテスクだし、正直見ていてあまりいい気はしない。
しかし、吐き気とか気持ち悪さは感じなかった。
意外と俺は、こう言うグロテスクなものに耐性があるのかもしれない。
(ポヨン!!)
(ポヨン!!)
“やってやったぜ!!”と言わんばかりに飛び跳ねて身体をぶつけるスーちゃん達。
これが魔物本来の在り方なのか。
正しく弱肉強食。食うか食われるかの世界。
弱い者は死に、強い者だけが生き残る。
今後俺がこの村を飛び出して旅をするならば、この弱肉強食の世界に身を置かなければならない。
その覚悟ができているのか。
そう見せつけられているような気もした。
(ポヨン!!)
(ポヨヨン!!)
「ありがとスーちゃん。それにスライムも。お陰で助かったよ」
((ポヨン!!))
ゴブリンを倒したよ!!と言いたげな雰囲気で俺に近寄ってくるスライム達。
この光景を見せられた後ならば、ちょっとはビビって身を引いてしまいそうなものだが、俺はそんな事はしなかった。
この子達は俺の友達。
しかも、俺を守ってくれたのだ。
お礼を言って、その頭を撫でてやるのが友人としてやるべき事だろう。
ここでは俺がどれだけ賢かろうが、どれだけ見た目の言動が合ってなかろうが、誰も気にしないのである。
シスターマリー以外に唯一、素を出せる友人。
まだであって二時間程度だが、そこには確かな友情があった。
「2人ともカッコよかったよ」
(ポヨヨン!!)
(ポヨン)
「わっ!!あはは!!抱きしめて欲しいのか?」
俺の胸に飛び込んできて俺を押し倒し、その上でポヨポヨするスーちゃん達。
俺はそんなスーちゃん達を見て、この世界に来て久々に笑ったのであった。