この世界の弱肉強食を見せつけられ、この世界の厳しさを少しながらも実感した俺はスーちゃん立ちを褒めまくった。
本当に運が良かったと思う。
スーちゃん達が“人間は自分達が襲う危険な生物”と学習していたら、俺は今頃あのゴブリンのように人様には見せられない姿になっていただろう。
平和ボケした短絡的な思考というのは危ないものだ。修羅場をくぐった事が無いから尚更、その危険性を認知していない。
今後、こうして魔物を仲間にしていく上で、俺自身が強くなる必要もあるな。
........取り敢えず筋トレでも始めるか?
そんな事を思いつつ、俺はスーちゃん達と少しの間遊ぶ。
ただただ抱きしめたり、そのポヨポヨな体をポヨポヨしてあげるだけだったが、スーちゃん達は楽しそうであった。
「さて、これで合成ができるのかな?改めて聞くけど、合成していいかい?」
((ポヨン!!))
この数時間で仲が深まったお陰か、俺の言いたいことを察してくれるスーちゃん達。
もしかしたら、スキルのお陰で意志の疎通が取りやすくなっているのかもしれない。
単純にスーちゃん達がすごく賢くて、もう人の言葉を覚えただけの可能性もあるが。
俺も魔物の言葉が分かれば、もっと沢山話せるのにな。
この世界にやって来て、今マトモに話しているのはシスターマリーだけなのだ。
子供のフリ、それも年少さんぐらいの歳のフリをするのは前世の記憶がある俺からしたらかなり辛いものがある。
俺にもこんな時代があったのかとは思うが、それを真似する気にはなれないのだ。
「それじゃ行くよ。魔物合成!!」
俺が魔物合成のスキルを発動すると、体内から魔力と呼ばれる力が抜けていく感覚を味わう。
魔力とは、スキルを使う上で必要不可欠な力。
その他にも様々な使い方があるが、ゲーム風に言えばMPである。
この世界では全ての生物に魔力が宿る。そして、その魔力の塊となったものが魔石であり、魔物の心臓となっているのだ。
魔力に関しては、生物どころか空気中にもあると言われている。
食べ物を食べたり、休息を取ると魔力が回復するのは、この外からの魔力を体内に取り込んでいるからだ。
そう本に書いたあった。本が嘘をついていたら知らん。
(ポヨン?!)
(ポヨヨン?!)
今回は上手くスキルが発動したのか、スーちゃんとスライムの体が不自然に動き距離を縮める。
そして、一瞬光り輝くと、そこには1匹のスライムがいた。
一瞬の光に目が眩んでどう合成されたのかをしっかりとこの目に焼き付けることが出来なかったが、魔物合成は上手く行ったのだろう。
「........スーちゃん?」
(ポヨン!!)
合成されてからピクリとも動かないスライムを見て、少し不安になった俺はその名前を呼ぶ。
すると、自分の名前に反応してスーちゃんは俺に近づいてきた。
そして、俺の足元までやってくると、ポヨポヨとして感情を表す。
飛び跳ねてるし、多分“おっきくなった!!”って言ってるのかな?
スライムとスライムを合成させた結果、出来上がったのはスライムであった。
いや、まぁ、それはそうなんだけどさ。
ここでゴブリンとか出てこられても反応に困るし。
どんな技術を使ったら、スライムがゴブリンになるんだよって話だからね。
「おっきくなったね。子供スライムから大人スライムになった感じかな?」
(ポヨポヨン!!)
見た目はスライムのままだが、スーちゃんは大きく変わった。
直径30cm程の大きさから、直径60cm程の大きさに。高さも少しばかり大きくなっている。
予想はしていたが、子供スライムから大人スライムになったのだ。
「ポヨポヨ度も増してるね。凄い触ってて気持ちいいかも」
(ポヨポヨ!!)
大きくなったスーちゃんを撫でると、スーちゃんは楽しそうに俺の手を受け入れる。
良かった。性格は変わってないみたいだ。
合成した時にどちらかの性格が引き継がれるのか、それとも新たな性格になるのか。
まだスーちゃんだけでしか合成をしていないので、ここら辺はのちのち調べるとしよう。
本当に言葉が話せる子が欲しい。スーちゃんは可愛いけど、言葉は話せないのだ。
話せなくても友達だけどね。
「まだ時間はあるし、村に戻って人目のない場所で遊ぼっか。やっぱりシスターマリーだけには話は通しておいて........あとは見つからないようにしないとね。大人達はスキルへの理解があるからともかく、子供は魔物を悪い存在としてしか認識してないはずだし」
(ポヨン!!)
とりあえず、確認したい事は全て確認した。
今回は運が良かったからスーちゃんと言う友人が出来たが、今後もこんな感じで都合よく事が進むとは思えない。
それに、スライムを村に入れると言う行為も問題になりかねない。
魔物は基本人の敵。魔物も基本人間は敵。
それがこの世界における互いの認識だ。
そんな中でスライムが村に入ってきていたら、間違いなく討伐されるだろう。
俺は間違いなく怒られるが、シスターマリーにだけは話を通しておいた方がいい。
あの人は村長とかにも顔が効くから、大人達の問題は解決できる。
しかし、子供達はそうもいかない。
魔物は悪いやつ。スキルなんで知ったこっちゃない子が殆どだ。
英雄ごっこで魔物役をやらされる子とかいるからな普通に。そこに本物の魔物が来たら?
その後を想像するのは簡単だろう。
スーちゃんは友達だ。友達を危険な目に合わせるつもりは無い。
「ごめんねスーちゃん。多分、結構迷惑をかけるかも」
(ポヨン?)
「魔物は基本、人の敵だからね。特に子供はスキルとかそういうことは考えないから。後、俺自身ちょっと村で浮いててね。立ち回り方を間違えるといじめの標的になりかねない。そんな中でスーちゃんを守るためには、徹底的に隠した方がいいと思うんだ」
(ポヨ........ポヨン?)
魔物と人間の生き方は違う。今のスーちゃんにこんな事を言って理解できないだろうが、すぐに分かってくれるはずだ。
やはり、俺自身も強くならないとな。最低限、戦闘系のスキルを持っていない相手に喧嘩で勝てるぐらいにはならないとダメだ。
「鍛えるか。旅をする上で必要なのは分かりきってるし、始めるのは早い方がいいわな。それと、スーちゃんももっと強くなろう。俺と一緒に」
(ポヨン!!)
とりあえず、今からやるべきことは決まった。
旅に出るために強くなる事、そして、スキルに対しての理解度をもっと上げる事。
具体的な旅の目標はまだ決まっていないが、その前の段階でやるべき事を今から始めるのだ。
「一緒に帰ろうか。今日から俺達は家族だよ」
(ポヨヨン!!)
こうして、俺はスキルを得たその日にスーちゃんと言うスライムを家族に加えるのであった。
なお、その後当たり前だが勝手に村を出て森に行ったことをシスターマリーに死ぬほど叱られ、二時間ほど正座してお説教を聞く羽目になった。
怒らせたら怖いとは分かっていたが、本当に怖かった。
淡々と問い詰めるのやめてくださいシスターマリー。
あまりに怖くて、ちょっと泣くほどには圧が凄かったんだけど。
しかし、そのおかげもあってか取り敢えず大人達からスーちゃんは狙われることは無くなり、俺がちゃんと世話をするという条件でスーちゃんを村に入れることを許して貰えた。
そしてごめんなさいシスターマリー。多分俺はこれからも目を盗んで魔物を仲間にしに行きます。
スーちゃんと共に、強くならないと行けないからね。
その後、何度も村を出たことがバレて怒られる日々が続き........スキルを得てから約3年の月日が経つのであった。