目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

グランドスライム


スキルを得て、初めての友人が出来てから3年。


俺はスクスクと村で育っていた。


しかし、相変わらずぼっちである。


別に俺はコミュ障という訳では無いはずなのだが、ここ五年以上マトモに人とコミュニケーションを取ろうとしてこなかった弊害か、上手く人と話せなくなっていた。


いや、話せるには話せる。ただ、友人と呼べる程に仲の良い人を作れなかっただけだ。


子供の頃から一緒にいた子達は、当然大きくなってもその子供と遊ぶ。


俺は、輪の中から抜け出したが故に、その輪の中に入ることが出来なくなってしまっただけなのだ。


そして、幼少期に大人達に気味悪がられたのもあって、あまり大人とも話したくない。


こうして、結局ぼっちは治らなかった。


唯一の話し相手(人間の中では)は、シスターマリーのみ。


シスターマリーが居なかったら、割とマジめに人との話し方を忘れていたと思う。


「スーちゃんも大きくなったねぇ。昔はあんなに小さかったのに」

「アレだけ合成されれば、嫌でも大きくなるものだ。それより良いのか?孤児院の手伝いがあったのでは無いのか?」

「もう終わったよ。洗濯物を干すだけだしね」

「そうか」


3年前、俺と友人になり契約を結んだスライムのスーちゃん。


俺はこの3年間、スキルを調べる次いでにスーちゃんを強くしようとこっそり森へと通っていた。


危ない場面も何度かあったし、シスターマリーにはその度に叱られてきた。


俺のスキル的にどうしても必要なことなので理解は一応してしてくれるのだが、それはそれこれはこれ。


一度怪我をして帰ってきた時は、本気で心配された後しばらくの間俺が森に行かないように監視まで付けられる始末だ。


なお、その監視は既に解けている。


これに関しては俺に何を言っても、無駄だとシスターマリーも既にわかっているのだろう。


スーちゃんが今の状態になってからは、お手伝いをちゃんと済ませれば特に何も言われなかった。


むしろ、最近はその日の出来事を聞いてくる。


スーちゃんを除きこの村で唯一の話し相手なためか、俺の口も軽かった。


そして、肝心のスーちゃんだが、なんか滅茶苦茶大きくなっている。


高さ5m、横幅10m程にもなるスーちゃん。


昔は小さくて俺の腕に収まりきる程度だったのが、今では俺を頭の上に乗せてポヨンポヨンするスライムになってしまった。


「グランドスライムかぁ。それより上ってあるのかな?」

「多分あるぞ。確信はないが、なんとなくそう感じている。また合成をさせて行けば、更に大きくなるかもしれん」

「あはは。その時はスーちゃんの上で遊べそうだね」

「既に遊んでおるだろうに」


魔物合成をしていくと、魔物が強くなっていく。


3年間、コツコツと合成させ続けた結果、スーちゃんはグランドスライムと呼ばれる滅茶苦茶強いスライムになってしまった。


でかいし、言葉も話せる。


初めはポヨポヨして感情を表しているだけのスーちゃんが、今や人の言葉を話し、俺と毎日のように会話をしてくれた。


この村でシスターマリー以外に話せる、俺の唯一の友人である。


もちろん、村の人達はスーちゃんが徐々に大きくなっていくことに気がついていたが、所詮はスライムと思っていたのだろう。


気がつけば、村人達も下手に手を出せないほどにまで大きく、そして強くなってしまった。


流石に目立ちすぎるので、スーちゃんは今村の外で生活してもらっている。


森の出入口付近で魔物を倒して、村に貢献しているよアピールをすることでスーちゃんが居ることに文句を言う人はいない。


こっそり森に入ろうとした子供を止めて、シスターマリーからも感謝されてたしな。


まぁ、そのあと“ジニス君が森に入る事も止めて欲しいのですがね”とチクチクされていたが。


グランドスライムは、たった一体で街が滅ぶほどには強いらしい。


そんな相手に真っ向からものを言えるシスターマリーは、実は大物なのかもしれない。


「して、今後の方針は決まったか?」

「んー、とりあえず旅をするつもり。この村に俺の居場所はほぼ無いからね。シスターマリー以外に話す人がいないし」

「はっはっはっ。相変わらずだな。私がまだ小さかった頃から、話し相手は私かシスターマリーだけだった」

「子供達の中でできている社会に入り込めず、大人達の社会にも入り込めなかった結果だよ。無理にでも入っておけば、多少は今よりもマシだったかもね」

「........ジニスと同じ年齢の子供は何度も見ているが、やはり同い年とは思えない発言だな」

「転生者だからね。この身体で生まれる前の前世の記憶があるから」


スーちゃんは、合成される前の記憶を全て引き継いでいる。


合成させる子達の記憶も全て引き継ぎ、新たなスーちゃんとして成長するらしい。


その過程で、俺はまだ話せない頃のスーちゃんに自分は転生者であり、元は日本という国で高校生と言う学生をしていた事を話してしまっていた。


内緒にしてもらうように言っておいてはあるが、それ以外に大きな問題は無いと俺は思っている。


スーちゃんに知られても、別に困ることは無いのだ。


人間相手だとちょっと面倒事になるかもしれないが。


俺が賢かった事を“悪魔が取りついてる”なんて考える世界だからな。前世があるなんて言った日には、何があるか分かったものでは無い。


「その賢さが仇になるとは皮肉なものだ」

「まぁ、俺も俺で馬鹿だけどね。戦えもしない五歳の頃に、村を飛び出て森の入口に来たんだから。スーちゃんと出会わなかったら間違いなく死んでたよ」

「はっはっはっ。それで言えば、私も愚かだったな。人間という生物を理解しておらず、興味本位で近づいてしまったのだから。ジニスでなければ、私も今頃転生者になっていたかもしれん」

「でも、こうして友達になった。何が起きるか分からないものだね」

「全くだ。人間の友人ができて、共に毎日を過ごすことになるとは、私も予想していなかったよ」


お互いに馬鹿だったからこそ、今がある。


俺とスーちゃんはお互いを笑った。


「して、今日も行くのだろう?スライムを捕まえに」

「もちろん。シスターマリーからも“日が暮れる前には帰ってきてくださいね”って言われてるからね。10歳まではこうした生活ができるけど、その後をどうしようかな」

「この村では10歳になると働きに出るのであったな。村人として生きるか、村を出るのか。基本は前者だと聞いた」

「10歳なんて子供も子供だよ。そんな子供が親の保護もなく街の外に飛び出したらどうなると思う?」

「食われて死ぬな」

「そう言う事。それに、街に行けば当然知らない人達だらけで、何も知らない子供は食い物にされる。魔物の世界とあまり変わらないかもね」


この村では10歳になると何らかの職に就く。


俺もそれまでの間には、自分の道を決めなければならない。


この村でもう少し大きくなるまで過ごすのか、それとも10歳頃に村を出るのか。


その時の魔物の集まり具合を見てから考えようと思っている。一応鍛えてはいるけど、体は細いままだし身長も平均より小さい。


スーちゃんはどう考えても街の中には入れないから、街の中に一緒に入れる子が欲しいなとは思っている。


「スーちゃん、小さくなれたりしない?」

「無理だな。残念ながら」

「旅をするなら、スーちゃんを上手く隠せる方法が無いと困りそうだな........」

「すまんな大きくて」

「いや、責めてるわけではないよ。俺は寧ろ、スーちゃんの上で昼寝するのとか好きだし」

「はっはっはっ。可愛い寝顔を見るのは私も好きだぞ」

「可愛いか?俺」


俺とスーちゃんは、そんな話をしながら森の中へと向かっていく。


さて、今日も仲間を作るとしよう。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?