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迷子のピクシー


スーちゃんがグランドスライムとか言う凄まじく大きな魔物に成長し、魔物集めがだいぶ楽になった。


グランドスライムは、スライムの中でも最高峰に近い戦闘力を誇る。


単純に大きくて質量がある為押しつぶすだけで大抵の生物は死ぬし、スーちゃんの体内にある酸も凄まじく強力。


ピュッと、軽く酸を飛ばすだけでそこら辺の木がドロドロに溶けた時は流石にびっくりした。


そして、何気に1番びっくりするのが、スーちゃんはこの見た目でゴリゴリの武闘派であると言うこと。


その軟体な体を活かして予測不可能な動きをしながら、相手をぶん殴るのである。


ゴブリン相手に軽くやって貰ったが、パンチを食らった瞬間にゴブリンの顔が弾け飛んでいた。


あんなの食らった日には、俺もあの世行きである。


「おー、仲間になってくれるの?」

(ポヨン!!)


森の中に入り、少し魔物を探せば割と簡単に見つかる。


森の浅い場所にはスライムとゴブリンがよく出現し、この3年間の間にかなりの数の子を仲間にしてきたが魔物が枯れる気配は全くなかった。


そして今日も、早速スライムが一匹仲間になる。


「スーちゃんを見ると、結構な確率で自分から仲間になりたがるよね」

「私はスライムの中でもかなりの上位種に当たるからな。魔物の社会は、強い者に付き従うものだ。それが身の安全にも繋がる。まぁ、魔物によってはそれが返って危険な場合もあるが」

「へぇ、そうなんだ。魔物の世界も大変だね」


スーちゃんがグランドスライムになってからは、通常のスライムが自分から仲間になる事が多かった。


“スライムが仲間になりたそうにこっちを見ている!!”と言うやつである。


強いやつに匿ってもらうのが一番いいのだろう。中にはそれでも戦おうとする気合いの入った子もいるが、殆どの場合は自ら仲間になろうとするのだ。


「よろしくね」

(ポヨン!!)


握手をして契約を結ぶ。


多分合成されてしまうだろうが、それまでの間はよろしく頼むよ。


合成についてだが、俺は子の3年間であるルールを設けている。


仲間になった魔物が、合成を嫌がるようなら合成はしない。


合成前には必ずそれぞれの本人の意思を確認し、了解が得られた上で合成をする。


これだけは、絶対にルールとして守る事にした。


友達が嫌がる事をしないのは当たり前。魔物だろうが友人となったのならば、ちゃんと相手の事も尊重する必要がある。


しかし、今のところ、仲間にした子達の中で合成を嫌がる子は居なかった。


俺なら嫌なんだけどな。自分が消えてしまうと考えると。


ここら辺は、魔物と人間の価値観の違いがあるのかもしれない。例え合成されたとしても自分自身が消える訳ではなく引き継がれるのだから、合成されて強くなった方がいいと魔物は考える場合が多いようだ。


実際に合成されてきたスーちゃんが言うのだから間違いない。


「この調子で───」

「いやぁぁぁぁ誰か助けてぇぇぇぇ!!」


この調子でスライム達を仲間にして行こうと言いかけたその時、森の奥から悲鳴が聞こえてくる。


人の声だ。しかし、この森に入る時は必ずスーちゃんがみているはずだし、今日は誰かが森に入ったという報告は聞いていない。


俺はスーちゃんを見たが、スーちゃんは器用にポヨポヨな体から触手を出すと?マークを作った。


どうやら、スーちゃんにも心当たりは無いらしい。


「どうする?」

「そりゃ助けるでしょ。村の人だったら、助けてあげないと」

「ふむ。それはそうだな」


急いで声の方に向かうと、そこにはゴブリンに追いかけられていた小さな妖精が居た。


手の平サイズで空を飛ぶ小さな魔物。人型でその背中からは羽が生えている。


どう見ても人間では無い。


「あれなんなの?」

「おそらくピクシーと呼ばれる魔物だな。スライム達が噂していたのを耳にはしていたが、まさか本当にピクシーがいるとは驚いだ」


ピクシー。


魔物図鑑には乗っていなかったが、その名前は聞いたことがある。


人間に祝福を授ける魔物として知られており、ご利益のある魔物と言い伝えられている。


実際にどんなご利益があるのかは分からないが、囁かな幸運があるんだとか。


「どうする?」

「もちろん助けるよ。言葉が話せる魔物は貴重だからね。もしかしたら、友達になってくれるかも」

「うむ。では助けてやるとしよう。おーい!!こっちだ!!」


スーちゃんがピクシーを呼ぶと、ピクシーはスーちゃんの大きさに少し驚きつつ素早く方向転換してこちらに向かってくる。


そのピクシーを追いかけていたゴブリン達も、方向転換をしてこちらにやってきた。


「助けてぇ!!」

「スーちゃん。お願い」

「任された」


刹那、スーちゃんの体から出たスライムの触手が鞭のようにしなって視界から消える。


そして次の瞬間には、ピクシーを追いかけていたゴブリンの頭が吹き飛ばされていた。


何が起きたのか全く分からないが、おそらく触手で頭を弾き飛ばしたのだろう。


あまりに早業すぎて、俺の目では全く追えなかったが。


「ハァハァハァ........し、死ぬかと思った........」

「大丈夫?」


フラフラと空から地面に落ちてきて、その場で膝を着くピクシー。


俺はそんなピクシーに手を差し伸べた。


白銀に輝く長髪。かなり綺麗な姿であり、魔物とは到底思えない。


人間サイズだったら、普通に人間と間違えてしまいそうだ。


「あ、ありがとう。助かったよ........って、人間?!」


息を切らしたピクシーは、俺を見ると四つん這いのまま後ずさりしていく。


魔物にとって人間は敵。それはピクシーでも変わらないようだ。


「落ち着いて。俺は危害を加えるつもりは無いよ」

「そんなはずは無い!!お母様が言ってたもの!!人間は私達を乱獲して檻の中に閉じこめる恐ろしい生き物だって!!」


なるほど。ピクシーから見た人間はそう言う感じなのか。


しかし困ったな。俺は別に彼女を怖がらせたい訳では無い。


だが、人間と言うだけで彼女は俺を怖がるだろう。


種族ではなくて個人を見るのは、中々に難しいのだ。


こういう時はどうしたらいいのかって?決まっている。同じ魔物の助けを借りるのだ。


俺は、スーちゃんに視線を送るとスーちゃんは、ポヨンと揺れた。


次の瞬間、ピクシーの姿が消えて、スーちゃんの前に現れる。触手で掴んだのだ。


「小娘よ。そなたを助けたのは、そこの人間だぞ?恐れるよりも先ずは感謝が先では無いのか?」

「な、何よ。あのゴブリンをやっつけたのは貴方じゃない」

「然り。だが、助けてあげるように指示を出したのはジニスだ。その指示が無ければ、私はお前を助けてなどいない」

「うぐっ........」


スーちゃんスーちゃん。ちょっとやりすぎ。


見た目が小さな女の子だから、すごく罪悪感が湧く。


とりあえず離してあげよう。このままだと、本気で怖がられてしまう。


「スーちゃん、離してあげて」

「ふむ。分かった」


スーちゃんはそう言うとピクシーを離す。


するとピクシーは空を飛びながら俺の方を向いて、何やらモジモジとし始めた。


何か言いたそうだったので、俺は何も言わずにじっとその言葉を待つ。


「あ、あの。助けてくれてありがとう。それとごめんなさい。ゴブリンに襲われてちょっと気が動転してて........それに、人間は皆悪い奴ってお母様が言ってたから........」

「気にしてないよ。魔物から見た人間は敵なのは間違いないからね」


むしろここでちゃんとお礼を言ってくれた事に驚いている。


まだこの子も子供っぽいな。子供は純粋が故に、自分が見たものを信じてしまう。


別に檻に閉じ込めたりする気は無いが、いい子すぎてちょっと心配である。


「俺と友達にならない?何があってここにいるのかは知らないけど、ここにいる間は一緒に過ごそうよ。スーちゃんが守ってくれるしね」

「いいの?」

「もちろん!!話せる子は多い方が楽しいよ」


俺はそう言うと、手を差し出す。


ピクシーはコクリと頷くと、俺の指先を抱きしめるのであった、

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