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冒険者になるべき


ピクシーが仲間になった。


白銀の長髪を揺らすピクシーは、とても可愛らしくヒラヒラと空を飛ぶ。


どうやら彼女は迷子になっているらしく、2年ほど前に親と喧嘩して家出し、そのまま家に帰れなくなってしまったそうだ。


魔物にも親子喧嘩とかあるんだな。


価値観や構造が違うだけで、以外と魔物も人と変わらない。スーちゃんやその他のスライム達を見て思ったことだ。


まぁ、だからと言って魔物と人間が共存する世界を作りたいとは思わない。


そんな事をすれば、面倒事待ったナシだ。俺は王の器では無いので、王様になっても速攻で国が崩壊することになるだろう。


それに、全ての魔物が人間と仲良くしたい訳でもないからね。人間もまた同じである。


あくまでも俺は、魔物と一緒に暮らしていく。それだけなのだ。


「へぇ、ピクシーは魔法が使えるんだ」

「えぇ、使えるわよ。ただ........その、今は魔力が尽きてて無理だけど。ここに来る前にも魔物に襲われて、そこで魔力を使い果たしちゃったの」

「だからゴブリンから逃げてたんだ」

「そういう事」


ピクシーと言う非常に珍しい魔物と契約を結んだ俺は、ピクシーについて色々と聞いていた。


既に本人には名前があるそうで“シル”という名前を持っているらしい。


シルが住んでいた場所は、ピクシー達の住む楽園。


大きな海を渡ってきたと言っていたので、おそらくどこかの島だと思われる。


そして、ピクシー最大の特徴が魔法を使えるという点だ。


スーちゃんに聞いた感じ、魔物には“スキル”という概念が存在しない。


スーちゃんの体内に酸があったり、ゴリゴリの格闘家みたいな戦闘が可能なのは、あくまでもその魔物として最初から備わっている能力のようなものだ。


ピクシーにも当然種族としての能力が備わっており、それが魔法と言う訳である。


「魔法かぁ。俺は使えないからね。ちょっと羨ましいや」

「私も使えんな。存在は知っているが」

「人間は魔法も使えるんじゃないの?」

「使える人と使えない人がいるんだよ。人間は5歳になると“スキル”って呼ばれる特殊な力が宿ってね。そこで魔法が使えるスキルが宿らないと使えないんだ」

「へぇー。お母様の話からして、人間は皆使えると思ってた」


俺もスキルという存在を知るまでは、魔法が使えると思ってたよ。


魔法系のスキルを獲得した人にしか使えないものだと分かった時は、本当に落ち込んだ。


大魔道士になって俺TUEEEE!!とか正直やってみたかったし。


で、得られたスキルは魔物合成とか言う、一歩間違えたら魔王にもなれそうなスキル。


今はスーちゃんという友人ができて楽しいから良かったと思うが、正直ハズレ枠だと最初は思ったよ。


「それにしても、ピクシー達が住む楽園か。ちょっと気になるね」

「話から察するに、どこかの島らしいな。海を渡る家出とは、中々に気合いが入っておる」

「あはは。確かに」


ピクシーの楽園。ちょっと行ってみたいものだ。


シルは家族に会いたがっているっぽいし、目的地の1つに加えるのはアリだな。


「やっぱりなるべきか。冒険者に」

「ほう。なるのか」

「なに?その冒険者って」


異世界の定番組織、冒険者ギルド。


この世界にも冒険者ギルドは存在しており、国家に属さない超巨大組織だ。


基本的には非合法な仕事以外はなんでも請け負う“何でも屋”であり、街の掃除から薬草採取、魔物の討伐と幅広い仕事を請け負っている。


この冒険者ギルドは社会のセーフティーネットとしての役割を持ち、雇用の問題を一気に解決してくれる組織であった。


困ったら冒険者になれと言われているほどには、冒険者とは便利な職業なのだ。


そして、旅をするならば冒険者になるのが1番都合がいい。


一応、行商人とか教会に所属して見習い神父として旅をすることも考えたが、どちらも結構面倒なしがらみが多い。


行商人は物資の輸送が面倒だし、見習い神父は教会絡みのことが多くなる。


シスターマリーのおかげで宗教に対しての偏見は若干薄まったが、やはり日本や地球のゴタゴタとかを見ていている俺からすれば宗教組織という物は信用出来なかった。


となると、消去法で冒険者になるしかない。


ほぼ全ての国と地域にある組織だし、犯罪行為に手を染めなければ結構自由な組織だから小回りが効く。


問題は冒険者はかなりの弱肉強食な世界で、子供が入ると食い物にされる可能性が高いと言うところだが........何とかするしかない。


俺は戦闘系のスキルを持っている訳では無いから、魔物達に守って貰わないと行けないんだよね。


その為には、街に入れる魔物が必要だ。


「冒険者ってのは職業の一つだ。ただ、俺のような子供が入っても、カモになるだけだね」

「この村ならば問題ないだろうがな。私が居るし、何かあれば私が黙っていないとこの村の者は分かっている」

「そうだね。でも、この村を出るとスーちゃんが街に入るのは結構厳しくなる。街中で俺が襲われれば終わりだ」

「........あ、ふーん。なるほど?私が変わりに守ってあげればいいってことね?スーちゃんは大きすぎて街に入れないから、小さな私がジニスを守ってあげると」


理解が早くて助かるよ。伊達に2年間、1人で生きてきただけの事はある。


ピクシーはとても小さい。強さの程は分からないが、少なくとも俺よりは断然強いだろう。


だって魔法が使えるんだし。


俺なんて“ファイヤーボール”とか言っても、何も起きないからね。


一応、肉体作りのトレーニングはしているが、細いままで力もあまり無いのが現状なのだ。


「ジニスは旅に出たいの?」

「うん。恥ずかしい話だけど、俺の住んでる村では俺は結構浮いててね。スーちゃん以外にまともな友達がいないんだ。そんな人が、村という狭い空間の中で生きていくのは難しいよ」

「あー、ピクシーの楽園でも似たような感じがあったなぁ。私も友達が少なくて、ちょっと浮いてたし」

「シルよ。ジニスの場合それどころでは無いぞ?子供にしては賢すぎることが疑われ、悪魔が取り付いているのではないかと大人に噂されるほどだ。お陰で、マトモに話せる大人は一人しかいない」

「親は?」

「居ないよ。俺は孤児で、この村のシスターに育てられてきたから」

「あ、ごめんなさい........」


孤児だと言うことを伝えると、申し訳なさそうに謝るシル。


魔物にもそう言う価値観はあるんだな。


ちなみに、スーちゃんも親は既に居ない。どうやらゴブリンに襲われて、スーちゃんを守り死んでしまったそうだ。


だから、初めて出会った頃、ゴブリンを見てポヨポヨと怒ってたんだな。


当時は怒ってるとは知らなかったが。


「いいよいいよ。気にしてないし。俺の親はシスターマリーだからね」

「良いか、シル。間違ってもシスターマリーだけは怒らせてはならんぞ。すごく怖いからな。グランドスライムとなった今でも、シスターマリーだけは怖いと思うぐらいには」

「え、そんなに怖い人間なの?どうしよう、すごく会いたくない」


いや、怖くはないよ。普段は。


ただ、叱られる時は滅茶苦茶怖いってだけで。


普段は子供達に分け隔てなく愛を降り注いでくれる、正しくメシアの様な人なのだ。怒る時は、地獄の閻魔の方が優しいとすら思うぐらい怖いけど。


「ま、シスターマリーの事は一旦置いておくとして、早速シルの魔法を見に行こうよ。さっきから楽しみなんだよね。魔法を見るの」

「村でも使えるものは少ないし、村の中で攻撃的な魔法は使えないからな。正直、私も楽しみだ」

「魔力もそこそこ回復したし、見せてあげる!!でも、あまり期待しないでね」

「すごく期待しておくよ」

「うむ。そうだな」


こうして、俺は冒険者になる決意をしてシルの魔法を見るために魔物を探すのであった。


いつの日か、ピクシーの楽園に行くのも良さそうだな。

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