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魔法ってすげぇ!!


ピクシーのシルを仲間にし、世界を見て回るために冒険者になる事を決意した俺は、一旦そこら辺の話は置いておいて魔法と言うものを見ることにした。


村にも魔法が使える者は居るのだが、残念な事に俺はシスターマリー以外には避けられている(避けている)のもあって魔法を見せてもらった事がない。


教会の手伝いをした後はスーちゃんと遊ぶか森に行って、仲間を増やすことばかりだったからな。


それに、魔法系のスキルは貴重なのか村の中で使える人が3人しかいないと言う。


本を読んで得た知識では、魔法は魔力と呼ばれるエネルギーを消費して、この世界に様々な現象を引き起こすらしい。


指先から火を灯したり、何も無い空間から水を出したりと生活が楽になるだけではなく、当然戦闘にも使えるのが魔法という力なのだ。


「ピクシーにはスキルなんて概念がないのに、なんで魔法が使えるんだろう?」

「おそらく、その種族の特性なのだろうな。スライムは体内に酸を持っているが、人間は持っていないだろう?鳥が空を飛べるのは種としての特徴であるが、スライムや人間は飛べない。そういうことだ」


一応、人間も酸は体内にあるんだけどね。胃液って言うんだけど。


もちろん、スーちゃんはあくまで例えで出しているだけなので俺は素直に“なるほど”と頷いておいた。


鳥が空を飛べるのは、種族としての特性。


そこにスキルが介入しないのは、当然の話である。


ピクシーが魔法を使えるのは、鳥が空を飛べるのと同じように生まれながらにして備わっている能力という訳だ。


羨ましいね。


「シルは、どんな魔法が使えるの?」

「んー、炎を出せたり水を出せたり、風を起こせたりできるかな。後、ちょっと空間を操れるよ!!」

「空間?」

「うん。こう、空間をねじ曲げてぐにゃっと出来るんだよね」


それが凄いことなのかどうなのか全く分からないが、シルがすごく自慢げに話すので多分凄いのだろう。


空間を操る系のキャラは基本強キャラ。もしかしてシルって相当強いのでは?


そんな事を思っていると、森の中からゴブリン達が現れる。


ここ3年間ずっと見続けてきた魔物だ。こっちの話を全く聞かないし、ボコしてもまるで仲間になろうとしないクソ厄介な魔物である。


契約する際は、仲良くなるか自分が上だと示さないとダメなのだが、ゴブリンは自分を倒した相手を上だと認めるらしい。


つまり、スーちゃんが倒してもスーちゃんの一応の主である俺には全くと言っていいほど懐かないのだ。


まだ体が出来上がっていないこの時期にゴブリンと戦うのは危険すぎるため、ゴブリンと契約を結んだ事が1度もない。


スライムは割とそこら辺が賢くて、俺にも懐いてくれるんだけどね。


1回、スライム達をいっぱい集めてポヨポヨ祭りを一人で開催したことがあるが、とても楽しかったなぁ。


「出たわねゴブリン。さっきは魔力が尽きて魔法が使えなかったけど、今回はそうもいかないんだから!!」

「怪我しないようにね」

「任せなさい!!」


ゴブリンに追い掛け回された事をまだ恨んでいるのか、やる気満々のシル。


シルは俺の肩から飛び出すと、両手を前に出して何やら念じ始めた。


「ねじれなさい!!」

「グギピャァ!!」

「グピャッ!!」


両手を前に突き出して少し祈った後、その手の前に魔法陣らしきものが現れてゴブリンが死んでいく。


ゴブリンの死体は本来ではありえない方向に体がねじ曲げられ、全身から血を吹き出して死んでいた。


多分今のが空間魔法なのだろう。


凄い。凄いんだけど、空間って目に見えないから派手さが全くなくて何が起きたのかよく分からない。


“どうどう?!ずごいでしょ!!”ってドヤ顔しているシルはとても可愛らしいのだが、視覚的に分かりづらい攻撃をされてもちょっと反応に困ってしまう。


「魔力があれば蹴散らせるのよ!!どう?凄いでしょ」

「凄いね。一切ゴブリンに触れずに倒しちゃった。でも、もうちょっと分かりやすい魔法にして欲しいかな。素人の俺からしたら何が起きているのかさっぱりだよ」

「ハッハッハ。私もだな。いや、凄いのは分かるのだが、私達から見るといきなりゴブリンが死んだだけにしか見えんのだ。もう少し分かりやすい魔法を見せてくれないか?」

「む、そこまでは考えてなかった........」


ここで空間魔法がどれだけ凄いのかを語らずに、素人の目線を考えて反省できる辺りシルは凄くいい子だし賢いんだろうな。


やってない人から見ると何が凄いのか分からない事、あるよね。


全く知らないゲームの大会とか見ても、何が起きているのかさっぱりだし何がスーパープレイなのかも分からないみたいな。


「んー、なら次はもうちょっと分かりやすいのを見せてあげる」

「助かるよ。シルは優しいね」

「えへへ。そうでしょ」


可愛らしく笑ったシルは、そう言うと次の魔物を探し始めた。


この森には沢山の魔物がいる。少し歩けば、またしてもゴブリンがやってきた。


「グギギッ!!」

「次は炎の魔法を見せてあげる。これなら分かりやすいと思うよ」

「お願いね」

「楽しみだ」


シルはそう言うと、再び手を前に出して魔法を唱える。


魔法陣が現れ、そこから出てきたのはなんと火の玉であった。


おぉ!!ファイヤーボール!!


異世界........と言うか、魔法の定番とも言える魔法“ファイヤーボール”。


魔法の中には様々な分類があるのだが、その中でも敵にダメージを与える攻撃魔法の中で最も基礎的な魔法がこの魔法らしい。


この世界に来て初めて魔法を見た俺は、ちょっとテンションが高くなっていた。


「グギャ!!」


火の玉はゴブリンに命中し、ゴブリンが悲鳴をあげて苦しむ。


肉の焼ける匂いが漂ってきて、少しすればゴブリンの丸焼きが完成した。


ちなみに、ゴブリンは死ぬほど不味いので食べない方がいいらしい。本当に食料に困った時の最終手段だと本に書いてあった。


人間に食べられないようにするために不味くなったのか、それとも単純に人間の口に合わないのか。どっちなんだろうな?


「どう?これなら何が起きたか分かりやすいと思うけど」

「凄いよシル!!今の魔法に名前とかあるの?!」

「ファイヤーボールだね。魔法の基礎中の基礎の魔法だよ。ある程度生活に役立つ魔法を覚えた後に、一番初めに習う攻撃魔法だね」

「いいなぁ........俺も使ってみたいよ。スキルの関係上絶対に使えないんだけどさ」

「自身の才能が分かるというのは、ある意味残酷だな。無駄な時間を過ごさずに住むが、挑戦するという行為そのものを無駄だと否定されかねない」


全くだよ。人から夢と希望を奪い取っているのだ。スキルという存在は。


無駄な時間を過ごさなくて済むという点はたしかに素晴らしいが、挑戦する機会を失わせている。


人類は、スキルによって支配されていると言ってもいい。


多分それはこれからも変わらないだろう。


「人間とピクシーはそもそもの構造が違うから、練習したら使えるとか気軽に言えないよね」

「まぁ、基本やるだけ無駄なんだよね。冒険者になると決めた以上、肉体作りと戦闘技術は磨くつもりなんだけど、どう頑張っても戦闘系のスキル持ちには勝てないし........」

「それを補う何かが必要という事だな。そしてジニスの場合、私達がその役目を担うという訳だ」

「守ってあげるよ!!私に任せて!!」

「あはは。期待してるよシル」


その後、俺はシルの魔法をいくつか見せて貰い、楽しい時間を過ごすのであった。


火の槍?!氷の槍?!何それかっけぇ!!


え?雷も使える?!見せて見せて!!

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