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ミニシルキー


仲間になったピクシーのシルはとにかく強かった。


多彩な魔法が扱えると言うのは、それだけでかなり強いらしく次から次へと魔物達を倒していく。


俺には到底真似できないものだ。


いいなぁ、俺も魔法を使ってみたいよ。ファイヤーボールじゃなくてもいい。指先に炎を灯す位はやってみたいものである。


普通に旅でも役立ちそうだしね。


さて、話は変わるが俺が冒険者になれるのは10歳からであり、後二年ほどは子供として労働の義務を背負わなくてもいい事になっている。


この2年間で冒険者になるために必要な魔物達を集める必要があるのだが、シルを強くすればいいのでは?と言う考えに至った。


手のひらサイズの小さな妖精。


今後どのような成長の仕方をしていくのかは分からないが、少なくともスーちゃんほど大きくなることは無いだろう........多分。


スーちゃんはスライムを合成しまくった結果できた子であり、実はまだ別種類の魔物同士での合成を試した事がない。


シルと合成する場合、そこだけは心配の種であった。


「魔物合成?それがジニスのスキルなの?」

「そうだ。スーちゃんは元々小さなスライムの子供だったんだよ。それを俺とスキルで魔物同士を合成して、ここまで大きくなったんだ」

「ハッハッハ。3年ほど前まではそこら辺にいるスライムよりも小さかったのだぞ?気がつけば、ジニスを頭の上に載せられるほどに大きくなったがな」


そしてシルを合成する前に、必ず確認しておかなければならない事がある。


それが、本人の意思だ。


魔物合成について分かっていないことも多い。記憶が引き継がれる事は分かっているが、今後どのようにシルが成長するのかもよく分かってない。


シルが嫌だと言えば、俺は合成をするつもりはなかった。


嫌がる子を無理やり合成しても、いい事はないからね。信頼関係を失ってしまうぐらいなら、強くならずに仲良く遊び相手になってもらった方が俺としてもいいのだ。


「ふーん。で、その合成をすると私が強くなってジニスを更に守れると」

「そういう事ではあるんだが、最悪その姿から大きく変わる事になる。無理に強くなってくれとかそういう話じゃないから、ゆっくり考えた後に決めて欲しい」

「ん、ならいいよ。私、強くなりたいもん」


驚くほどあっさりと合成の提案を受け入れたシル。


そんなに簡単に決めていいものなのか?スーちゃんの時もそうだが、魔物はここら辺の価値観が大きく違うな。


自分が自分で無くなるという可能性よりも、強くなると言う事の方を優先しがちだ。


厳しい生存競争の中では、自分と言う存在よりも生存が優先されるのだろうか?


「本当にいいのか?正直、まだ出会って一日も経ってないし、お互いの事をよく知らない。自分が自分でなくなる可能性もあるんだぞ?」

「それでもいいよ。スーちゃんを見ている感じ、ジニスは信用できそうだし。それに、ジニスは無理にでも合成できるよね?多分。それなのに私の意思を聞いてきてくれているんだから、それだけで優しいのは分かるよ」


言われたとおり、俺は多分やろうと思えばシルの意思など聞かずに簡単に合成出来てしまうだろう。


それでも本人の意思を尊重しようとしているのが、シルから見たら信用に値するらしい。


誠実さというのは、魔物にも通じるようだ。


「なら合成するよ?どんな姿になっても文句は言わないでね」

「可愛くなかったら文句言うかも。だから、可愛くお願いね!!」

「それはちょっと保証しかねないかも........魔物合成!!」


俺はそう言うと、今日仲間にしたスライムとシルを合成させる。


初めてスーちゃんを合成した時のようにピカッと光が溢れ、その眩しさに目を瞑り目を開けると、そこには可愛らしい女の子がいた。


背中から羽は生えているが、その大きさがあまりにも違う。


ピクシーだった頃は、精々俺の掌の二倍もない程度。


しかし今は5歳児ぐらいの女の子になっていた。


しかも、メイド服を着ている。こんな魔物がこの世界に存在するのか?


「シル、どう?」

「まずはジニス様にご挨拶を。ミニシルキーのシルでございます」

「「........」」


スカートの裾を持ち上げて、優雅にお辞儀をするシル。


先程の天真爛漫な元気な女の子から一転、お淑やかでお上品なこになってしまった。


そのあまりの変わり様に、俺もスーちゃんも黙ってしまう。


そういえば、合成した後に性格がガラリと変わることはあったな。


スーちゃんも最初は“遊んで遊んで!!”って感じの子だったが、今じゃかなり大人びた感じのスライムになっているし。


グランドスライムから言葉を話すようになったから、その時は俺が解釈違いを起こしていたのかと勝手に勘違いしていた。


俺は多分間違ってなかったんだな。スーちゃんもガラリと性格が変わったタイプである。


「ハッハッハ。随分と変わったなシルよ」

「随分と人間に見た目が近づいたね。本当に魔物?背中の羽がなかったら、人間にしか見えないよ」


随分と大きくなってしまったし、その見た目はかなり人に近い。


ミニシルキーって言ったよな?おそらく名前からして、シルキーと呼ばれる精霊の前段階。


家事精霊シルキー。と言えば、勝手に人の家に上がり込んで家事をして去っていくと言う変わった魔物であり、その姿は人の姿と変わらないらしい。


実際街な中でシルキーが確認された例もあるらしいが、シルキーかどうかを見分けるのは特殊な方法が必要になってくる。


しかし、本当に家事だけ済ませてどこかに行ってしまう魔物なので、魔物の中ではかなり安全な部類の魔物と認知されていたはずだ。


かなり珍しい魔物らしいな。生涯1度も見ることなく人生を終える人の方が、圧倒的に多いと言われている程には。


「シルは魔物でございます。もちろん、ピクシーの頃であった魔法も健在です」

「それは良かった。ところで、ちゃんと可愛くなれた?可愛くなかったら文句を言われるらしいんだけど」

「ご安心を。とっても可愛くなれました!!」


パァっと顔を輝かせて笑うシル。


口調はかなり変わったが、根っこの部分はシルのまま。多分、スライム側の記憶とか性格も少し混ざってるんだろうな。


「しかし、不思議な感覚ですね。記憶を2つ持つと言うのは。しかも、どちらも“私”です」

「ハッハッハ。最初は慣れんだろうが、直ぐに適応できる。私なんて何百体ものスライムの記憶がここにあるからな。彼らは皆、私の中で生きているのだ」

「なるほど」


シルはそう言うと、自分の手を見つめて何度もグーパーグーパーとする。


そして数秒した後、手を銃の形にして横に振った。


「グギッ!!」

「魔法の制度もかなり向上しています。凄いですね。魔物合成という力は」

「間違いない。その気になれば、ジニスはこの世界に王にすらなれると私は確信しているよ」

「やめてよ。俺は王になるつもりは無いよ。色々な魔物と契約して、仲良くなりたいだけだし」


魔物を統べる王って完全にそれ魔王だから。


流石に魔王になる気は無いし、そもそも俺は王の器ではない。


俺はただ遊び相手になったり話し相手ななってくれる子が欲しいだけである。モフモフとかポヨポヨとか、そういう子達とのんびり異世界を巡ってみたいのだ。


面倒事?ノーセンキュー。


お願いだからこっち来ないで。


「何がともあれ、これからも宜しくお願い致しますジニス様。私の持つ全てを持って、ジニス様にお仕えします」

「よろしくねシル。それと、俺達は友だちであって主従関係では無いから、もっと楽にしてね?」

「それはお断りします。親しき仲にも礼儀ありです」

「いやこれ、礼儀の範疇超えてるから」


こうして、俺はロリっ子メイドを仲間にしてしまった。このまま合成を続けたら、メイド長とかになるのかな?

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