ミニシルキーと言う5歳児程度の子供になったシルを仲間にしてから1週間程が経過した。
シルはあっという間に人の生活に慣れ、普通に人間としてこの村で生活を共にしている。
シスターマリーや村の大人達には魔物であることを伝えたのだが、やはり見た目というのは人に与える印象を大きく変えるのだろう。
シルを人間として扱う人はかなり多く、シスターマリーなんかは完全にシルを子供として接している。
見た目にしては賢すぎる問題も“まぁ、本来は魔物だしな”で片付くのズルくない?
俺、それで死ぬほど苦労してきてんだけど。
それと、スーちゃんの件で村人達が魔物に慣れたというのもあると思う。
スーちゃんはこちらが何もしてこない限りは特に大きな害もない。むしろ、積極的に魔物を倒してくれるので村の安全を守っている。
そういう点からも、この村は少しだけ魔物に対して寛容になっている気がした。
俺への態度は未だに他人行儀すぎるが。
人の印象は第一印象の時点で7~8割決まるなんて言われている。子供たちはともかく、話せるようになってから接した大人達からは、少し避けられているのが分かった。
「この村はジニス様の事をどうして避けるのでしょうか?」
「シルぐらいの頃にちょっと賢すぎてね。それを不気味に思われちゃったんだよ。その印象がまだ強いから、みんな俺に接しようとしない。同じ年の子達ともあまり話が合わないから、完全に浮いてたんだよね」
「........?賢いと何が問題なのですか?」
「自分の知る常識と外れた行動を取る者は皆近づきたくないという事だ。シルよ。人間の社会は思っている以上に複雑なのだよ」
「ですが、私は特にそう言ったものがないですよね?」
「元々が魔物だからな。魔物は人間も理解が浅い。だから、“そういうものだ”と受け入れられるのだ。ピクシーだった頃、自分とは大きく違う子が居なかったか?居たとしたら、その子の事をどう見ていた?そういう話なのだ」
「申し訳ありませんスーちゃん。ピクシーは基本みんな変わり者でそれが当たり前でしたので........」
「そ、そうか」
ピクシーってみんな変わり者なんだな。
そう思いながら、俺は俺の上に座るシルの頭を優しく撫でる。
ピクシーからミニシルキーになったシルは、とても可愛らしかった。妹ができたみたいな感じで、個人的にはとても甘やかしてあげたい存在である。
また合成して姿が変われば印象も変わるため、ミニシルキーのシルは今しか甘やかせない。
やってる事は大分事案に近い気がするし、かなり気持ち悪いとは分かっていながらも俺は甘やかしまくっていた。
ま、まぁ、シル自身喜んでくれてるし?犯罪では無いはずである。
「今日は少し森の奥に行こうか。新しい魔物がいるかもしれないし」
「ほう。それはいいな。では行くとしよう」
スーちゃんの上に乗って森の中を移動していく。
森の中では木々が生い茂っているため、スーちゃんのような巨体は動きづらいと思うかもしれないが、スーちゃんはその大きな体を器用に伸び縮みさせながら移動していた。
木々の間をスルスルと移動する姿は蛇のようであり、昔みたいに飛び跳ねて移動はしない。
滑らかに滑るように移動するのが、今のスーちゃんである。
「シルもまた強化してあげるからね。今度もスライムがいい?」
「そうですね。ゴブリンはちょっと生理的に嫌です。スライムは結構友好的な子が多くて、ピクシーとして飛び回っていた時も何度かお世話になったんですが、ゴブリンにいい思い出はありませんから」
「スライムって結構好奇心旺盛でいい子が多いよね。一度敵対心を持たれるとその種族ごとダメになるけど」
「ハッハッハ!!私はものを知らなすぎて、ジニスと仲良くなったからな。スライムたちの話を聞き、自分の目で人間を見てきた今ならば分かるが、あれは自殺行為だった」
「俺もだよ。スーちゃんじゃなかったら死んでたね」
「ハッハッハ!!私達は似たもの同士だな。お互いにあの頃は愚かだった訳だ」
そんな和やかな話をしていると、スーちゃんの足(体)がピタリと止まる。
魔物を見つけたのかな?
「何かいたの?」
「これは珍しいな。魔武器だ」
「あ、本当ですね。魔武器が落ちてます」
魔武器。
その名の通り、魔物の武器である。
ひょんな事から人間に捨てられた武器が、周囲の魔力を取り込んで魔物として生まれてしまったり、人為的に武器に魔石を埋め込むことで武器を魔物にしてしまった武器の事を指す。
分かりやすい例えだと、魔剣なんかは魔武器の部類だ。
剣から炎が出たり、なんか特殊な力が使えたり。
そういう事が出来る。
当然、俺も魔武器にはちょっと憧れがあったりする。いつかは手に入れられたらいいなぁとは思っていたが、こんな森の中に落ちているのは予想外だ。
一体どんな奴が落ちているのだろうか?出来れば、剣がいいな。有名な魔剣は全部かっこいいし。
そんな事を思いながらスーちゃんの頭から身を乗り出すと、そこには稲を刈るための鎌が落ちていた。
武器っていうか、農具。
正直魔剣が落ちているとは思っていなかったが、まさか農具が落ちているのは予想外すぎる。
「魔武器と言うか、魔農具だよねこれ。パッと見、魔武器には見えないんだけど」
「ちゃんと魔物の気配を感じるから、魔武器だな。だが、かなり力が弱い。ジニスがその手に持っても特に抵抗してこないだろう。まだ生まれたばかりで、かなり弱々しいな」
「そうですね。おそらく子供........いえ、赤子かと」
魔武器にも赤子とかそういう概念があるんだ。
確かに分類上は、魔物とそう変わらないとは本に書いてあったけど。
魔武器の食料は魔力。特に生物から得られる魔力が主食であり、ゴブリンやその他の武器を使う魔物を操ってご飯を確保するパターンが多い。
人の手で作られたやつはまた少し違うらしいが、自然で発生した魔武器の生態はこうなのだ。
その為、魔武器を見ても触れるなが常識。
しかし、俺の前に落ちている鎌は。生まれたばかりすぎてあまりにも弱々しいらしい。
それこそ、俺が拾っても大丈夫な程に。
「本当に俺が拾っても大丈夫なの?」
「問題ないと思うぞ。もし万が一があっても、私とシルが居るならば助け出せる」
「不安ならば、私が先に手に取ります。私でしたら操られませんし」
「いや、自分で取るよ。ちょっと武器も欲しいと思ってたしね」
俺はそう言うと、スーちゃんから降りて草刈り用の片手鎌を手に取る。
鎌をよく見るとボロボロで、あまりにも弱々しかった。
多分、使い捨てられたものが魔物化した姿なんだろうな。これ紙すら切れなさそう。
「どうだ?」
「特に何も感じない........お?」
特に何も感じないなぁと思っていると、魔物と契約した時の感覚が流れ込んでくる。
どうやら、本当に魔武器だったらしい。
こんな鎌も立派な魔武器か。想像していたのとはまるで違うが、それでも魔武器は魔武器。
せっかく手にして契約までしてしまったのだし、このまま俺のメインウェポンとして頑張ってもらうか。
魔物ってことは合成できるんだろう?最初から最強武器を持つのもつまらないし、一から育てて最強の武器にしてしまおう。
「お前は今日からデスサイズだ。一緒に頑張ろうな」
「........」
死神の鎌、デスサイズ。
明らかに名前負けしたその名前を付けてしまったが、いつの日かその何ふさわしい姿になってくれるだろう。
俺は何も言わないし何も感じないその鎌を優しく撫でると、漆黒の大鎌に育ってくれることを楽しみにするのであった。
ま、違っていてもそれはそれでよし。どうせ愛着が湧いて、ずっと使い続けることになるだろうしな。