デスサイズ(名前負け)を手にしてから、更に一ヶ月が経過した。
この1ヶ月間の間はとにかく魔物を仲間にしては合成を繰り返し、シルとデスサイズの強化を頑張り続けた。
残念ながら、合成したからと言って、必ずしも見た目が大きく変わる訳では無い。
しかし、その力は着実に受け継がれて行くので、少しづつだがシルもデスサイズも強くなって行った。
ポヨポヨのスーちゃんと、妹のような可愛らしい存在のシル、そして俺のメインウェポンであるデスサイズ。
この三体との生活は結構楽しかった。
スーちゃんが話せるようになってからは、より一層孤独を感じなくなったし毎日が楽しい。
最初こそハズレ枠かと思っていた魔物合成というスキルは、俺の生活を大きく変えしまったのだ。
「デスサイズも随分と綺麗になったね。これなら立派な武器だよ」
「最初の頃は錆び付いてて、ものを斬るどころか鈍器として殴っても壊れそうでしたからね」
「残念ながら、まだ大きくはなれないようだがな。仕方がないといえば仕方がないか。デスサイズはまだ生まれて1ヶ月少しの赤子。人間でいえば、ようやく立ち上がったぐらいの頃なのだしな」
姿が大きく変わることは無かったが、俺のメインウェポンであるデスサイズは随分と綺麗になった。
最初はシルの言う通り、錆びと刃こぼれが酷すぎて斬ることはおろか、殴っただけで壊れそうな程にはボロボロだった。
できる限り弱い。生まれたばかりなスライムを倒して何とか経験を稼ぎ、何度か合成した結果、今は新品のようにキラキラとしている。
まだ意思の疎通は難しいが、デスサイズは心做しか“どや、綺麗やろ”と言わんばかりの姿であった。
いつの日か、デスサイズとお話出来たらいいな。どんな性格で何を思っているのか非常に気になる。
ちなみに、スライムを倒す事は問題ないのかとスーちゃんに聞いたのだが、スーちゃんは“それで死ぬ方が悪い”と言うスタンスであった。
同じスライムだし、同族が亡くなるのが悲しいのかと思ったが、どうやらそうでも無いらしい。
未だ8歳の身体とは言えど、少しは大きくなった身体ならば赤子スライムぐらいは何とか倒せる。
初めて魔物を倒したが、別に仲がいい子だった訳では無かったからなのか罪悪感とかは感じなかった。
スーちゃんとかシルに対して愛情はあるが、それ以外は所詮他人。俺は自分が思っていた以上に異世界に染まっている事に驚いた。
特にショックを受けたりとかは無いけどね。
郷に入っては郷に従え。その価値観の中で生きていくしかないのである。
さて、そんなデスサイズの小さな成長と自分の変化に驚きつつも、俺はあることが気になっていた。
最初は俺よりも圧倒的に小さく、ポヨポヨとしていた可愛いスーちゃん。
今ももちろん可愛いし、俺の初めての友達兼保護者的な立ち位置でよく遊んでいるが、果たしてスーちゃんはどこまで大きくなれるのだろうか?
既にそこら辺の家なんて簡単に飲み込めるぐらいには大きい。
スーちゃん曰く、まだまだ大きくなれる予感があるらしいので、どうせなら限界まで大きくして更にポヨンポヨンになってもらおうと思ったのだ。
今でもスーちゃんの頭の上でポヨポヨして遊んでいるが、さらに大きくなったらもっと楽しいはず。
それに、スーちゃんの限界を知ってみたかった。
ただの子供スライムが、スライムの頂点に立つ。俺はスーちゃんがスライムの王になる瞬間を見てみたい。
「と、言うわけでスーちゃん巨大か計画を始めます」
「何が“と、言うわけで”なのかは分からんが、とりあえず私を大きくしたいのだな?」
「そういう事。今まではシルとデスサイズを強くするために、仲間になってくれた子達を合成させてきたけど、折角ならスーちゃんを限界まで大きくしてみたくてね。どう?」
「どう?と言われても、ジニスがやりたいのならばやればいい。私は基本、ジニスの意見には反対などしないからな。むしろ、賛成しかしていない」
「スーちゃん、とてもジニス様に甘いですからね。シスターマリーが困ってましたよ。“他の子達に注意するように、ジニスくんが森に入ることを注意して欲しい”と」
最近はほぼ言われなくなったが、まだ“森は危険ですから、気をつけてください”って釘を刺されるからな。
シスターマリーも当然優しさからそう言ってくれているのは分かる。が、俺にとって魔物との出会いは死活問題に関わるのだ。
「ハッハッハ。ジニスは私の友だからな。そんなに友が望むならば、私は例え神だろうが相手にする。私にとって、ジニスとはそれほど特別な存在なのだ」
「それは分かりますがね。私にとってもジニス様は特別ですし。助けていただいた恩はもちろん、少し気になっていた人間社会というものも学べました」
「楽しいだろう?」
「はい!!とっても!!」
そう言いながら、俺の膝の上に座るシル。
ニコニコとしながら俺に甘えていたシルはとても可愛く、俺は思わずシルの頭を撫でた。
俺にとってもスーちゃんとシルは特別な存在である。デスサイズももちろん特別な存在だが、この子はまだ話せないからね。ちょっとこの二人よりも思い入れが浅い。
結構愛着はあるんだけど、言葉によるコミュニケーションによって結ばれた絆の方がどうしても大きくなってしまうのだ。
「して、私を大きくするのだったな。正直、スライムを合成させ続けるだけでは厳しいと思うぞ。これ程までになるのに、3年という歳月がかかっているのだからな」
「俺もそう思う。もうスーちゃんはただのスライムじゃ大きくなれないと思うんだ。強くはなれるけどね」
「ではどうするのだ?」
昔、スーちゃんと共に頑張って魔物を仲間にしていた頃、同じように変化がない時期があった。
もちろん俺は特に気にせずスーちゃんと遊んでいたが、ある日ふと思い立ってスーちゃん以外のスライムを育成して合成させたのだ。
すると、スーちゃんはいきなりさらに大きくなったら。
多分、ある一定ラインからは求められる魔物の強さとか質が変わるのだろう。
大きく変化をする場合は、そのラインを超えなければならない。
「スーちゃん、昔自分と同じぐらいの子と合成したの覚えてる?」
「もちろんだとも。スラくんだな?彼もまた私な中で生き続けている」
「そうそう。あの時ってほぼ同じぐらいの大きさの子を合成して、更にひとつ大きくなった。だから、今回も同じパターンだと思うんだよね」
「なるど。確かにそれは考えられるな........ん?それってつまり────」
流石スーちゃん気がつくのが早い。
そう。同じぐらいの子と合成させる。それはつまり、今のスーちゃんと同種の子を作るという事。
「頑張ってもう一体グランドスライムを作ってみようか。大丈夫、昔よりは絶対に時間は掛からないから」
「なるほど。確かにそれならば、私はさらに大きくなれるかもしれん。が、失敗した時の損失が大きいぞ?」
「成功にリスク........失敗は付き物だよ。もしダメなら、その時はその時さ。それに、別にスーちゃんが消えてなくなっちゃう訳じゃない。正直、興味本位でやっているだけで、俺はスーちゃんが生きててくれればいいんだよ」
「ハッハッハ。安心するといい。私は死なんよ。それこそ、ドラゴンとかそういう類が相手でも、逃げ延びるぐらいは容易いのだ」
すげぇ強気な発言だな。この世界においてドラゴンは、世界最強の種族の一角だぞ。
でも、スーちゃんなら確かに余裕だろう。スーちゃん、マジで強いからね。
スライムなのにゴリゴリの武闘派だけど。
「じゃ、早速もう一体のスーちゃんを作ろうか。スーちゃんの相方的な存在になるだろうし、名前はまたスラくんで行こう」
「スラくんもきっと喜ぶだろうな。自分の名を忘れないでいてくれていると言うのは嬉しいものだ」
こうして、俺達はもう一体のグランドスライムを作るためにスライムを仲間にする事を始めるのであった。
それから1年後。もう一体のグランドスライムができ上がる。