スーちゃん巨大化計画を始めてから1年。俺はもう一体のグランドスライムを作り出した。
スーちゃんを合成していく過程で、何となくグランドスライムを作るルートは出来ている。
最初は3年という歳月が掛かったが、今回はたった一年でグランドスライムを生み出してしまった。
........今更ながら、このスキルって結構やばいな?
グランドスライムはたった一体だけでも、街を容易く壊せる存在と言われている。
下手をすれば、小国程度は踏み潰せるらしい。
そんな存在を1年で生み出せてしまうって、ヤバいだろどう考えても。
この村はシスターマリーのお陰もあってそこら辺は緩いが、他の街に行く時は絶対にスーちゃんの姿とか見られてはならない。
俺にとっては友人で家族のようなものだが、他者から見ればただただ強くて怖い存在だ。
幾らスキルで従う魔物は認められるとは言えど、限度はある。
グランドスライムは。その限度を超えているように思えた。
この世界でのテイマーがどんな魔物を仲間にしているのか分からないから、基準も分からないんだよね。
どうなんだろう。ギリセーフだったりしない?
「スラくんも大きくなったねぇ。最初はポヨポヨのスライムだったのに」
「あれだけ合成されればな。ジニスには感謝しているぞ。魔物にとって、強さとは正義だ。強くなる為ならば、手段を選ばないほどには魔物達は強さを欲する。それを与えられる力と言うのは偉大なのだよ」
「ハッハッハ。それはそうだな」
ポヨンポヨンなスライムが二匹。
こうして並べてみると、その圧倒的な大きさに思わず気圧されそうだ。
スーちゃんとスラくん。この2体は、あまりにも大きすぎる。
村人達も当然ながらスラくんの存在には気がついていたが、スーちゃんの例もあってか何も言ってこなかった。
もう俺とその魔物達は、完全に空気として扱われている雰囲気がある。
もちろん話しかければ話してくれるが、それ以外は不干渉。子供達に至っては、もう俺の存在を見ようとすらしていない。
自ら会話を切り開いてくれるのは、シスターマリーだけ。
この一年で、俺はさらに村から孤立していた。
別に寂しくはないんだけどね。スーちゃんやシルが居るから、話し相手には困らないし。
孤児院の手伝いを終えたら、ずっとスーちゃん達のいる場所で遊んでいるから、余計に人々との関わりは薄れていっているが。
「本当に凄いですね。ジニス様のスキルは。なぜ人間がこれ程まで大きく発展したのか分かった気がします」
「スキルって便利だよ。人生の大半がスキルで決まるって言われている理由も、分かる気がするね」
「応用性には欠けるが、その分やることがハッキリしていて分かりやすい。人間という種族の強みなのかもしれんな」
スキルはある意味道標だ。
自分がやるべき事を的確に教えてくれるから、それに従えば最低限の成果は出る。
もし、地球にこの“スキル”という概念があったら、地球の歴史は大きく変わっていた事だろう。
決められた人生を歩むのはつまらないかもしれないが。
「さて、そろそろ合成しようか。スーちゃん、スラくん。本当に合成していいの?」
「構わんよ。元々そのために頑張ってきたのだ。友の努力を無駄にするほど、私は愚かでは無い」
「同じく。それに、さらなる上へと行ける可能性があるのならば、やってみる事が必要だろう。実は私も気になっているのだ。スーちゃんと私を合成した先に、どのような姿があるのかな。もちろん、次の私達の名は“スーちゃん”でいい。ジニスにとってその名は、とても大切なものなのだろう?」
魔物達にはそれぞれ意思がある。
俺は、彼らの意志を踏み潰してまで魔物を強くしたい訳じゃない。
友達になってくれればそれでいいのだ。一緒に遊んで、楽しくお話出来ればそれで。
だから、合成の前には必ず魔物達に確認を取る。
少しでも嫌そうな雰囲気があれば、合成はしないつもりだ。
「いつもごめんね。俺のワガママに付き合わせちゃって」
「気にするな。私はジニスの行動に我儘を感じた事はない」
「私もだ」
「ありがとね」
俺はそう言うと、スーちゃんとスラくんを一度抱きしめた後(デカすぎて抱きしめられては無い)、合成に取り掛かる。
国すら滅ぼせると言われるグランドスライムとグランドスライムの合成。
果たして、その先にどんな姿があるのだろうか?
どんな姿になってもスーちゃんとスラくんなのは間違いないが、少しワクワクしてしまっている自分が居る。
ふと、シルに視線を向けると、シルもどんな姿になるのか気になっているのかソワソワしていた。
「じゃ、行くよ。合成!!」
経験は十二分に溜まっている。スーちゃんとスラくんは眩い光を放って、1つに合わさっていく。
このままグランドスライムになるのもよし、さらに大きくなって別の種族になるのもよし。
流石にゴブリンになったりはしないだろうが。
そんな事を思いながら、眩い光に目を閉じて光が収まった後目を開ける。
「ほう。まさか討伐されたワシがまたここに来ようとは」
そこには、凄まじく大きく、王冠を被ったスライムがポヨンと揺れながら辺りを見渡していた。
デッッッカ。
グランドスライムの2倍はあるぞこれ。
横20m縦10m程の超巨大スライム。
あまりの大きさに、俺もシルも唖然とするしかない。
大きくなるとは思っていたが、まさかここまでとは。こんなに大きかったら、人間なんてアリンコと同じようなもんだろ。
「お、おっきいですね........」
「大きいな。あの上でポヨポヨ出来たら楽しそうだけど、合成すると性格が変わるケースがあるからなぁ........一人称が“私”から“我”に変わってるし、なんか別に記憶持ってないか?」
「多分、種そしての記憶ですね。私がミニシルキーになった際、自身がどのような存在なのかを自覚する為のものです。ジニス様のスキルによるものだと思いますよ」
はへぇ。そんなんだ。この4年間、スキルを使いまくってスーちゃんやシルから色々な事を聞いたが、まだまだ知らない事は多そうだな。
自分に作用するスキルじゃないから特に。
「スーちゃん。俺が分かる?」
「もちろんだともジニスよ。我が友であり、ある意味の育ての親。父上と呼んだ方がいいか?」
「その口調で“父上”って呼ばれたら俺が困るよ。今まで通りにジニスでよろしく」
「ハッハッハ!!それもそうだな!!」
スーちゃんはそう言いながら笑うと、ポヨポヨの身体を変化させて触手を作り出し俺とシルの体に巻き付ける。
そしてそのまま、自分の頭の上に載せてくれた。
俺達が誤って落ちないように、王冠の中に。
今更だけど、シルのメイド服とかこの王冠とかどこから出てきてんだ?
こう言うのは考えたら負けなのだが、気になってしまうのが人の性。
まぁ聞いても回答が得られるわけが無いので、聞く気は無いが。
「スーちゃんすごく大きくなったね。俺が何人入れるか分からないぐらいに大きくなっちゃったよ」
「うむ。想像していたよりも大きくなってしまったな。そして、ここがワシの限界地点だ」
「そうなの?」
「本能でわかる。これより先は無い」
そっか。スーちゃんは遂に、スライムの頂点に立ったのか。喜ばしい限りである。
話し方がお爺ちゃんっぽくなってるけど。
「それで、どんな種族なの?」
「コスモスネビュラスライムだ。しかもかつての記憶を受け継いでいる。不思議な感覚だ」
「かつての記憶?」
俺が首を傾げると、スーちゃんはとんでもない事を口にする。
「ワシはかつて、人間達に“魔王”と呼ばれた存在であった」
........は?魔王?
魔王ってあの?
どうやら俺は、スライムを合成させまくっていたら魔王を作ってしまったらしい。
え、マジ?