グランドスライムを2体合成させたら、なんか魔王が生まれてしまった件。
別に魔王なんて作る予定はなかったし、適当に合成し続けた結果がコレとは驚きである。
コスモスネビュラスライム。
その種族の名前に聞き覚えは無いが、名前だけを聞いたら滅茶苦茶強そうだ。
と言うか、え?ガチの魔王?
なんでそんな存在が生まれてしまったんだ。ヤバすぎるだろ。どう考えても。
適当に魔物を合成しまくってきた結果魔王を生み出せてしまうスキル。その気になれば、世界の覇者になれそう。
夢は世界征服かな?
「魔王ってあの魔王だよね?人類を滅ぼさんとする悪の親玉にして、最後は勇者に負けて討伐されるって言う」
「そうですね。少なくとも、孤児院に置いてあった本にはそう書かれていますね。主に御伽噺の類ですが」
「ふむ。強ち間違いではないぞ?ワシはかつて、スライムだけの世界を作ろうと人類とスライム以外の魔物に手を出したからな」
かつての魔王の記憶を引き継いでいるスーちゃん。
どうやら、魔王として暴れいた時代も記憶にあるらしい。
なぜスーちゃんに魔王の記憶があるのかは分からないが、自我を保つ上で必要なものなのだろう。
自分を知ると言うのは意外と重要な事なのだ。自分が何者かすらも分からないような状態は、精神的に不安定。
ある意味転生しているからな。かつての記憶を引き継いでいてもおかしくは無い。
転生者がなぜ転生した際に前世の記憶を引き継ぐのかなんて考えないだろう?それと同じで、これは考えるだけ無駄なのだ。
「スーちゃんがスーちゃんと呼ばれる前の話だね」
「そうだ。これは過去の記憶を呼び起こしているに過ぎん」
「それにしても魔王ですか。スーちゃん、すごい存在になってしまいましたね」
魔王にも様々な種類があるのだが、その大半は人間に大きな被害を齎した存在であるとされている。
俺が知っている悪魔の魔王は、大国イシュベールと呼ばれた国を滅ぼしてその他にも多くの国を滅ぼしてきたらしい。
その種族の頂点魔物の王。だから“魔王”と呼ばれるわけだ。
しかし、今こうして人類という種族が生き残っている以上、魔王がこの世界を支配した事は無い。
魔王が生まれると神の意志なのか、バグった強さをした人間も生まれると言われているからだ。
それが勇者と呼ばれ、人々の平和を守っている。
........アレこれ、勇者生まれてね?このままだとスーちゃん討伐されちゃうんじゃね?
「勇者が生まれたりとかしてないよね?」
「案ずるな。ワシは確かに過去には魔王と呼ばれたが、今は所詮魔王の記憶を引き継いだタダのスライムに過ぎん。今さらスライムだけの世界を作ろうとは思わんし、ジニスと共に歩むつもりだ」
「魔王の定義は人間の尺度で決まりますからね。スーちゃんが何もしなければ、魔王として討伐されることは無いかと」
そっか。別に種族として“魔王”がある訳じゃなくて、あくまでもその行いによって魔王と呼ばれるのか決まるのか。
なら、勇者が生まれていたとしても大丈夫かな?今のところ、スーちゃんは何もやってないんだし。
むしろ、この村の安全に貢献しまくっているから、守護者として扱われてもおかしくないレベルだ。
この村はスーちゃんの銅像でも建ててくれよ。この村はスーちゃんによって守られてるんだぞ。
ここ4年間、こっちの森から魔物が出てきて村に入る事件は起きてないからね。
「ま、スーちゃんがスーちゃんならそれでいいか。もし討伐対象になったとしても、どっかの秘境で静かに暮らせばいいしね」
「その通りです。問題が起きてから、その対処法は考えれば良いかと。今は気にするだけ無駄ですよ」
そんな事を話しながら、スーちゃんの頭の上から景色を眺める。
王冠に空いた穴から見える景色は、とても綺麗であった。
早くこの村から飛び出して世界を見て回りたいな。沢山の魔物たちと仲良くなって、友達を増やしたい。
ドラゴンとか仲間に出来たら空を自由に飛べるし、モフモフな魔物を仲間に出来たらモフモフできる。
もちろん、辛いことも多いだろうが、それ以上に楽しそうな世界が広がっていた。
そんな事を思いながら外の景色を眺めていると、スーちゃんが俺とシルを頭の上から下ろす。
いきなりどうしたんだ?と思うと、そこには沢山のスライム達が集まっていた。
え、何だ何だ?急にスライム達が集まってきたぞ?
しかも、全員スーちゃんに向かってポヨポヨした後その場で待機している。
俺とシルは顔を見合わせると、首を傾げた。
なにこれ。何が起きてるの?
「スーちゃん?これは?」
「ワシはスライムの王。スライム達の頂点だ。当然ながら、スライム達はワシに付き従う。人間も同じだろう?」
「つまり、王様の誕生したから、そのお祝いに来た子達って事?」
「まぁそんな感じだ。ジニスとシルに手を出さぬように言いつけてある。契約を結ぶもよし、遊ぶもよしだ」
それって要するに、今までは倒して仲間にしていたスライム達を無条件で仲間に出来てしまうという事では?
この魔物合成というスキルの弱いところは、魔物がいなければ合成ができないという事。
言い方は悪いが、その素材の確保が問題点であった。
探すのも大変だし、倒しても仲間になってくれる保証は無い。
圧倒的な力を見せつけて、屈服させるのが最初どれだけ大変だったことか。
当時はスーちゃんしかいなかったから、弱そうな魔物を探して倒してもらって仲間にするの繰り返しだったな。
で、スライムに限りその必要がなくなってしまった。
魔物の世界は人間の世界以上に弱肉強食。自分達の王が生まれたのであれば、魔物はその王に付き従う。
素材集め放題だ。ゲームなら、一気にヌルゲーになってしまったようなものである。
(ポヨン!!)
(ポヨヨン!!)
「あはは。可愛いねぇ。スライムっていいよなぁ。結構聞き分けのいい子達が多いし、可愛いし一度懐くとずっとこんな感じだし」
「ポヨポヨです。すごく........ポヨポヨしてます」
(ポヨポヨポヨ!!)
スーちゃんが集めてくれた(勝手に集まった)スライム達。そんなスライム達をポヨポヨし始めると、みんな俺達の元に寄ってきてポヨり始める。
スライムって個体ごとにポヨポヨの感触が少し違うんだよね。ちょっと柔らかめだったり、固めだったり。
そんな子達が集まってポヨポヨ祭りが開催されたとなれば、楽しくない訳が無い。
うはー!!ポヨポヨ!!ポヨポヨ!!
「ジニス様、すごく楽しそうですね」
「元よりスライム好きだからな。仲間にした子は必ず持ち帰って遊んでいたし、ワシもよくポヨポヨされたものだ。何がすごいって、嫌がるよ会うな場所は絶対に触らないのだ。スライムの扱いに関しては、世界一かもしれん」
「ジニス様、スライムと触れ合いすぎて、変な特技を覚えてしまったのですね........」
「ハッハッハ。良いでは無いか。子供らしくて。ワシは好きだぞ?目を輝かせながら、スライムと戯れるジニスを見るのは。とても可愛いではないか」
「それには激しく同意します。普段は大人びた言動が多い方ですが、その分見せる子供らしさというものが、とてもいいですよね」
「うむうむ。ちなみに、ワシも分身体を生み出せるのだぞ?普通のスライムぐらいの大きさの。もちろん話せるから、今日からまた一緒に寝るかの」
「それはいいですね!!三人で一緒に寝ましょう!!」
こうして俺は、ポヨポヨしたスライム達と戯れてとても満足するのであった。
え?スーちゃんとまた一緒に寝られるの?やったー!!