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第18話 聖女と新生活

 マリアと聖女の契約を交わしてから数日後、正式に聖女になった事を家へ報告するため、一度実家に帰っていたマリアが、大きな荷台を引いた馬車と共に戻って来た。


「遅くなってすみません、本当はもう少し早く戻る予定だったのですが、思った以上に準備に時間がかかってしまって。」


 そう言いながらマリアは申し訳なさそうに苦笑を浮かべる。引っ越し準備は大変なのはわかってるし別に構わないのだけど、なぜ叙者を使わず自分で馬車の手綱を握っていたのか気になるところ。

 と言うより令嬢なのに馬車を引けるのね。


 まあそれは置いておいて、私はマリアの服装に注目する。

 戻って来たマリアの服装は令嬢が着るドレスなどではなく、聖女らしい細工模様のちりばめられた白いローブになっていた。


『そのローブはどうしたの?』

「はい、うんこの聖女をイメージして私で作ってみたのですがどうでしょうか?」

『へえ、自分で作ったんだ、なかなかいいじゃん』

「ありがとうございます、やはり聖女たるもの刺繡はできませんと。」


 私がローブを褒めるとマリアはクルっと回って見せびらかす。

 うんこの「う」の字も見当たらないほど綺麗なローブだけど、自分で作るとはやっぱ器用な子よね。


「さて、では女神様、今日からよろしくお願いいたします。」

『ええ、宜しくね。』


 二人で改めて挨拶を交わし、私たちのうんこの聖女と女神の生活が始まった。


『……で、まず初めに何をしよう?』


 と、スタートしたのは良いけど、何分全てが始めてだから何をすればいいかなど全く分からない。


「はい、実は考えていたのですが、まずはこの神殿の改築から始めようかと思います。」

『改築か……悪くはないわね。』


 この誰が建てたのかもわからぬ神殿は、数百年以上放置されていることもあって、依り代である女神像以外はボロボロでほぼ廃墟に近い、建て直すのは大いにありだろう。


『人を呼ぶにしても、こんな神殿じゃ誰も来ないしね。』

「はい、特にうんこの女神様の神殿なのにトイレがないのは致命的と言えるでしょう。」


 トイレか……まあ、あながち間違いではないけど、私的には定期的に来る文字通り「クソ王子」も追い返せるから、ない方がいいけどね。

 でも流石にこの子が過ごすとなると、そう言う訳にはいかないか。


『そうね、じゃあまずは神殿の改築から始めましょう。』


 本来初めに来る難関と言えば資金難だけど、彼女は名門貴族の娘だから、お金に関しては問題ないわよね。


「では早速、間取りを決めましょう」


 そういうと、マリアは馬車の荷物から白紙を一枚取り出し、この神殿の地図のような物を描き始める。


『それは?』

「神殿の改装をするにあたっての間取りです、初めにどういうふうに改築するかを決めておいてそれに合わせて作業を進めていくんです。」

『へえ、そう言うのって、要望だけ伝えて建築家の人達が決めるんだと思ってたわ。』

「まあそれもいいのですが、やっぱり私たちの活動拠点ですから自分たちで考えたいです。」


 なるほど、まあ自分が住むならこだわりたいわよね。

 私の神殿と言っても住むのはこの子だし、彼女に任せましょう。


 マリアがどんどん間取りを考えて白紙に記していく。

 間取りとは簡単に言えば完成予定の地図みたいだが、少し気になるところがある


『……自室狭くない?あとトイレ多くない?』


 間取りを見る限り、彼女の自室は寝るための必要最低限のスペースくらいしかない。

 一方トイレは男女合わせて二十もある、そんなに人来るかしら?


「うんこの女神様の神殿ですから、トイレが使えないのは致命的ですので。せっかく来ていただいたのに満室になるのだけは避けたいの多めに考えました。それにトイレの需要性は高いのでいくつあっても困りませんので、トイレを借りにきた方々に、うんこの素晴らしさを説き、そのままうんこ漬けにしちゃいましょう!」


 トイレしに来たやつをうんこまみれにするのか、まあいいけど。

 でもやっぱり聖女に相応しい暮らしはしてほしいので、トイレは少し減らして自室は大きくしてもらった。

 そして二階建てにして客室も作り、中央の壁には女神像が陽の光で神々しく光るようにステンドグラスもつけることもした。


『おお、いい感じじゃない!』


 イメージ的には神殿と言うより教会に近いけど、信者のいないとこからスタートだしこれくらいがちょうどいい。


「では次に設計図を描いちゃいましょう。」


 ……設計図?

 そう言うとマリアは新しい紙を用意し何やら絵と線を書き込んでいく。


「えーと、それは何?」

「設計図と言って物を作る際に――」

「いや、それは知ってるんだけど……それをあなたが描くの?」

「はい!」

「……そんなものまで描けるの?」

「はい、聖女たるもの、設計図くらいは描けないとと思い、この三年間で勉強しました。」

「へ、へえ……」


 私の知ってる聖女で設計図を書ける娘なんていなかったけど。まあ、書けるに越したことはないわよね?

 マリアがどんどん書いていくけど、素人の私が見ても何が書いてあるのかさっぱりわからない。


「では、これを参考に必要な材料を取りに森へ行きましょう」

「え?材料も自分で準備するの?」

「勿論です。」


 勿論なのか。


「幸いこの近辺の森はランドルフ領なので木の伐採に関してはあらかじめお父様に許可は貰っていますので切り放題ですよ。」


 マリアはそう言って、荷台に積んでいた斧を持って森へ入っていく。そしてたった一振りで木をバッサバッサと切り倒していく。


 『さ、流石騎士の家系なだけあるわね……』


 普通の木こりでも何時間もかかるような作業をマリアは淡々とこなし、僅か一時間足らずで何十本の木を切り倒していた。

 そして、予定の数の木を準備すると、それを馬車に詰め込み神殿の前まで運んでいく。


「予定通りの数を集められましたね、それでは、早速加工をーー」

『ちょっとまてい!』


 そして、ここでとうとう止めに入ってしまった。


「どうしました?」

『まさかとは思うけどもしかして、あなたが全部一から建てるの?』

「勿論です、聖女たるもの神殿くらい建てれないと――」

『聖女のが大評価ぁ!』


 神殿を一から自分で建てられる聖女がいてたまるか、世の中には適材適所というものがあるのよ。

 しかし彼女は元々そのつもりだったのか、荷台の中には建築の工具が一通り揃っていた。


「ご安心ください、ここに来る前に三件ほど建てているので腕前は本職の方にも認められていますので大丈夫ですよ。」


 そう言ってにっこり笑うが、私には不安しかない。


 容姿、性格、ステータス、どれも完ぺきで、おまけに裁縫も上手くて馬車も引けて建築もできる……今更だけどもしかして、私はとんでもない娘を聖女にしてしまったのではないだろうか。


「あ、そういえば知っていますか?世界にはうんこで土を固め家を作る生物がいるとかいないとかーー」

『木造建築でお願いします!』





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