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第19話 聖女と女神の力

 マリアが自分で神殿を改築し始めて早三日。ついに新しい神殿が完成した。

 ……そう、たった三日で完成させたのだ……それも一人で!


「上手にできました~」と達成感と充実感溢れる言葉と共に汗を拭いながら天使の微笑みを見せる彼女は、自ら引いた図面を参考に、自ら材料を集めて加工、そして自らの手で完璧に神殿を作り直した。


 歴代の英雄たちが使いそうな壮大な魔法や剣術を加工や運搬などに使う彼女は、もし仮に今この世に魔王が現れたとしてもこの子がいれば、簡単に倒してしまえそうだった。

 工具を握らせれば、周りも見えぬほど集中して寸分の狂いもなく設計図通りに組み上げていくその姿は、最早聖女でも令嬢でもなく一人の職人で、この三日間でこの子は何で聖女やってるんだ?と何度思った事か。


 その規格外の能力に色々と考えてしまう三日間だったが、考えた結果、そもそもその考えること自体が間違いだと気づいた。


 きっとこの子と過ごしていけば、これからこんな事がどんどん起きるんだろうし、考えていてはキリがない。

 むしろ喜ぶべきなんだ、こんな女神よりも女神してる聖女なんてなかなかいない。

 この子がいればきっとうんこだって、立派な信仰対象になってたくさん信者も増やしてくれるはず……


 ……それはそれでなんか嫌だな。

 各拠点に一人いるくらいを目指して頑張ろう。


「では、住むところも出来たところで、まずは神殿の存在を認知してもらうために、村の方々への挨拶回りから始めましょう!」


 そんな私の胸の内も知らずマリアは張り切りの声を上げる。

 そして、村の方向へと歩みだすが、数歩歩いたところで「あっ」っと声を上げて立ち止まると、こちらに振り替える。


「ところで女神様、私は聖女になりましたが、聖女になったことで何か力は得られたのでしょうか?」

『今更そこに目が行くのね。』


 普通であれば聖女になったら真っ先に手に入れた力を気にすると思うけど、彼女が尋ねてきたのは、聖女になって三日後の事である。


『ええ、勿論あるわ。あなたは私の聖女なったことで、神聖力を使っていくつか女神わたしの加護や祝福を使えるようになってるわ。』


 本来加護や祝福は、聖女の神聖力と人々の信仰心が影響するので、信者ゼロ人の私では大した力は使えないのだが、彼女の神聖力が飛びぬけてるので、信者がいなくてもそれなりに力が使えたりする。

 もちろん全部うんこ関係である。


『まず一つ目は快便効果ね、人に祝福を施すことでその人間はしばらくの間、お通じが良くなるわ。ちなみに女神の加護を持つ聖女には、もれなくその祝福が常備施されているわ。』

「それは素晴らしい力ですね、うんこだけに漏れなく、快便ですね。」


 まーた、訳の分からんことを……とりあえずスルーします。


『そして二つ目はうんこの浄化クリアね。言葉通り、うんこを浄化して綺麗にする力よ。』


 うんこは汚物なのでそのまま捨て続ければ、汚染や汚臭などの原因になる、この力を使えばそういったものを浄化できるので臭いも消せるし環境にも優しいしね。

 肥料に使わないうんこには是非使ってほしい力ね。


『三つ目は、うんこ分析サーチ、うんこの状態を見ることで相手の健康状態がわかる能力よ。』


 うんこの状態で健康を見ることができるけど、この力を使えばうんこの成分などの割合も、詳細にわかるわ。

 ……まあ、この子ならそんな力なしでもわかるかもしれないけど。


『最後はうんこ変臭ね。』


 うんこの最大の問題と言えばやはり臭いだろう。すぐ処理できればいいが、基本は溜めておいたり、肥料にしたりしているので、農家とかではどうしても臭いがしてしまう。

 これはそんなうんこの臭いを変えることができる能力だ。


 他にも、色々とあるけど現在使えそうな力と言えばこれくらいだろう。

 自分で言うのもなんだけど、あまり好まれない能力だけど、需要性は高いと思う。


 そして、マリアはそこをしっかり理解してくれているので上手く使いこなしてくれるだろう。


「どれも有効活用できそうですね、特に臭いを変える力は皆さんに喜ばれそうです、ちなみに臭いって言うのは何にでも変えられるのですか」

『ええ、自分の知ってる臭い限定だけど。』


 この子は貴族令嬢だし、庭園とかもってそうだから、香水や花の匂いといった沢山の香りを知ってるだろうから、彼女とも相性はばっちりだろう、臭いはかなり良くなるはず。


「では、ビーフシチューでお願いします。」

『な ん で よ !』


 確かに言い臭いだけども、何故数ある臭いの中、見た目の系統が似ているものを選ぶんだ。


「わたし、ビーフシチューが好きなんです。」

『確かに美味しいけど、だからってそれを選ぶ普通⁉︎どうせならもっと香りのいいものにしましょうよ!ラベンダーとかさあ!』

「うーん、それだとラベンダーがうんこに乗っ取られちゃいますよ?」

『ラ、ラベンダーがうんこに乗っ取られる?』


 何を言ってるんだ?


「ラベンダーは花や香水が好きな人には馴染みの匂いですが、男性の方や一般的な庶民の方々にはあまり縁のない匂いだと思います。そうなると、毎日嗅いでるうんこの匂いがいつのまにかラベンダーに変わってしまい

 本当のラベンダーの香りを嗅いだ時、ラベンダーの匂いをうんこの匂いと言ってしまうんではないでしょうか?」


 ……確かに、一理ある。

 実際にその傾向は薬でたまに見られるものだ。

 薬剤には原材料の関係でミントの香りがするものが多くあるけど、皆本物のミントを見る機会はあまりないので、ミントの匂いを嗅いだ際につい薬の匂いがすると言ってしまう。


「もし女性の方がラベンダーで作った香水をかけて外出した際に、男性が女性に対しうんこの匂いがする、なんて言っていしまったら。大問題ですよ」


 大問題どころか、処刑もんですよそれ。


「という事で、臭いは皆に馴染みがあり、人気であるビーフシチューがいいと思います。」

『う、う~ん』


 凄い説得力はあるが、やはり簡単にクビは縦に振れなかった、結局そこはおいおい決めるとして、私たちは村へと繰り出した。


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