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第21話 聖女と新生活

 マリアが聖女として村にやってきてから暫く経ち、聖女としての一日が形になり始めていた。


 水の神殿でのスケジュールを参考にしたのか、マリアは日が昇る頃にに起床し、水の溜めた桶で顔を洗い眠気を覚ますと、まず私の像へ朝の祈祷を行い一日を始める。

 そして朝食を済ませると、神殿の庭に植えた花や裏庭に作った畑に水をやりに行く。

 初めは文字通り華のない庭だったが、入口の前にラベンダーやミント、バラと言った花を植え、今は随分華やかになった。


 そして肥料に困ってない事もあり、神殿の裏に畑を作って野菜を育てたりもしている。

 それが終わると、次に私の依り代となる女神像を丁寧に磨きあげる。そして日が昇り切った頃になると、うんこの聖女の仕事として、村に繰り出しうんこの回収を行った後、そのうんこで肥料を作り、余ったものは洗浄して近くの川へと流しに行く。


 高貴な家柄のお嬢様に汚物を渡すことに初めは少し抵抗をみせていた村人達だったが、マリアがあまりにもいい笑顔で回収するのであっという間に慣れて日常と化していった。


 ここまでが基本的な一日の流れでその後の時間はまちまちだ。神殿内を掃除したり、山に薬草を取りに行きその薬草で薬を調合したり、時には近くの街に出かけたりとのんびりスローライフを満喫している。

 私に祈りを捧げにくるような信者はいないが、時折村の子供や若い男達が、マリア目当てで遊びにやってきたので、その際に私が教えた覚えのないうんこの教えを説いていた。

 ただあまり効果はない模様。


 マリアのその美しさゆえに中には邪な考えを持つ奴もいるが、まあそう言う輩にはマリアの気づかぬ間にうんこの女神として裁きを与えていた。

 そしてそんな日々が一ヶ月ほどが過ぎ、この生活もすっかり板についてきた頃、この村に場違いな王家の馬車がやってきた。


 白馬が引く豪華な馬車の中から出てきたのは金髪と黒髪の二人の青年で、一人は一時期よく来ていた金髪の王子、そしてその隣にもう一人見知らぬ黒髪の少年がいる。

 金髪は、ここ最近は来てなかったので久々の再会となるが、少し顔つきが大人びいていた。

 元々整っていた顔に、凛々しさも備わったことで随分かっこよくなったものだ、きっと普通の女性なら姿を見ただけで黄色い悲鳴を上げるところだろう。

 だが私は知っている、こいつの腹の中が真っ黒なことを。

 そしてもう一人の黒髪の少年は初めて会うが、顔立ち、と言うか雰囲気が王子と似ているので恐らく兄弟だろう。


「ここが、神殿か」

「へえ、前来たときよりも随分綺麗になってるね。」


 金髪が新しくなった神殿に、そして初めてくる黒髪の方は珍しそうに周囲を見渡している。


「あら、ようこそおいでくださいました、アルフレッド様、セシル様。」

「やあ、マリア、久しぶりだね。」

「ああ……久しぶりだな。」


 二人に気づき笑顔で出迎えたマリアを見て金髪の王子、アルフレッドが笑顔で返したのに対し、黒髪王子、セシルと呼ばれた少年はマリアの笑顔を見て頬を赤らめて視線を逸らす。

 成程、こいつもマリア目当てか。


「その格好……君は、本当に聖女になったんだね。」

「はい、実はこれ、自分で作ったのですが、どうでしょう?似合っているでしょうか?」

「ああ、すごく綺麗だよ。」

「そうだな、まさに聖女だ。」


 自作の衣装を褒められ、喜ぶマリアだが、恐らくこいつらが褒めたのはマリア自身の方だろう。

 これは警戒しないといけないな。


「とりあえず、こんなところで立ち話もなんですから中でお話ししましょうか」


 挨拶を交わすと、マリアはそのまま二人を神殿の中へ案内する。


「中もずいぶん改装したんだね。君がここで暮らすと聞いた時は心配したけど大丈夫そうだね。」

「はい、頑張って建て直した快がありました。」

「……頑張って建て直した?。」


 まあそこは引っかかるよね、誰も自分で建て直すとは考えないし。


「うんこの神殿らしくトイレもたくさんありますよ。」

「おお、トイレも出来たんだね。」

「はい、これでいつお腹が痛くなっても大丈夫ですよ。」

「そうだね、これなら以前みたいに……ゴホン!ゴホン。」


 アルフレッドが何か言いかけて咳で誤魔化す。

 そういえばこいつは来るたびにお腹を壊してたけど、トイレに間に合っていたのだろうか?


「この女神像がその……」

「はい、うんこの女神様です。」


 セシル王子が私の女神像をジッと見つめる。


「思ってたより普通なんだな。」

『普通とは失礼だな、一体どういうイメージしてたんだが』

「セシル様、女神様がどういうイメージをしていたんだと尋ねられています。」

「あ、そうか、俺達には見えないがここに女神本人がいるのか、それは失礼しました。」


 そう言って、セシルが像の前で膝を付き謝罪をする。


『お、思ったよりも礼儀正しいな、隣のうんこたれ王子とは大違いだ。」

「アルフレッド様、うんこ漏らしたのですか?」

「漏らしてないから!ちゃんと近くの草むらで――ゴホンゴホン!」


 アルフレッドが再び咳き込み誤魔化す、だがもう手遅れだろう。

 少なくとも私はお前が野グソをしたと認知した。


「それで、王家のお二人が今日は何の用でしょうか?」


 この変な方向に行っていた流れの中、マリアが急に話を本題に移す。


「あ、ああ、今日ここに来たのは他でもない、もうすぐ始まる学園の案内の話をしにね、君も今年で十五歳、学園に通う年齢だから。」


 その言葉にマリアが首を傾げる。


「はて?確か学園への入学は任意でしたよね?私は聖女ですので通うつもりはありませんが……」

「本来はね、しかし君ほどの優れた人物を学園で学ばせないというのは、国の損失になるんじゃないかと言う話が出ていてね、それに聖女になっても君はまだ妃候補の筆頭に変わりはない。」

「少し厳しい言い方になるが、これは王家からの決定事項だ。例え聖女でも拒否は許されない。」


 セシルが厳しい口調でいうと、マリアが不安そうな顔をする。

 いつも笑顔で心優しいマリアにこんな顔させるとは、やはり王家を肥溜めに変えてやろうかしら?


 とはいえ、マリアと繋がっている私にはこの子の心境も伝わってくる。

 この子自身、別に学園に行きたくない訳じゃないみたい、理由はどうであれ、この三年間でこれだけの技術と知識を身につけたのだ、学ぶ事には貪欲なのだろう。

 ただ、学校に通いだして私をまた一人にさせてしまう事にを心配しているようだ。

 王都となればここから通うのは難しい、だから通うとなれば実家からになるだろう、そうなればまた私はここで一人ぼっち……などと考えてるみたいだ。


 ホント、この子は……どこまで出来た子なんだか。


「確かに、これは王命になるけど、しかし僕達個人としてもマリアと学園生活を過ごしたいと思っている。僕は今年で三年、卒業すれば今までのように会える時間は少なくなる、だから最後の学年生活を君と過ごしたくてね。」


 嘘だ、絶対卒業しても何かと理由をつけて来るぞ、こいつ。

 前世の私が語っている。


「すみません、ですが……」

『いいんじゃない?せっかくだし行ってみれば』

「え?」


 このままこの村でのんびり過ごしてもらうのもいいかもしれないが、そうなると人と交流する機会も減っていくだろうし、それにここにいたところで信者は増えないだろうしね。

 それならやはり学校に行った方がこの子のためになるだろう。


『この際学校で布教活動をして信者増やしてみれば?』


 増えるかは知らんけど。


『それに、あなただって本当は行きたいんじゃないの?』

「ですが、そうなると女神様をここでまた一人に――」

『大丈夫。私もついていくから。』

「え?女神様も来られるのですか」

「「え?」」


 マリアの言葉に二人の王子も反応を示す。


『あなたが聖女になった時から、私の依代はこの女神像からあなたに変わったのよ、だから逆にこれからは、嫌でもあなたの傍ににいるわ。あ、でも私の姿を見たり会話をするにはこの女神像の近くじゃないとダメだけどね。と言う訳で……王子二人もよろしくね』

「――だそうです。」


 マリアが聖女らしく私の言葉を代弁すると二人は揃って呆然としている。

 フフフ、私の居ぬ間にマリアにちょっかいを出そうとしていたみたいだけどそうはさせんぞ。

 マリアに指一本でも触れればそのままトイレで学園生活を終える事になるからね。


「わかりました、そう言う事でしたら私聖女マリア、学園に通いうんこの布教活動に頑張ります!」

『あ、ほどほどにね』


 でないと友達無くしちゃうかも

 こうして、マリアは来月から始まる学園に通う事になったのだ。

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