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第24話 聖女と活動計画

 ――王立アレクサンドリア学園


 初代国王であるアレクサンドリアが建てたとされる歴史ある由緒正しき学校で、入学できる者は十二歳から十七歳までの貴族、もしくは貴族の後見人がいる平民のみとされている。

 勉強は勿論、剣術や魔術、そして礼儀作法など貴族として必要とされる技術を学ぶことができ、家を継ぐ子供たちは、学園の付属小学校に入り六歳から学ぶこともある。

 学園は基本全寮制で待女は一人までとされおり、火急の案件でもないかぎり長期休暇までは家に帰ることができない。年間行事は学年によって変わってくるが、学園祭や聖夜祭など共通の行事もあり、他にも部活やサロンなど、学年の違う生徒たちとの交友の場もたくさん用意されている。

 同派閥の生徒と戯れるもよし、新しい人と交流を広めるのもよし、皆で楽しい学園ライフを満喫しよう!


「……と言う話なんですが、どう言う事なんでしょう?」


 マリアが通う予定の学園の資料を読み上げた後、部屋に呼び出した弟のリッド君に尋ねる。

 ちなみにさっきのは私なりに訳した言葉で実際はもっときっちりした文章で書かれていました。


「いや、どうって……なにが?」


 そしてその問いにリッド君も首をかしげている。


 私もリッド君と同じで今の内容を聞いた限り、必要な事はちゃんと書かれているので特に疑問点なんて思い浮かばなかったけど?


「この資料にはトイレについて書かれていません。」


 ……別に良くない?

「別に良くない?」


 弟君と気持ちがシンクロする。


「いいえ、これはちょっとした問題ですよ?トイレと言うのは誰にとっても必要不可欠なもので、いつどこで誰がお腹を下すかわかりません。そんな時、トイレの情報がなければ、ピンチになってしまいます。」

「そりゃ、まあ……ねえ。」


 でもそれは、現地で聞くだけ十分だと思うけど。


「それに資料を呼んで想像を膨らませて楽しみたいじゃないですか。」

「そんな予約した商品を待つ時みたいな楽しみ方をトイレでする人なんて姉さんくらいだよ。そもそもトイレのなにが知りたいのさ?」

「場所や数は勿論の事、後は中の構造などもぜひ知りたいです。」

「場所や数はともかく、構造に関してはそもそもトイレは男女で分かれているから女子トイレのことは僕に聞かれても分からないよ。」


 そりゃそうだ、男と女では違うんだから構造が同じなわけがない。

 しかし、リッド君の言葉に何故かマリアはきょとんとしている。


「……どうしたの姉さん?」

「……そう言えば私の神殿のトイレは男女分けていませんでした。」

『「そっちの方が大問題じゃないか!」』


 再び弟君とシンクロする。

 いや、確かに気づかなかった私も私だけど、人が来ないから思い浮かびもしなかったわ。

 しかしこれは帰ったら大至急作り直さないと、出ないと合法的変態を作りかねない。

 そんなことを考えていると部屋の扉がノックされ、メイドが一人入ってくる。


「マリア様、リッド様、旦那様がお呼びです。」

「わかりました。」


 マリアが返事をして、二人が部屋を出るので私も自然と着いていく。

 そして客間に行くと、マリアの父ロックの対面に一人の若い青年が座っていた。


「来たか、せっかくだから紹介しておこうと思ってね。こちらが今日から暫くこの家で預かることになった、バリアス子爵家の長男ルイス・バリアス君だ。」


 ロックが紹介すると、青年は立ち上がりこちらに向かって一礼する。


「ご紹介に預かりました、ルイス・バリアスです。宜しくお願いします。」


 少し短めの髪にきりっとした目つきの見るからに真面目そうな青年は、騎士志望なだけあって体は鍛えぬかれており、ガッチリとしている。

 女ウケはなかなか良さそうだ。


「初めましてバリアス様、私はランドルフ家長女のマリア・ランドルフと申します、今は近くの村でうん――」

「あー!あー!僕はランドルフ家長男のリッド・ランドルフです!宜しくお願いします!」

「コラコラ、リッドまだマリアが話してる最中だったぞ?」

「スミマセン父上。」


 職業を言わせまいとリッド君が大声で言葉をかぶせてくると、ロックが棒読み気味で注意する。

 見事な連係プレイと言えよう。


「すまない、弟の方は少し人見知りで緊張したようだ。」

「いいえ、構いません。お二人とも宜しくお願いします。」


 ルイスと名乗った青年は、特に気にすることなく挨拶を交わす。

 幾人と村の男どもを浄化させたマリアの聖女の笑顔ホーリースマイルにも特に反応を見せていない。

 ふむ、マリアに興味はなさそうだし、これなら心配はなさそうね。


「では早速だが、鍛錬場に案内しよう、せっかくだからリッドも来なさい。」

「はい、父上。」


 ロック達はマリアと遠ざけたいのか早々にルイスを連れて外へと出ていった。


「では私は、一旦部屋に戻って学校での布教活動について考えましょう。」


 そう言ってマリアは部屋に戻ると、布教活動のするための計画を立て始めた。


「しかし、いざ布教すると言っても、信者ゼロ人から始めるのはなかなか難しいですね、知名度が低いとやっぱり敬遠されてしまいますからね。」


 まあそれもあると思うけど、それ以前にうんこだからねえ。


「なので、まずは正攻法で攻めていこう思います。」


 正攻法?


 信者獲得の正攻法と言えば、やっぱり心揺さぶる演説とか、奇跡を見せるとか?でも演説するようなネタはないし、奇跡でも見せたところで、腹の調子が良くなるくらいで地味すぎるしなあ。


「と言う事で、まずは皆に知ってもらうために、手始めにうんこを配ってみようかと思っています。」


 こりゃ大変だ、信者を得るの前に、うちの聖女が不審者で捕まってしまう。

 どうにかして止めないと……

 私は思いが伝わるよう必死で念を送る。


「……と言っても、やはりいきなりうんこを渡すのは怪しまれますよね?」


 いきなり出なくても怪しまれるよ。


「なら初めは友人から誘ってみる事にしましょう。」


 そうね、まずはマリアをよく知る人達から攻めていくのが無難ね、友人ならマリアの事も分かってるだろうし大事にはならないでしょう。


「では、オルタナ公女様に声をかけましょう。」


 ……公女と来たか。

 この子の事だから、公女が友達でも驚かないけど、手始めに声をかける人としてはハードルが高いでしょ。

 私が言うのもなんだけど、そんな人に信者になられても困るんだけどなぁ……


「ご安心ください。オルタナ様は優しくてとても素敵な方なので、女神様もきっと気に入ってもらえると思いますよ。」


 そんな素敵な子なら余計に誘いたくなくないんだけど。


「うんこの公女様、愛称は『うん公女』どうでしょうか?」


 公女に怒られろ!


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