え?何この子?魔法だけじゃなくて剣も使えるの?なんか一周回って怖いんだけど。
私は将来有望な剣士であるルイス少年を軽くいなした、我が聖女を見て、少しドン引きしている。
この少年はその剣の実力を評価されこの屋敷に呼ばれ、実際に騎士団団長であるロックからも団員の中でも上位の実力とお墨付きである。
そんな少年をマリアは、久々に握った剣で圧倒してしまったのだ。
いや、名門騎士の家系の家という事を考えれば、馬車を引いたり一人で家作ったりするよりはよっぽど説得力があるんだけどね。
しかし、ルイス少年は大丈夫だろうか?世界一の剣士を目指すと豪語していたのに、まさか自分よりも年下で久しぶり剣を握ったという少女に歯が立たなくて心を折れたりしていないだろうか?
私は少年の顔を窺う。
……うん、大丈夫そうだね。寧ろなんだか、さっきまでとこの子を見る目が明かに変わっているね。
これはあれか、
剣一筋で女性に興味なさそうだったからと安心していたが、この男も注意が必要かもしれない。
とりあえず、屋敷にいる間は嫌がらせ程度にお腹を緩くしておこう。
それからマリアは毎日朝日が昇る頃に、ルイスと剣の打ち合いをしていた。
マリアは剣を交えながらルイスの癖の指摘や剣のアドバイスなどを送り、ルイスも流石と言わんばかりに呑み込みが早く、すぐに修正し、みるみる上達していった。
そして、それから二週間が経ち、入学の日が近づいてくると、ルイス少年は一足先に学生寮に戻ることになった。
「二週間、お世話になりました。お陰でとても有意義な時間を過ごせました。」
「ああ、ここに来た時とは見違えるほどの上達ぶりだった、騎士団の者たちも君に負けられないと活きこんでいたよ。」
「それはきっとマリア嬢のお陰でしょう。」
そう言うとルイスはマリアを見つめ、別れることを名残惜しそうな表情を見せる。
そしてそんなルイスをマリアは笑顔で返す。
「……では、マリア嬢、また学校で」
「はい、ではまた。」
挨拶を済ませると、ルイスは馬車に乗り学園へと戻っていった。
「落ちたね。」
「ああ、落ちたな。」
うん、完全に落ちたね。
それにしてもルイス少年は凄い変わりようだったな、ここに来た頃は剣にしか興味がなかったのに、今じゃどちらかと言えばマリアに褒めてもらいたくて、努力していたようにも思えた。
「結局あの人は姉さんが、うんこの聖女という事は知らなかったのでしょうか?」
「どうだろうな?」
まあ、一応マリアもそれっぽい事は仄めかしていたんだけど、全然聞いてなかったね。恋は盲目というやつだね。
あのギラついていた眼はどこに行ったのやら……
剣士としては成長を見せたけど、同時に何かを失ったようにも思えた。
「さて、では私も準備をしましょう。」
ルイスを見送ったマリアは部屋に戻ると、学園に持っていく物を準備し始める。
そして何故かその準備にはリッド君も付いてきていた。
どうやら変なものを持っていかないか監視に来たようでリッド君はマリアが準備した物を一つずつ確認していく。
「これは?」
すると、リッド君は鞄に入っていた木で作られた人型の置物を見つけ手に取る。
「私が作った木彫りの女神像です、母体となっている女神像は、村に置いてきてしまったので代わりに女神像を作ったのですがどうでしょうか?」
それはマリアが休みの間に黙々と作っていたもので、完成度は非常に高い。
こう言っちゃなんだが、母体より神々しくて、これに憑依出来たら普通に歩けてしまいそうだ。
「女神様ってこんな姿なんだ。」
「はい、ですが実物はもっと素敵ですよ?」
「そうなんだ……でもうんこの女神なんだよね?」
「はい、うんこの女神です。」
「そっかあ、うんこの女神かあ……」
そう言いながら、リッド君は何とも言えない表情で暫く女神像を眺めていた。
そして確認を再開すると、今度は大量の入っていた紙を手に取る。
「姉さん、これは?」
「うんこについてまとめてある資料です。流石にいきなり実物を配るのは難しいかと思いました、なので代わりとしてうんこが好きになるような資料を家にいる間に千枚くらい用意しておきました。」
「千枚……」
そう答えるとまたしてもリッド君は複雑な表情で、その資料の中身を確認する。
恐らく今、彼の中でこの資料は有りか無しかの審議に入っているのだろう。
内容は一般人でも興味をひくような真面目な内容と彼女の個人的主観の半々くらいだ、これを学園でばら撒いていいものかの判断は難しいと思う。
でも私からしたらどうにか譲歩してほしいものだ、何せこの子、初めはうんこを配ろうとしていたんだよ?それを私が、ずっと念を送り続けてチラシに意識を変えさせたんだから。
リッド君は悩んだ末に、無言で資料をカバンの中に入れた、どうやら有りと判断してくれたようだ。
「……まあ、こんなもんか。」
一通り確認し終えたリッド君が、鞄を閉じると一息つく。
「とりあえず、持ち物自体は問題なさそうだね、後は姉さんの行いくらいか。」
「安心してください、決して強引な勧誘などはしないつもりですよ。」
「ああ、うん。それもあるけど……」
そう言いかけたところで、リッド君は言葉を止める。
はっきり言って勧誘以前に姉がうんこうんこ言っているだけでも困るんだろう。
だが、マリアがうんこの聖女である以上これを規制するのは難しい。
彼もそう思っているのか何も言うことなく、ただ諦めたように大きなため息をついていた。
そして、それから数日が経ち学園へと出発する日がやってきた。