──ゴホッ! ゴホッ!!
僕はその日、風邪をこじらせて寝込んでいた。
──ピピピピ。
熱も39.1もある。とにかくしんどい。医者から貰った薬を飲んで、布団で寝るのが一番さ……。
| 《──ワッショイ!》
──ワッショイ!
何やら神輿を担ぐ音頭が聞こえてくる。はて、今日は何か祭があったっけか……?
布団から這い出して窓から外を眺めると、ど偉い長い行列の先頭に金ピカの悪趣味丸出しな御輿が掲げられており、笛の音の合図で僕の家の前に止まると、御輿の天辺で法被姿でばらまきをする女の子が僕の方を見た。
「庶民よ! コレが芽衣子様の力よ!!」
「芽衣子さまぁぁ!!」
僕は熱で幻覚を見ているのではないかと思い、布団へと戻る。ダメだこれは酷い風邪だ。
「コラー! 私を無視するな!!」
外から聞き慣れた幼馴染みの怒り声が聞こえてくる。
先の一件で懲りてなかったのか、あいつは……。
屋根に飛び移る音と共に窓ガラスがガラリと開かれた。誰の仕業だか解りきっているので、僕は布団に潜ったまま寝ることにする。
「芽衣子様が遊びに来てやったわよ! 手厚く持て成しなさいな!」
僕は無視を決め込んだ。
「コラぁ! 起きろぉ!!」
芽衣子の指パッチンの合図でいつの間にか現れた黒服達に、僕の布団は呆気なく剥がされてしまった!
「何? 僕風邪引いてるんだけど……」
「ホーホッホッホッ!! 庶民だから風邪を引くのよ! ま、昔のよしみでお見舞い位はしてあげるわよ! 感謝なさい!!」
「と言うか前回ので止めなかったんだね」
「私は何度でも蘇るわ! そう!
高らかな笑いを残し、芽衣子と黒服達は窓から出て行った。僕の目の前には金で出来た芽衣子像と、何とか条約に引っ掛かりそうなモフモフのマフラーだけが残された。暖かそうでありがたいが、何故か布団は持っていかれたままだ。何故だ……。
数日後、何とか風邪も治り日課のジョギングに励んでいると、河川敷に見慣れぬ段ボールハウスを発見した。
「あれ、もしかして……この展開は…………」
僕は段ボールハウスへ迷うこと無く突入した。
──ゴホッ、ゴホッ!
そこには風邪を引いて寝込んでいる芽衣子が居た。そして芽衣子が寝ている布団は僕から持っていった物だ。
「何よ、また私を笑いに来たの? ゴホッ……」
「風邪、移しちゃったかな?」
「私が庶民だから引いたのよ……ゴホ。だけどね、今回は前回の反省を活かして借金は300万で済んだわよ」
全く変な所でポジティブな人だ……。実に羨ましい。
「お見舞い……」
僕は鞄から悪趣味な芽衣子像を取り出した。メッキかと思って少し削ったがまさかの純金だった物だ。これなら借金は返せるだろう。
「それと……」
僕は先日貰ったマフラーを芽衣子の首に掛けた。
「……本当にバカね…………ゴホッ!」
芽衣子は僕を引き寄せるとマフラーの半分を僕の首に巻き、お互いの顔が直ぐ近くにある緊張感とマフラーの暖かさで、お互いの顔が見る見るうちに赤くなるのが分かった。
そうして僕は芽衣子に顔を寄せた。
元々は僕の持っていた菌だから大丈夫だろう……。