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第23話 俺はソレル家の次男坊 5 (アロイス視点)

 いったいこれはどういうことだ?


 いくら俺が鈍くてもわかる。

 確実におかしい。


 ダルシアク騎士団も異常だ……いや、一部が異常……一部がまともなのか?

 エグランティーヌ様の専属騎士であるイレールたちも異変を察し、水面下で動いていたようだが、父上や兄上たちに阻止されたらしい。


「父上、どういうことですか?」

 俺は父上に直にぶつかるしかない。

「アロイス、父を疑うな。すべてお前とエグランティーヌ様を美しく結婚させるため」

「誤魔化さないでくれ」

「お前の初恋を実らせるためだ。心配するな」

 父上は俺が何を聞いても肝心なことには答えてくれない。

 母上や兄上、周りの騎士たちにしてもそうだ。

 けれど、何か画策している。


 ダルシアク領がこんなに苦しんでいること自体、異常だ。

 これではいつ、領民の暴動が起きてもおかしくない。

 ソレル騎士団やダルシアク騎士団も変だ。騎士たちの俺に対する態度も妙だ。ダルシアク城内は真っ二つに割れているのか?

 使用人たちの関係も不自然だ。


 エグランティーヌ様?

 何か、気づいていらっしゃいますか?

 俺たちの結婚式が迫っています。

 エグランティーヌ様は俺に嫁ぐ準備に追われていると聞いています。


 ……が、俺は婚約者でありながら、そばに近寄ることもできない。

 父上や母上たちは『エグランティーヌ様に不器用なお前が下手に近寄ったら嫌われる。結婚式まで待て』と。

 近寄ることを止められ、俺には見張りの騎士もついています。


 情けない。

 こんなに俺は無力だったのか?


 魔力なんてなんの役にも立たない。

 まずもって、領民が武器を持つことはないだろう。

 しかし、長い歴史を振り返れば、飢えた領民の団結力は侮れない。

 真っ先に狙われるのは、領主一族だ。

 エグランティーヌ様は命に代えてもお守りする。


 ……が、俺の力だけで守ることができるか?

 魔力だけで守り抜けるか?




 迷っていても時は流れる。

 最悪の事態を考慮し、俺は最強と目されている魔法師のコランタンに会いに行った。魔力を駆使して見張りの騎士をまいてから、最北の魔塔に忍びこみ、かけ合った。


「そんなにダルシアク公女を愛しているのか?」

 コランタンに馬鹿にされたような気がしたが、俺は躊躇わずに頷いた。

「……そうだ」

「ダルシアク公女のために命を差しだせるか?」

「あぁ」

 コランタンと交渉が成立し、一息ついた。


 その結果、自分が愚かだったことを思い知る。




 ダルシアク城に領民が雪崩れこんだ?

 火の手が上がった?

 魔力なしの領民がどんな人数で押し寄せても、魔力持ちの騎士団には敵わないはず。

 ダルシアク騎士団やソレル騎士団は何をしていた?


 ……っ……騎士団が領民側に立ったと言うのか?

 エグランティーヌ様やエドガール様の専属騎士たちは?


 ……ソレルが領民たちの救世主だと?

 まさか、ソレルが煽ったのか?

 父上や母上、兄上たちは徹底的に俺への情報を遮断して計画を立て、実行したのか?

 もしかしたら、俺の不在を狙って決行したのかもしれない。


 後悔しても遅い。

 自分で自分が許せない。

 何故、エグランティーヌ様まで?


「父上、エグランティーヌ様はどこにいる?」

 俺は魔力の鎖で父上を拘束した。

 けれど、父上はいっさい動じない。

「アロイス、落ち着け」

「エグランティーヌ様に何かしたら父上でも許さない」

 脅しではなく本心だ。

 母上にどんなに嘆かれても許さない。


「エグランティーヌ様は国王陛下の姪だ。領民がどんなに暴れても手は出せない」

「エグランティーヌ様はどこにいる?」

「保護している」

「どこで保護している?」


 魔力を強め、父上を拘束している魔力の鎖を強めた。首も圧迫したけれど、父上は余裕の態度を崩さない。

 おそらく、想像以上に魔力が強い。

 今まで本当の魔力を隠していたのか?

 父上と真正面から衝突したら、ダルシアク城が崩壊するだろう。城下町が陥没し、領内の山が崩れ、各地で火の手が上がるかもしれない。


「アロイス、魔力を抑えろ。こんなところで爆発させるな」

「エグランティーヌ様はどこだ?」

「そんなに好きか?」

「あぁ」


 エグランティーヌ様は命より大切な女性だ。


「そんなところも兄上にそっくり」

 父上は悲哀を漲らせたが、俺の感情は昂り、魔力が爆発しそうだ。下手をしたら、エグランティーヌ様ごと城を炎に包んでしまう。

「そんな話はいい。エグランティーヌ様はどこだ?」

「お前は私の息子だ。忘れるな」

「父でなければこの時点で殺している」

「お前は私の誇りだ。ダルシアク革命に関わらせたくなかった」

 父上は父親としての愛に訴えようとしたが、その手には引っかからない。俺がいくら馬鹿でもわかる。


「革命じゃない。領民の暴動だっ」

 エグランティーヌ様が生まれ育った土地で革命はあってならない。ソレルが扇動したならなおさらだ。

「エグランティーヌ様は領地が鎮まるまで修道院に避難していただく。早まるなよ。ここでエグランティーヌ様を他所に逃がしても領民を煽るだけ」

「だから、今、エグランティーヌ様はどこだ?」

「エグランティーヌ様は地下牢だ。……怒るな。ダルシアク城で一番安全な場所だ」


 地下牢でエグランティーヌ様を見た時、何も考えず、すべてを捨てて連れて逃げていればよかった。

 あの時ならばまだ魔力は充分あった。

 拘束具もつけられていなかった。


 誰か、俺を殺してくれ。


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