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第25話 私はアロイス様と真実の愛を貫くわ 2 (ニノン視点)

 ダルシアク革命、ばんざい。


 私は女神に愛されているわ。

 地下牢に叩きこまれたエグランティーヌ様、ざまぁ。

 罪人として処刑台まで裸足で歩く姿を見て胸が弾んだわ。あんなに愉快なことはないもの。最高よ。

 ソレル子爵夫人もとっても嬉しそうだったわ。


 アロイス様がいなかったから心配したけれどね。


 ……まぁ、エグランティーヌ様も少しぐらい泣き叫べばいいのに。

 最期まで可愛くない女だったわ。

 これでアロイス様と私の間に障害はないわね。


「お父様、私とアロイス様の婚約を整えて」

 照れ屋のアロイス様はきっと何も言い出せないわ。私から動かないと駄目だと思うの。お父様、お願いね。

「ニノン、まだ早い。わかるね?」

 お父様の言いたいことはわかっている。

「だってぇ……」

「いい子だからもう少し待ちなさい」


 曲がりなりにも国王陛下の姪の元婚約者だから、すぐに私と婚約するのは体裁が悪いわ。期間を置くことにしたの。

 アロイス様は私の結婚するため、ソードマスターになったわ。

 ソードマスターになれば王室だってガタガタ言えないもの。

 さすが、私のアロイス様。


 お父様とソレル子爵……いえ、ソレル伯爵が直に話を進めていたの。

 第四王女様とレオンス様が婚約すれば、ソレルへのやっかみも鎮まるからなんの心配もない。

 すでに婚約式のドレスは仕立てさせたの。

 結婚式のドレスもオーダーしなくっちゃ。


「ニノン、ドレスでも帽子でも好きなのを仕立てなさい」

「お父様、ありがとう」

「お前は美しく装っていればよい」


 ダルシアク革命後、ビヨー男爵家は功績を認められて裕福になったの。子爵にはなれなかったけどね。身につけるドレスも宝石も以前とは桁違い。

 アロイス様のためにもっと綺麗になるわね。




 なのに、なのに、なのに、どういうことよ?

 三歳児とアロイス様が婚約?

 これ、こんなことありえない。


「……ま、まさか……これがエグランティーヌ様の呪い? 死んでもアロイス様を離さない気?」


 エグランティーヌ様は死後も私の幸せを邪魔する気?

 ズルい。

 いったいどこまでズルい女なの?


「ニノン、滅多なことは言うな」

 お父様、ひどいわ。

 どうして、娘が軽んじられたのに平然としているの?


「お父様、こんなことってないわ」

 まさか、第四王女がエグランティーヌ様の生まれかわり?

 あの噂は本当なの?

 違うわよね?


「少し待ちなさい」

 お父様の表情に過ぎし日を思い出したわ。

「……エグランティーヌ様とアロイス様が婚約した時も言っていたわね」

 あの時と同じお顔。


「焦る必要はない」

 ふふっ、とお父様は余裕たっぷりに微笑みながら極上の赤葡萄酒を飲み干したわ。ダルシアク革命後、お父様の酒量が上がったわね。

 隣では異母弟も楽しそうに赤葡萄酒を飲み干すの。とっても美味しそうだけど、私は飲む気になれないわ。


「焦るわよ。第四王女はアロイス様をお気に入り。陛下もアロイス様を認めているから……陛下がソードマスターを婿に欲しいのでしょう?」

 王国にソードマスターはひとりだけ。

 ふたりめが現れる気配もない。


「ニノン、待ちなさい」

「陛下がアロイス様を欲しがったらおしまいよ」

 ダルシアク公爵家は革命で潰れたわ。憎いエグランティーヌ様は公開処刑されたの。でも、デュクロ王国の革命はありえないでしょう。第四王女の処刑もありえないわ。


「アロイス様はお前と結婚する」

「本当に?」

 ……あ、エグランティーヌ様の呪いで第四王女も夭折するの?

 でも、第四王女がエグランティーヌ様なら夭折しない?


「私を……ビヨー男爵を軽んじたら、ソレルの破滅だとわかっているからだ」

 お父様の表情がいつもと違うわ。

 こんな好戦的なお父様は知らない。


「お父様、どういうこと?」

「今のソレルがあるのは私のおかげ」

「えぇ、ソレル伯爵家をビヨー男爵家が支えました」

 ダルシアク革命はビヨー男爵家の力もなければ無理だったと思うわ。

エグランティーヌ様や専属侍女たちを騙すのは大変だったもの。私も必死になって偽情報を吹きこんだわ。クロエやリアーヌも賢そうな顔をして馬鹿ね。イレールは想像以上の馬鹿だったわ。ダルシアク騎士団長や副団長の内心にどうして気づかないのかしら?


「ニノンは何も心配することはない」

「心配するわよ」

 いい加減な言葉で流さないでほしいわ。私のお友達はみんな婚約者と結婚したの。妊娠したお友達もいるのに。


 堪えていた涙が溢れると、お父様は慌てたようにそっと耳元に囁いたわ。

「……ここだけの話」

「はい」

「ソレルの弱みを握っている」


 正直、びっくり。

 あのソレルに弱みがあるの?

 それもお父様が握っているの?


「どんな弱み?」

「ソレルを潰せる弱みだ。今のソレルなら国王陛下の決定も覆せる」

 お父様の言葉に同意するように、異母弟が不遜な目で大きく頷いたの。……まぁ、異母弟が頼もしいじゃない。


「要はソレル?」

 国王陛下の権力よりソレルの権力?

 確かに、今のソレルの力はすごいわ。

 王族出身の侯爵夫人も宰相夫人も、ソレル伯爵夫人のお取り巻きのだもの。


「そうだよ。ニノンはアロイス様と愛を育みなさい」

「どんな弱みを握っているの?」

「そなたが女王の義姉になる弱みだ」

「……え?」


 王太子殿下の命は空前の灯。

 たぶん、第四王女が次の王太子殿下、女王陛下に即位されるわ。

 それは異母弟が王配になる、ってことですの?

「将来、私は君主の義父になる。ソレルは我が家門次第」


 お父様と異母弟の顔は自信に満ち溢れているわ。

 信じていいの?

 ソレルより我がビヨーのほうが強いの?

 どんな弱みなのか、しつこく頼んでも教えてくれなかったけど、お父様は昔から私に嘘はつかないわ。

 異母弟は私に逆らわない。

 信じるしかないわ。


 アロイス様、ふたりのために頑張りましょうね。

 ウェディングドレス、オーダーしますわ。


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