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正体

第10話

二人の旅が始まって一月と半分が過ぎた。

リサと共に達成した以来の数はトウリンの採取依頼を含めて三つになる。


他の二つは魔物を討伐する類のもので初めての討伐では緊張した様子だったリサも二回目の討伐では随分と慣れた様子を見せた。


戦うのは基本アレン一人だが、リサはアレンが魔物を討伐する準備をよく観察しそして手伝った。


「本人がなりたいというのなら手伝ってやればいいさ」


とはヘキリア高地を旅立つ際に最後にヨナ婆がアレンに伝えた言葉である。「デーモンスレイヤーになるかどうか」の話だ。


今現在、リサがどう思っているのかアレンはよくわかっていない。魔物狩りの準備に興味を示すところを見るに関心がないわけではなさそうだったがまだ彼女から直接「戦い方を教えてほしい」と言われたことはなかった。


アレン個人の思いとしては「わざわざ血なまぐさい世界に足を踏み入れる必要はない」と考えている。

復讐心から父親を捜す自分とは違って彼女の不幸の元はもう既にいない。それを抜きにしても彼女は父親に特別関心がなく魔物のことも特別憎んではいなさそうだったから。


「できることならリサには平穏な生活を送ってほしい」とアレンは思うのだった。

しかし不安なこともある。


半人半魔という異質な存在はまだ世間に広く認知されてはいないのだ。見た目だけで言えば人間と区別のつかないアレンはまだいい。

しかし一目で魔物と区別されるような特徴を持つ半魔の子はそのまま魔物としての扱いを受けてしまう。


アレンが気にしているのはリサの耳だった。

獣と酷似したそれは人間にはない特徴である。


平穏な生活を選択しても彼女は素性を隠して生活しなければいけない可能性がある。果たしてそれで幸せになれるのか。

それならばいっそデーモンスレイヤーとして活動した方が身を守ることにもつながるのではないだろうか。


アレンの中ではここ最近そんな考えが堂々巡りしていた。


「アレン? どうしたの?」


町を前にして深く考え込んでいたアレン。心配した様子のリサがその顔を覗き込んだ。


「……ごめん。考え事してた。さあ、フードを被って。町に入るよ」


ハッとしたアレンは何でもないように取り繕う。それから彼女の耳を隠すためローブについたフードを深く被らせた。


リントリールという辺境の町にたどり着いたのは二日ほど前だ。

辺境にしては比較的栄えた大きめの都市でアレンは依頼を探した。


デーモンスレイヤーの以来の受け方は基本的に二通りある。

町で直接魔物被害に困っている人を探すか、あるいはデーモンスレイヤーを統制する教会から直接依頼指示があるかだ。


腕のいいデーモンスレイヤーのは教会から直接難易度の高い依頼が入る。それ以外のデーモンスレイヤーは町で直接聞き込みをして依頼を探し経験と実績を積む。


デーモンスレイヤーになってまだ半年足らずのアレンは教会から直接依頼を受けたことはまだなかった。


いつものように町で情報収集をして獣タイプの魔物を討伐する依頼を受けた。

一晩かけてその依頼を達成しリントリールに戻って来たというわけである。


「なぁ、すまんがもう少し安くならんかな。それか一部物々交換にしてくれると助かるんだが」


酒場の店主は代金をアレンに支払った上でそう頼んだ。

教会に依頼状を出すよりも町に訪れたデーモンスレイヤーに直接頼む方が依頼料は安い。

それでも決して出しやすい金額ではない。


「すいません。規定なので……」


とアレンが答える。

デーモンスレイヤーの受ける以来の報酬は教会が明確に定めている。アレンはその中でもできるだけ最安値になるようにしているがそれでも十分すぎるほど高い。


しかし既定の報酬を貰わなければアレンが教会から罰せられてしまうため下手に価格を変えることはできなかった。

酒場の店主は残念そうな顔をしたがアレンが申し訳なさそうな顔をしたのを見て引き下がることにした。


「いいさいいさ。あの魔物を倒してくれて助かった。ありがとよ兄さん」


そう言ってアレンの肩を叩く。アレンは少しホッとした。


「チッ……金の亡者め」


舌打ちが聞こえる。

横目に確認すると酒場の奥で数人の男たちが酒を飲みながらアレンの方を見ている。


その目つきが彼らがどう思っているのかを明確に表している。いい感情ではない。


アレンは気にしないことにした。

町のために魔物を倒してもそういう目で見られるのは良くあることだ。いちいち反応していたらきりがないし、絡まれないうちに離れた方がいい。


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