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第23話

ダンは今までの話を踏まえてどうすればアレンとリサが人と上手く関係値を気づけるのかを考えた。


「なぁ、無性に近い報酬で魔物を退治するのはダメなんだよな」


思わずそんな質問をしてしまう。アレンはその質問に少し申し訳なさそうに頷いた。


「すいません。そこは教会の方針に従っていないと、デーモンスレイヤーとしての資格をはく奪されてしまうんです」


本心ではアレンもデーモンスレイヤーが破格の金額で依頼を受けることに難色を示している。

しかし、教会は頑なにそこの方針を変えない。

「父親を捜す」という当初の目的を果たすために今はまだデーモンスレイヤーの資格を失うわけにはいかない。


さらに資格を失えない理由はもう一つあった。


「実は僕、正式なデーモンハンターというわけではないんです」


話の流れ、そして一度告白を受け止めてくれた相手だったこともありアレンは前よりも素直に自分の秘密を明かした。


「試験は突破しました。普通の人ならば正式なデーモンハンターと認められるであろう成績を修めています」


問題となったのはアレンの素性である。


「魔物を狩る」という職業柄、デーモンハンターの中には魔物を察知する能力に長けた者が多い。

それを管理する教会には熟練のデーモンハンターもいる。


アレンが素性を隠してもその身体の中に魔物の血が混じっていることはどうせバレる。それならばアレンの素性をあらかじめ明かしておこうと師匠のヨルムは考えた。


「こいつ半分魔物だけど、問題ないよな」


試験を受ける前、会場について来たヨルムは試験官のデーモンハンターやその場にいたお偉方にそう宣言した。


異例の出来事。当然反発を食らう。


しかし長く一流のデーモンハンターとして教会を支えて来たヨルムを無視することもできない。

教会側は渋々アレンが試験を受けるのを認めた。そして、アレンはその年の試験を受けた者たちの中で飛びぬけた能力を見せつけたのだ。


困ったのは教会のお偉方である。

アレンが試験を受けた後、難癖をつけて不合格にしようと思っていた。アレンが好成績を修めたことでそれは難しくなったが「半分魔物」な者を「デーモンスレイヤー」として認めるわけにもいかない。


そこで取った苦肉の策が「仮合格」だった。


「デーモンスレイヤーとして活動することは認める。しかし、其方が本当に人間に害を成す存在ではないのか見極める時間が必要だ。一年……一年後に再び審問会を開き、そこで最終的な判断を下す」


教会側はアレンにそう伝えた。

前にオーシャムの村付近でアレンの兄弟子、シオンが言っていたのはそのことだ。


「僕が今、何か教会の意に反することをすれば教会は即座に僕の『資格剥奪』を宣言するでしょう。それが意味するのは僕がただデーモンスレイヤーではなくなるということだけじゃない」


意味するのは教会からの「魔物認定」である。

アレンが資格を失えばそれがどんな理由だろうと教会はアレンを「人に仇なす存在」とする可能性が高い。半分魔物という扱いづらい存在をそのままにしておくとは考えられない。


すぐにでも協会に所属するすべてのデーモンスレイヤーに通達されるだろう。「アレン・オーランドを殺せ」と。


そうなれば父親を捜すどころではなくなる。まして、「人に受け入れてもらう」というリサのために思いついたアレンの新たな目標は幻想のまま泡となって消える。


デーモンスレイヤーという厄介な肩書はアレンを他のデーモンスレイヤーから守るための「期限付きの盾」でもあったわけだ。


「なるほどな……。すまん、事情も知らずに無責任なことを言った」


ダンはそう言って謝罪した。

事情を知らなかったとはいえ簡単に「報酬を下げる」などと提案したことについてだ。


「しかしそうなると……ますます難しいな。お前さんがどれだけ人のために尽くしても町の人間はそれを『デーモンスレイヤーとしての仕事』だと思っちまう。正直、デーモンスレイヤーを見る町の人間の目は濁っていくばかりだぜ」


苦悩するダン。その様子にアレンも少し暗い気持ちになる。


その時、店の扉が力強く叩かれる。

アレンは顔を上げてダンの方を見た。


表には「閉店」の札が出ているはずだ。それにその叩き方は尋常ではなく、緊急性のあるものだった。


「まさかバレたのか」という言葉がアレンの頭の中に浮かぶ。

この店に来るまで目深くフードを被り、人の目に気を付けながら目立たないようにしていたつもりだ。

しかし、誰かに見られていたのかもしれない。


ダンはまず仕草で「おちつけ」とアレンに伝え、それから店の奥を指さす。

厨房の食糧庫だ。「そこに隠れていろ」という意味だった。


アレンは頷き、身を隠す。

ダンは素早く飲みかけのお茶を片付けて「誰かがいた」痕跡を隠してから今も尚叩かれ続ける扉に向かった。

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